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Beautiful princess shining like the morning sun.

こちらまでいらしてくださりありがとうございます。

大した山も谷もありませんが、飲酒についての描写があるのでR15です。

 一曲も踊らず夜会の果実水だけで過ごした体には、夜風は冷たすぎる。それとは逆に酒を飲み続け、帰り際に「酔いを醒ましてくる」と建物の外に出て行ってなかなか帰ってこない兄を探しながら、ウィロウはむき出しの腕をさすった。


「オレを好きだと言っていただろう?!」


 茂みの中から穏やかでない声が聞こえて、つい足を止めてしまった。男女のもつれか。


「昔は、そうでした。でもーーいやっ、やめて!!」


 怯える女性がそこにいる。自分のことでもないのに、ぞぞっと全身に鳥肌が立った。


「お兄さま!! どちらにいらっしゃるの?」


 ウィロウにできたのは、声を張り上げることだけだった。すぐここに人がいる、しかもこれからやってくる男もいるだろうことを知らせる。兄の居場所がわからず探しているのは本当だ。ただ、あの茂みに突っ込んでいく勇気まではない。


 ひら、と飛び出たのは空の月にも負けじと輝く優美な女性だった。


「レディ・クィアンナ……?」


 ブロイトン国が誇る、薄明のようにきらめく美姫。

 社交界へ登場してからというもの、常に恋する蝶(エモフィリア)と裏で呼ばれる公爵家の一粒種。ウィロウの胸に飛び込んできた。同じ女とわかっていても、抱きしめたくなる。というか彼女のほうからしがみついてきた。黒い影が木の枝をかきわける。


「あちらに逃げましょう」


 少女たちは手に手を取って、ヒールで駆けた。


「お兄さまぁー!!」


 合間に叫ぶことも忘れない。途中に誰かいないものだろうか。

 チェリー・ローレルでできた生垣(ヘッジ)を抜けて、頭だけで後ろを振り返るとゆらめく人影があった。早歩きで追いつく自信があるのだろう。こちらは頼りないヒールとドレスなのだから。


「ウィロウ!!」


 兄の声だ。大きく目を見開いて、ベンチから立ち上がっている。安心して力が抜けると同時に、抱き止められた。


「あいつに何かされたのか?!」


 こちらに男がいるとわかって、立ち止まって生垣へ引き返した姿がある。

 恐ろしい剣幕にいち早く答えたくはあったが、全力で走った後で呼吸もままならない。


「……いえ、私では、なく、」


「わたくしが、巻き込んだのです」


 隣でクィアンナが同じように男の腕の中にいた。


「クィアンナ、まったくきみは……」


 知り合いであろう彼の胸を手で押して離れる。


「お説教は後にしてちょうだい。いまはこの方にお礼を。

 声をかけてくださってありがとうございました。わたくしはクィアンナ・ドーガティと申しますわ」


 名乗りを聞いて、兄が「うへっ」と紳士らしくないしゃっくりを上げた。最高位貴族を前にして失礼だが、気構えもなく遭遇してしまっては腹筋もひくつく。

 それでも妹の付添人として、勇ましく立ち直った。


「レディ・クィアンナ。

 私どもはディラード子爵家のジェロームとウィロウです」


 クィアンナが正式な礼を取って挨拶を受ける。その横で男も名乗った。


「ビリージョー・ホーガンです。クィアンナのパートナーの俺からもお礼を申し上げる」


 では次期伯爵の、と思い出す。並んだふたりは定められた運命を持っているかのように、お似合いだった。


「大事がなくてよかったです。お兄さまたちは、何をしてらっしゃったのですか?」


「ここで鉢合わせして、なんとなく会話が弾んでな。すぐ戻るべきだった、すまない。早く帰ろう」


 クィアンナが目線を送る。


「お待ちくださいませ。ウィロウさまを近いうち我が家にお招きしてもよろしいでしょうか?」


 驚きはしたが、ウィロウが頷いたので兄も許可した。





 ディラード兄妹と別れた帰りの馬車で、ビリージョーが重いため息をついた。


「クィアンナ、人目のないところで男に近づくなと言っただろう」


「着いていくつもりはなかったけれど、ごめんなさい。でもねビージェイ、わたくしだって怖い思いをしたばかりなのよ」


 ビリージョーはこのいたいけな子犬のような目に弱い。これに勝てた試しがない。クィアンナに想いを寄せる他の男どもと同様に。

 他と違うのは、ビリージョーが許可なく彼女の手に触れても許されるという点ぐらい。さらに彼女は幼馴染を愛称で呼んでくれる。


「……そばにいなくて悪かった」


 パートナーを置いて外に出た。ビリージョーの非であるとして素直に謝った。


Beautiful princess shining like the morning sun.

(薄明のようにきらめく美姫。)

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