『こんなとこ』
たしかに、スザクは弔いではなくとも一人で下界におりることがある。
シュンカのからだの一番奥が、何かにつかまれたように苦しくなった。
ツバキは内緒の話を続けるように体を寄せた。
「 ―― ほら、お坊さんって種を残しちゃいけないっていうでしょ?だからきっと、気をつけてるのよ。 いい男だしあの体つきだからほかの子が声かけんだけど、まるっきり相手にしないで、ランねえさんしか呼ばないし」
「どんだけおしゃべりなんだい、ツバキ」
いきなり奥の暗い廊下からの声に、ツバキが小さな悲鳴をあげた。
現れたこの店の主人である女は、ほどいた髪を流したまま、シュンカにいらっしゃいと声をかけた。
「スザクのバカを迎えにきたのかい?」
「い、いえ、そういうわけでは・・・」
「シュンカ?」
聞き覚えのある声に、肩をちぢめた。
現れた男は着物の帯をしめながら、隣にどすりと腰をおろす。
「こんなとこでなにしてる?」
こんなとこで悪かったね、とおランが煙草盆をだす。
シュンカは顔もみられないまま、坊主に言い訳した。
「 せ、・・・セイテツさまに頼まれた買い物に。それで、ちょっと、―― ツバキさまはどうしていらっしゃるかと、・・・気になりまして」
「やーん、あたしのこと? ほんっとシュンちゃんてかわいいのね」
女の細い腕がからまり耳まで染めたシュンカが、すみません、とそれをほどいて立ち上がる。
これ以上、ここにはいられない。




