ここに いた
「―― もう、笠なんかかぶってるから、ちょっとまよっちゃったあ」
声をかけるのに、と女は慣れない手つきでお茶をだす。
先日の詫びをいい、今日はどうしたのかと裏から招き入れられたのだ。
「・・・その、―― 先日の買出しでは足りなくて、絵の材料を買い足しにきました」
「へえ。テツさんまだ忙しいんだ・・・」
「もちろんツバキさまのことも気にかけていらっしゃいますけど、ずいぶんと時間がかかるようです」
あわてたようなそれに、女はくすりと笑う。
「いいのよ。客はテツさんだけじゃないもの。 ―― それより、シュンちゃん一人でここに来たってことは、お客として?」
「いいいい、いえ、違います!その、えっと、」
「あ、もしかして」
そこでツバキが細い指をたてた。
「お坊さんのお迎え?」
「 ――― え? 」
「あのお坊さん、有名なんでしょ? スザクだっけ?ランねえさんしかつかないけど」
「・・・・おランさん、・・・ですか?」
「そうよ。あのお坊さん、昔ランねえさんが面倒みてたんだって。 セリっていう占いをするねえさんもいて、で、ある日テツさんが迎えにきて、『上』に連れていかれちゃったって。 あ、これってここだけの話しだからね」
「じゃあ、ここに?」
「たぶん。 ここ建てかえる前は、ねえさんは普通に客とるほうだったし、お坊さんはここの若い衆みたいなかんじ? 腕はたったっていうし、アッチもよかったって」
「・・・・・・」
「あ、お坊さんだから今はないわよ。でも、ときどき今日みたいにふらっと寄ってくのよね。 テツさん迎えにくるのとは別で、 ―― ランねえさんに会いに」
女に会いに。
――― おもいが伝わっていないんじゃ




