第十七話 ドン勝つでもちゃんぽんでもなく
結論から言おう。私達は、自腹でオムライスを食べることになった。
最終円まで残った私たちは、ラスト3部隊となったところで敵の物資武器(マップに稀に落ちている強力な武器)のスナイパーライフルによって高橋くんが落とされてしまい、残り一人となった私があっけなく2部隊からの集中砲火を受け、脱落した。
「惜しい試合だったね」
オムライスの端をスプーンで切り取り、口に運ぶ高橋くん。
「私、一人になった瞬間何もできなくなった」
「まあ、二人でやるゲームだからね。先に落ちちゃった僕がその意味じゃ戦犯かな」
ケチャップを卵の上で伸ばしながら、それを写真に撮るのを忘れていた事を思い出す。あわててスマホを取り出して写真を取るが、黄色い卵の生地をべっとりとケチャップが覆っている様子は、どこかグロテスクだった。
「その写真。撮って、どうするの?」
「インスタに上げたりするんだけれど、これはちょっと……逆に面白いか」
私はそう言いながら、ポッと投稿ボタンを押した。うん、なんかシュールでいいかも。
「え。なんてIDでやってるの?」
私のインスタグラムのIDを教えると、高橋くんは自身のスマホでそれを調べ、しばらくして青ざめた。
「ちょちょちょ、僕の手が写ってるよ。大丈夫?」
「あー、大丈夫かな」
これがアイドルとかなら問題かもしれないが、私はあくまでモデル。なんだかマネージャーさんは色々と仕事を持ってきてくれているけど、ファッション誌のモデルの仕事以外は学業を理由に断ってきていた。まあ実際にはほとんどTBに時間を費やしていたんだけれど。
「それに、あまりにもこのオムライス、タイムラインから浮き過ぎてない? なんか、乗っ取り被害に合ったみたいになってるけど……」
「そ、そんなに浮いてる?」
まあ確かに、直近の写真はスタバの新作とか、撮影現場でもらったお菓子とか、ネイルとか、そういうのだったので、そこにケチャップが適当に塗りたくられたオムライスという対比はすごい。そこが面白いと踏んでの賭けだったのだが……。
「まあ、それも大丈夫でしょう」
一旦それは傍におき、オムライスを一口食べる。……う、うまい。卵はふんわりと焼かれて香ばしく、中のチキンライスは粒はパラパラなのに噛むとしっとり、よく卵と絡んでくれる。
「美味しいね、これ」
しばらく食べ進める。店内は先程までの注目が嘘のように、普通のレストランの空気に戻っていた。メイドがオーダーを受けて、運んでいる、それだけが秋葉原要素だ。
というか、これ、デートじゃない?
そう思いながら、水をごくりと飲む高橋くんに目をやる。喉仏が動くのを見て妙にどきりとしてしまう。
「さっきの試合。負けちゃったけど、なんだか、楽しかった」
「それは、どうして?」
「わからない。けど……今までやったマッチの中で、一番ドキドキしながらプレイしてたと思う」
そう伝えながら、様子を見る。高橋くんは……別にどうにもなっていなかった。全く動じていない。あれえ?
「もともと、二人で対面してプレイすると、そういう利点が多いとされてるゲームだからね。言葉で伝えなくても考えが伝わったり、息を合わせやすくなったり」
うっ。まさに、私が試合中に感じていたことで、そしてこれから滔々と語ろうとしていたことを先読みされてしまった。
まさかこのまま、鈍感で耳が遠い系主人公みたいに聞き流されてしまうだろうか。
「……でも、僕も楽しかった。なんというか、やっぱり前にやった時よりも柔らかく感じたというか」
「え? そ、そうだった……?」
「僕の意見を聞こうとしてくれてるのは、伝わってきたよ」
そう言って微笑む高橋くん。あ、アクセルとブレーキを同時に踏まれてる気分……。
「……あのさ。もしよかったら、今夜とか、二人でまたTBを……」
「あーごめん。夜は、リオラと二人でやる約束が毎日入ってるから」
私はオムライスに顔をつっこみそうになった。




