やさしさ
目の前の希望に向かってがむしゃらに歩みを進める。体力の限界で足がほつれそうになるがそんなことは知ったこっちゃない。俺にはもう町しか見えてない。売店のカレーパン争奪戦を思い出す。あの時も、がむしゃらに人ごみの中へ突撃していったな。
「あともう少し……あと少しだぁぁーーー!!!」
最後の力をふり絞り、町の入口へとたどり着いた。
「はあ、はあ、よく持ってくれた俺の体。休ませてやるからな」
ろくに運動もしていない体にムチを打ってここまでやってきたが、本当に限界を迎えたようだ。町の入口に座り込んでしまった。
動こうにも意思とは反して体はいうことを聞いてくれない。ここのままここに座り込んでいたら、いい笑い者だ。目立って仕方がない。せめて立ち上がろうと足掻くが、それもかなわない。
「諦めよう。別に門番とかもいないし、誰に見られたところで他人だ。名前も知らん奴らにどう思われたところで構わないか」
俺は悟りを開き、大の字で寝っ転がった。
座っているだけでもだいぶ楽だったが、寝っ転がるのはレベルが違うな。疲労が回復していくのを感じる。
目を閉じ体力の回復に専念する。これでしばらくしたら動けるようになりそうだ。
いつの間にか軽い眠りについてしまっていた俺は、周囲のざわめきで目を覚ました。
「ちょっとあれ誰よ? あんた話しかけてきなさい」
「え? 私? でもこの町の住人じゃないわ。もしいきなり襲い掛かられたりしたらどうするの?」
「見たところただ疲れて寝ているようだけど、仕方ない。ここは俺が話しかけてみよう」
どうやら、俺のことを不信がった住民たちが集まっているみたいだ。
そんなに警戒しなくても俺は無害ですよ。
上半身を起こし、周囲を見渡す。
「お、起きたぞ。みんな離れろ!!」
一人の男が俺から距離をとるよう指示を出す。
心外だな、だから俺は何もする気はないんだって。ちょっとアピールしておくか。俺に害意はないってことを。
「安心してください。俺は、怪しいものじゃありません。森で迷ってしまって何とかこの町へたどり着いただけです」
俺の訴えに周囲の住民が反応する。
「やっぱり疲れて寝てただけじゃないか。俺の見立て通りだっただろう?」
「森で迷うなんて一体どういうことかしらね。ワレスの森には整備された街道が通っているはずよ。おかしいと思わない」
「そんなに疑うのは可愛そうよ。きっとモンスターに襲われた命からがら逃げてきたに違いないわ」
俺に対する憶測が飛び交う。残念ながらどれも不正解なんだよなぁ。実際には俺は、神様に転生させられた異世界人だ。これを予想できる人がいたらそいつもきっと俺と同じ境遇なのだろう。とりあえず、モンスターに襲われたっていう案をいただいておこうか。
「一人で旅をしていたら、急にモンスターに襲われてしまって。それで、荷物も全部おいて逃げてきたんです。どうか信じてください」
俺は悲しそうな声で再度訴えた。
必殺泣き落としはまだ取っておこう。といっても男が泣いてすがってもみっともないだけかもしれないけどな。少しは効果があるはずだ。
「ほら、こう言ってることだし誰かこの人に食べ物と水をわけてあげて」
「モンスターに襲われちゃしょうがない。俺がパンをもってきたやろう」
「それじゃあ、私が水をもってきてあげるわ」
「すいません。ありがとうございます!!」
精一杯頭を下げてお礼をいう。
なんていい人たちなんだ。こんなハードモードの人生にもいいことってあるんだな。この町の人たちにはきっと恩返しをしよう。今の俺にできることなんてほとんどないけど、何か手伝えることはあるはずだ。
俺は、住民の人がもってきてくれたパンと水を貰った。
実は腹も減っていたし、のども乾いていた。本当に感謝だ。もし、この町の住民が誰も俺を助けてくれなかったと思うとすげぇ怖いな。今頃俺は無一文で町をさまようことになっていただろう。そして動けなくなって……いやいや、助かったんだからそんな想像する必要なんてない。やめておこう。
住民の人たちは俺が食べ終わるのを待ってくれている。早く食べ終わっていろいろお礼をしなくちゃな。
パンを口に詰め込み、水で一気に流し込む。
「ありがとうございました。おかげで何とかなりそうです」
「それはよかったな。それで? 君はどこからやってきたんだい?」
「ちょっと遠くの町からです。一人旅を楽しんでいたんですけど、さっきもいった通りモンスターに襲われてしまって。俺も戦闘用のスキルがあればよかったんですけどね」
本当にスキルがマシだったら助かってたんだろうけどな。モンスターに襲われてしまっていたら俺は今頃お陀仏だ。
「災難だったね。荷物をおいてきたってことはお金もないんだろう?」
「はい。何か仕事はあったりしますか? なんでもやらせてもらいます。やらせてください!!」
俺はやる気アピールをする。ここで何も仕事をもらえなければ土下座して食いつないで行くしかない。何か仕事があってくれ。




