Willow and Qiannah.
兄の期待は外れて、それ以降お呼びがかかることはなかった。
だから言ったじゃない、とウィロウは呆れた。ただの友情で、幼馴染がごめんね、の気持ちは一度のおもてなしで清算される。
クィアンナからは遊びに誘われもしたが、そこにビリージョーどころか男がいることはなかった。はじめの失敗を反省したのだろう。
だからこの場はクィアンナとウィロウ、二人きり。
「前回のお茶会では中座させてしまってごめんなさい。体調を崩したと聞いたのだけれど、こちらで口にしたものがよくなかったのかしら? 申し訳ないわ」
「いいえ、私が食べすぎただけで、出されたものはとても美味しかったです」
「そう? 乳製品だったからもしかしたら、と思ってしまって。念のため今回はよく火を通して乾いたものを揃えたわ」
香辛料が練り込まれたクッキーを差し出す。
「いただきます」
さくり、と軽い食感。香ばしい中に、ほんのわずか苦甘さがある。
「クミン、ではないのですね」
細長い種子の見た目はよく似ていた。
「ヒメウイキョウの種ですわ。消化によいのですって」
本当に心配をかけてしまったようだ。礼を言って、もう一枚手に取った。
「あの夜までウィロウさまとはお顔を合わせたことがないわ、と不思議だったのだけれど、外に出る前にも踊ってはいらっしゃらなかったわよね?」
「私は踊りは苦手なのです」
「まぁ。そうなの?」
「だから、ディナーにお呼ばれはしても、ダンスを踊るような場はほとんど出ていないのです」
「ではあの場で出会えたのは奇跡ね」
失恋で傷心した兄を見ていられなくて、憂さ晴らしと新しい出会い探しに付き合った結果でもある。
「クィアンナさまは、踊りもお得意ですよね」
「そうね。ダンスは好きよ。なんなら小さい頃にどうしても男性パートを踊ってみたい、ってわがままを言ってビージェイに女性パートを踊らせたこともあるわ」
貴族の子どもは、四歳ほどまでは男女の装いに違いはない。だからクィアンナとビリージョー、どちらが男で女なのか使用人たちをよく混乱させていたくらいだ。
「ええっ……」
この世広しといえど、そんな横暴を働けるのは公爵家のクィアンナだけだろう。
「一曲お付き合いくださる?」
この小首をかしげる仕草に男性陣はしてやられるんだろうな、とウィロウはほっそりした彼女の手をとった。
令嬢二人でダンス。字面は夢溢れるが、ウィロウの踊りはクィアンナのリードをもってしてもガタガタだった。それはもう、床に倒れ込まなかったことを褒め称えたいほど。捨て身で取り組んだからかクィアンナの足を傷つける事態にはならなかったが、自信は消失させてしまった。
「わたくしの体が小さいせいかしら……」
それは関係ないと思えたが、ウィロウは恥入って言及を避けた。
「ご指導ありがとうございました……」
「踊りたい気分になったらおっしゃって。いつでも応じますわ」
いろんな意味でクィアンナは眩しかった。
Willow and Qiannah.
(ウィロウとクィアンナ。)
Jan 7th, 2024
誤字報告ありがとうございました!