うそ
うんざりしたような絵師の言葉に腕を組んで首をかしげた男が、ようやく何かに思い当たったようにシュンカを見た。
「――― そうか。・・・シュンカ、・・・もうすぐ、十七か?」
「はい・・・」
先ほどとはちがい、恥ずかしがるようにうなずいた小さな頭を、セイテツは抱え込む。
「あのなあ、おまえが思ってるほど、シュンカはもう、こどもじゃねえよ。 今日だって、シュンカを叩いておれを蹴倒した女にな、『うそ』をついてまで、仲をとりなおそうとしてくれたりして」
うそ?と坊主は眉間をよせ、シュンカをみる。
その視線からかばうようにさらに抱え込んだ絵師は続ける。
「おれは女の髪飾りなどみたててないのに、さも気にかけてるように話をつくってくれてな。 おかげで女の機嫌もなおったよ。さらに、ここに戻ってシャムショを通るときには、アキラに心配かけないようごまかしの『うそ』を言い、そのうえコウセンに問いただされると、思いもよらない『うそ』をついて、おれも感心したよ」
シュンカの歳ならさもありそうな出来事をつくった話だ。
聞いた坊主はシワをさらに深め、むっつりと黙る。
「どうだ? コウセンも、『うそ』とわかっても黙ったぞ。 ―― こんなふうに、うまいぐあいの『うそ』もつける歳になったんだ。いいかげんこども扱いするのは、」
「うまいぐあいの『うそ』をつくのが、おとなになったってことか?」
いきなり低い声が、にやけた絵師の言葉を断ち切る。
「・・・・そういうわけじゃ、・・・スザク?おまえ、なに怒ってんだ?」
珍しく、坊主のどこにも、いつものあきれたようなめんどくさそうな空気がない。
おいシュンカ、とひどく冷めた声が続けた。
「そんな『うそ』がうまくなっても、いいことなんざねえぞ」
「・・・はい・・・もうしわけ・・・ありません・・・」
絵師が抱えた頭が、小さくゆれ、消え入りそうな声がもれる。




