風がなくとも よくまわる
まだ腹を立てているので、あの話はスザクには伝えていない。
シュンカ本人には遠巻きに、気をつけるよう言ってある。
「この前のヒョウセツさまのみたてのことなら、きっともう、すんでますよ」
「だといいのだがなあ・・・」
「ええ?あれ以上ひどいことがまだ起きるのですか?」
「いや、そういうわけじゃ、・・・」
気づけばシュンカが、ものすごく優しい顔で笑っている。
「―― わかった。では、頼もう」
はい、と嬉しそうに返事をするのに、笠をかぶるようしっかりと言いつける。
「バカ坊主はどうした?」
「・・・スザクさまでしたらセリさまに呼ばれて参の宮へ」
「そっか・・・」
いるのならば、一緒に出させようと思っていたのだがしかたがない。
そういえばセイテツさま、とお茶を片付けるシュンカが思い出す。
「セイテツさまに買っていただいた風車、とてもよくまわるんですよ」
「そりゃ、風車だからなあ」
「それが、風がなくともまわるのです」
「は?そんなわけねえだろ」
本当です、夜になるとちょっとまわるのですとシュンカがいたずらに成功したように微笑む。
「 ―― 近くで書物の紙をめくるだけで、車がまわるのです」
あれも風が起きるからですね、と言うのに、そういうもんか?と眉をあげた。
「ためしに手であおいでもまわりましたし、息を吹きかけたら、それはそれは見事な速さでまわりました」
あれは羽がものすごく軽いのですねと嬉しそうにするので、絵師は笑って筆を握りなおす。
次に描く女には風車を持たせてもおもしろいなと考えながら、見本の粉をシュンカに渡した。




