筆がのる
―― 6 ――
うーーん・・・と唸る絵師はくわえた筆を歯でかんだ。
――― 顔料が、足りねえ・・・・
いくらかけてもいいと言われていたせいか、今度の絵には、かなりの力をいれている。
書き込みも色のせもいつもの倍はかけていて、この前に買い足した顔料がもうすぐきれる。
が。
「・・・・行きたくねえなあ・・・」
なにしろめずらしいほど、筆がのっているのだ。
なじみの女をひと月ほど放っておけるほどに。
この前シュンカを連れて行ったときは、なんだかちょうど気分的に区切りがよくて足をむけたのだが、今ここで、おかしな区切りをつけたくなかった。
そのとき扉のむこうから遠慮がちな声がかかる。
「セイテツさま、よろしければお茶でもお持ちいたしましょうか?」
「おおシュンカ、たのむよ」
用意していたらしく、すぐに扉がひらき、盆にのせた茶をさしだされる。
邪魔しないようにすぐにひきあげようとするその手を引く。
「せっかくだから、たまには見てくれ」
「・・・いいのですか?」
おずおずと体をさしいれたシュンカが床のそれをながめ、小さな声をあげた。
「うあ・・・すごくきれいな方で・・・えっと、目の毒です・・・」
最後はそのこぼれた乳房のあたりに目をさまよわせた。
すっかり男の感想をもらすようになったのを嬉しく思いながらお茶をのんでいると、顔を赤らめたシュンカが、あれ?と道具のほうに首をまわす。
「セイテツさま。この前買い足したものが、もうなくなりそうですね」
「うん、そうなんだ・・・・」
出したままの瓶の中、残り少ない赤と青の粉をながめるシュンカが振り向き、おれ買ってきましょうか?と申し出る。
「いや。・・・それは」
「瓶の中身を少しお借りして、同じものをくださいとお願いします」
「いや、買い間違いを心配してるわけじゃなくてだな・・・」
「これでも時々、一人で下界につかわされるんですよ?」
シャムショの手伝いやスザクの遣いをしてるのは知っている。
それでも渋っているのは、この前のヒョウセツの話しが気になっているからだ。




