誰をまつ
―― 7 ――
からからと一斉にまわりだす赤い風車は、まだあの場所で売っていた。
買い終えたものを大事に懐に抱えたシュンカは、その音と様子にみとれていた。
「ねえ」
いきなり背中から声。
ぼうっとしていたせいか、気配もかんじとれなかったが、ふりかえればツバキとおなじ歳ほどの若い女が立っていた。
たちのぼるおしろいの匂い。ゆるく結った黒い髪。きっとむこうの色街の女だろう。
着物はツバキとは違い、ずいぶんと地味で古いかたちの着こなしだった。
ねえ、と女が横にくる。
「 あんたさ、このまえ、あの風車買ってもらってたろ?」
「え?あ、まあ」
ツバキの他にも若い女に見られていたのを知り、顔が熱くなる。
「おれが、ものほしそうな顔したから、買ってくれたんです」
「へえ。ねだるの上手そうだねえ」
「ねだる・・・まあ、そうなっちゃうのかなあ・・・。あの人すごく優しいから、そういうのにすぐ気が付くんですよ」
「へえ。ずいぶんといいイロつかんでるね」
「い!?っち、ちがいます!あの人は、おれの、つかえてる人の一人です」
隣の女はじろじろとシュンカをながめ、いきなり笠をもちあげた。
「 ―― なんだい。色街のチゴじゃないのかい?どっかのお抱えかい?」
あわてて笠をひきもどし、そんなんじゃありません、と言い置いて足をすすめた。
「 《あの人》が違うっていうと、 ――― ほかに、だれのこと待ってるんだい?」
女の声に思わず足をとめた。
――― 待ってる?
いつのまにかまた、女が横にいる。
「だって、あんた、『だれか』のこと待ってるじゃないか」
「・・・いえ、べつに、」
「ああ、そうか。待ってるんじゃなくて、伝えたいとおもってるんだね?」
「伝えたい?」
「手伝って、やるよ。あんたの想い。 ―― しっかり相手に伝わるように」
「・・・・何を言ってるんですか?」
「その相手、いま、この先の色街にいるんだろ?あんたの知ってる店にさ」
「え?ちがう。 あの方は、 」
「行ってみてごらんよ。―― おもいが伝わっていないんじゃア、ほかの奴にとられちまうよ」
ざああああああああああ
突然のつむじ風。
―――― 目をあければ、女はもういなかった。




