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第十五話 メイドレストラン

「……あの、他のみんなは?」

「適当にご飯食べに行ったみたい。僕はちょっとトイレ行ってて、みんなには先に行って貰ったんだ」

「そ、そうなんだ……」


 会ったは良いけど、朝の駅での待ち合わせの再現だ。気まずい時間が流れる。


「……えっと、それだったら、よかったらお昼を一緒に食べるとか、どう?」

「うん、いいよ」

「良いの? 幼馴染じゃないのに?」

「幼馴染じゃなくても、お昼ぐらいは食べるでしょ」


 そ、それもそうか。もしかしたら私はちょっと敏感になりすぎてるのかもしれないな。


――――


 秋葉原の街に繰り出すと、意外とそこにはスーツ姿の社会人が沢山いる。実際、モアカラーが入っているこのビルもそうだし、このあたりはオフィスビルが多い。


 けれど、そこから1、2分ほど歩くと、流石と言うべきか、様相がこれぞ秋葉原と行ったようなものに変わってくる。看板を見ると、「中央通り」と書いてある。そのまんまの名前だなあ。


 けれどその名の通り太い大きな道路を中心に、その両脇に並ぶ建物は、電気屋にゲーム屋さん、パソコンショップ、アニメショップ、ゲームセンター……そんなものが延々と、道路のこちら側から向こう側まで、延々と続いている。


 なんでこんなに電気屋さんが同じ場所に集まってるんだろう。コンビニですらローソンとセブンが隣り合ってるのを見るくらいで、そこにファミマとミニストップがさらに並んでるなんて光景は見たこと無い。


「……それを言うなら、銀座だってなんであんなに服屋がたくさん並んでるのかわからないけどね」

「いやでも、服屋さんはお店によって、デザインとか違うから……」

「でも実際ね、ああいう電気屋さんもお店によって、微妙に扱ってるラインナップに傾向の差があって……」


 あれ? 意外と結構、普通に喋れてるな。でもやっぱり冷静に考えると、同じ学校の同学年なのだから、そりゃ当たり障りない会話くらいはできるよね。


「お昼、何か食べたいものとかある?」

「そうだなあ……アニメとかで有名な牛丼屋さんとか、ゲームとコラボしてるラーメン屋さんとかあるけど……折原さんは何か好みとかある?」

「えっと、パフェとか、クレープとか……」

「あー、しょっぱいもので」

「オムレツとか、オムライスとか、あとカルボナーラとか好きかな」

「卵系が好きなんだ。なるほどね」

「……そういえば、言ったこと、無かったね」


 中央通りの横断歩道は、妙に待つ時間が長い。まあこれだけ幅の広い通りだから仕方ないのかもしれないけれど。


「反対に、高橋くんの好きなものは知ってる。寿司と、すき焼きと、スイカ」

「く、詳しいね」

「すが付くものが好き、って覚えてる」

「あー、それはちょっと幼馴染感あるかなあ」

「え」


 青信号になると同時に高橋くんが歩き始める。だけど、私は先に進めない。

 高橋くんはそれを振り返って。


「……ごめん、冗談。ちょっとさ、悔しくなったんだ。君が僕の事を知ってくれてるのに、僕は君のことを知らなかったってことに」


――――


 高橋くんが知っているという洋食屋は、「メイドレストラン」なるものだった。要するにチェキとかは無いが、ケチャップに名前を書いてくれるくらいのサービスはある、そういうレストランらしい。ただ奥の方に居るシェフはメイドとかではなくガチガチのコック帽を被った本物っぽいので、その面では信頼が置けそうだった。


 そして店頭の看板を見ると、そこには。


「Two-Body コラボキャンペーン実施中! カジュアルマッチでチャンピオン取れたら、お一人様一品ずつ無料でご提供!」


「へえ、丁度いいかもね」

「……あー。どうだろう。私、最近やってないから」

「え、どうして?」

「どうして、って……あんまり、気分じゃなかったから」


 といったけれど、シンプルに関係がこじれる最大の切っ掛けであったゲームに、ちょっと嫌気が差してやる気が全く起きない、というのが正直なところだった。最近は起動すらしていない。


「じゃあ、やめよっか?」

「やる」


 くるり、と高橋くんの首がこちらを向いた。


「大分急カーブ曲がったね」

「なんか、逃げるのはよくないなって思ったから」


 中は意外にも、あるいはコンセプト通りなのか、かなり品がある落ち着いた雰囲気だ。客層は昼休憩のビジネスマン半分、電気街の散策中のオタク半分、といったところか。え? 見た目でオタクだって決めつけるなって? じゃあ、オタクのコスプレをしている人半分。


 キャンペーンに参加したい旨をメイドさんに告げると、「キャンペーン参加2名!」とメイドさんが声を上げた。え、ちょっと。


 そう思うやいなや、恐れていたとおり周囲がやんややんやと騒ぎ出す。


「お、参加者来たな」

「高校生くらい? デートかな」

「いや、やっぱゲームって反射神経が命だから、若い人がやっぱり一番強いわけで……」


 ちょ、やめてって、注目集めたくないって。


「わあ、すごい視線だ」


 そんななか、高橋くんは意外にも堂々としている。周囲に対して軽く手をふるような余裕もあるようだ。ちょっと、解釈不一致なんだけど。


「け、結構余裕だね」

「僕、隣に自分より緊張してる人がいると、割と平気なタイプなんだ。怖いのとかも、自分より怖がりの人がいると平気だし」


 そんな、他の揚げ足取ることに特化したスキルが存在して良いのだろうか。


――――


 公式とコラボしたキャンペーンらしいので、今回遊ぶアカウントはお店が用意したアカウントだ。


 ヘッドセットをかぶるためにツインテールを解くと、周囲から「おお」というどよめきが漏れる。


「店員さん、ちょっと集中したいので囲いとか用意できます?」


「かしこまりました」


 割と慣れているのか、さっとパーテーションが引かれ、その奥から落胆の声が漏れる。見世物じゃないっての。……といいつつ、店頭とかに私達のプレイ映像を流すことがキャンペーン参加の条件なので、見世物ではあるんだけどね。


「久しぶりだね、二人でTBやるの」

「そ、そうだね」


 キャラの選択画面でお気に入りのキャラをピックする。訓練場でエイム調整をするが、なんだか弾が当たらない。


「……ごめんなさい、やっぱり調子が悪いかも」

「そっか」


 高橋くんは少し逡巡するように間を開け、


「……じゃあ、僕がオーダーするから、折原さんはそれに着いてきて」


短編小説のアイデアがぽこぽこ出たり投稿したで、こちらのペースが落ちていますが、折返しには来ているので走りきりたいと思います。

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