しばらくは
「セイテツさま、・・・スザクさまは、どこに行かれたんでしょうか?」
台所で食事の支度をはじめながら、シュンカはなにげないよう口にする。
「まあ、ヒョウセツのところだろ。きのう、なんだか書物を借りたと言っていたしな」
読み終えて返しにでも行っているのだろう。
シュンカの背中が、安堵したように丸くなる。
「―― すぐ帰ってくるよ。ヒョウセツもいっしょかもしれないぞ」
「それなら、ヒョウセツさまのお好きなものにしようかな」
急に献立が変わったようだ。
シュンカはシュンカで、こんなに優しくて素直な子だ。『きれい』だというのはその容姿をべつにしても、中身がいちばん美しいとセイテツは思う。
そんな相手に、あの馬鹿坊主がそういうたぐいの想いをもつなんて、これっぽっちも想像つかない。
――― 大事だとおもうことができてる時点で、あいつにとっちゃ上出来か
かろやかな包丁の音をききながら、考える。
こんな、ゆっくりでじれったい想いも、いつかは自分のよく知る、肉欲のからむ想いへとかわってゆくのだろうか。
――― ま、しばらく無理だろうな
「あ。スザクさまが戻ってこられたようです」
気配にいちはやくシュンカが微笑む。
台所のわきの草花が、ささやくように伸びあがったのは、見慣れた光景だった。




