セイテツは絵師でもある
じゃあなんだ、という絵師に、わかりません、と弐の宮の大臣はこたえる。
「―― 言えるのは、先に起こる凶事よりも、あとに待つ吉事のほうがはるかに大きいということです」
「そんな。おまえにしちゃひどくたよりないなあ・・・」
「自分でもそう思いますが。とにかく、少しの不幸が、ここで起こるはずです」
気を付けてくださいというのに、不幸なあ、と絵師は頭の布を乱暴にとった。
「もしかしたら、そりゃ、起こったあとかもなあ・・・」
「え?もう何かありましたか?」
どうやらコウセンはあのことを、ほかの大臣には話さなかったらしい。
セイテツは一昨日あったばかりのことを話した。
「―― まあ、そんなんで、おれは女に蹴り倒されて、シュンカはおれのせいで、頬を打たれるわ、クソ坊主にひどいこと言われるわで、ひどいめにあった」
「で? あなたはまだスザクと仲たがい中ですか?」
「シュンカがいっしょうけんめいあいつをかばうから、手をだすのはやめたが、おれはまだ腹が立ってる」
こうやって絵の仕事がはいっていてなによりだった、と描きかけのそれを示す。
今回頼まれたのは下界の大店からの仕事で、《金屏風に映える女》を描いてくれと言うものだった。
――― 先に金屏風あり。 ってか。
セイテツはこの仕事も好きだが、これはあくまで金をもらための仕事だと割り切っている。
とにかく、相手が気にいるものを描くことに意味があるのだ。
すこしばかり品のある、色っぽい女などいかがか、と聞けば、店主は手をたたきあわせ、そりゃあいい、とくに色気がこの辺りから漂うなんてのがいい、といやらしい手つきでどんなぐあいの色気がいいかを伝えてきた。
材料費も惜しみなく出すという上客だ。
一度ついてくれれば、ほかの客を紹介してくれる。




