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Busted!

ご注意。

本作品には飲酒に関する描写がありますが、未成年の飲酒を推奨するものではありません。またこの世界の成人は16歳です。

 四人は別の夜に再会した。


 前と同じく、ウィロウはジェロームを付添人として参加した。しかし挨拶を一通り済ませた兄は意気揚々と踊りに行ってしまい、しずしずと隅に寄った。


 向こうに華やかな集団がある、と思ったらビリージョーがつまらなそうに空を見ながら打ち寄せるドレスの波を、つまり淑女たちを避けているところだった。


「こんばんは、ビリージョーさま」


 天の助けとばかりにウィロウ嬢、と喜んでいる。ご令嬢たちの誘惑を捌くのに辟易していたのだろう。


「あの……」


 取り囲む女性たちから引き離したほうがいいのだろうが、上手い言い訳を思いつかない。あんたなんなのよ、と突き刺さる視線が痛い。


「ウィロウ嬢。あちらで二人で話そう」


「は、はい……」


 周囲に口を挟む隙を与えずウィロウに負担にならない速度で他を撒く。


「助かった、ありがとう。ジェローム殿は?」


「あの中のどこかで踊っているはずです」


 くるくるひらひらしている円を見やる。


「ウィロウ嬢は踊りたいか?」


 顔色を変えて、カクカクと首を横に振る。


「私があそこに行くと、花々がしおれるんです」


 彼女の意図を読みかねて、しばしきょとんとした。


「……そのこころは?」


 なぞかけみたいになってしまっている。


「家族に踊るなと厳命されてるんです……」


 下手すぎて、という語尾は消え入りそうになっている。

 花々、とは優雅に踊る人々のことを指していた。ウィロウが混じると、もろもろが台無しになる。


 せっかく誘おうとしていたのに、彼女のほとほと勘弁してくれ、という顔がおかしくてビリージョーは笑ってしまった。色男の誘いを断るのもウィロウくらいのものだろう。意外だったが、正直なウィロウは好ましい。


「そうか。では無理強いはしない」


「ありがとうございます」


 目に見えて安堵するので少し意地悪をしたくなった。


「逆にどれほどのものか見てみたい気もするが」


「やめてください……。どうしてもというなら、兄から聞いて……うう、やっぱりいや……」


 扇子の存在も忘れ去り、顔を両手で覆う。


 クィアンナとの踊りに慣れたビリージョーなど、踊りに自信のある女しかダンス・パートナーにしてこなかっただろう。そんな彼に知られたくなかった。


「もう言わないから顔を上げてくれないか。……俺が泣かせているみたいだ。からかいすぎた、ごめん。ジェローム殿にも訊かないから。きみは大事な友人だから泣かせたくない」


 謝る声がことさら優しくて、胸がきゅうとなった。





「俺が苦手なものを知っているか?」


 そろり、と頭を持ちあげてふるふるとする。


「ウィロウ嬢の苦手なものを暴いてしまったから、俺も教えよう。 “Sir(サー・) John(ジョン・) Barleycorn(バーレイコーン)” のことを」


「どなた……?」


 少なくともウィロウは会ったことがない。ビリージョーは目を細めて、彼女のイヤリングへ口づけするかのごとく囁きかけた。


「 ”Booze()”のことだ。 “Barley(大麦)” を擬人化してそう呼ぶ」


 民衆の間で詩や歌の形で広まってはいるが、ウィロウは詳しくなさそうだ。


「そんな……兄がいる場では兄に押し付けてくださいね! 私が近くにいるときは、私が代わりに飲みます」


「ウィロウ嬢は耐性があるのか?」


「普通、です。近頃は兄が飲むので世話をするために避けてましたが、とくに嫌いではないですし」


 お酒には弱いの、と聞いてもいないのに報告してくる令嬢が多い中、ウィロウはやはり際立つ。


「今夜は飲まれましたか?」


「一杯二杯は」


 苦手とは言っても、ビリージョーの父と比べて、だ。父は「酔うという感覚がわからん」と豪語する強者で、息子も酒で混迷したことはない。


 ウィロウが笑ってくれれば、と言ってみた冗談だったのだが逆に心配されている。ビリージョーのほうが相好を崩してしまった。


「お水はいかがですか?」


「酔ってないから」


「それは立派な酔っ払いの常套句です」


 顔色を確かめるためにずいっと背伸びをしてビリージョーを見つめた。ウィロウのきらきらした真剣な琥珀の瞳に吸い込まれる心地がする。


「……近くないか?」


 ひそひそ話をする距離よりもずっと密接していて、ともすると腕の中に閉じ込めておけそう。


「え、……あっ……」


 首まで赤くして、これではウィロウのほうが酒に酔ったみたいだ。浮いたかかとを下ろす。


「失礼しました……」


「いや、いい」


「ど、どこか座りましょう。酔いが醒めるまでじっとしていてください」


 まだウィロウの中でビリージョーが酒に酔った設定は生きている。


「賛成だ」



Busted!

(バレた!)


補足。

【Sir John Barleycorn】サー・ジョン・バーレイコーン

16世紀とか17世紀に元は詩だったものに歌がつけられ口伝で民衆に普及した。

大麦を擬人化してビールやウィスキーの制作過程を表現したもの。



Apr 14th, 2023

不要と思われる文章一部削除しました。流れに変更ありません。

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