Room14 再会、想起するかつての箱
規則正しく等間隔になるアラーム音が僕の鼓膜を打つ。このベッドで寝起きする事にも流石に馴れ始めたみたいだ。時間を確認すると設定されているAM7:30を正確に表示していた。僕は起き上がり、昨日起きた事、ルーム内で行った事を頭の中で纏めながら身支度を整えた。僕がここに訪れてから数日で余りにも多くの変化が起こっていて、通常であれば混乱しているはずなのに、僕はとても冷静で全てを受け止めてしまっていた。そう言った順応性が僕の特色なのかも知れない。感情に左右されない故の順応性なのだけれど。あれ程陽さんが僕の中に居た間、沸き続けていた力に対する欲求も今は影を潜めてしまっている。
シャワールームで髪を洗いながら昨日、僕の中に陽さんが居た事を思い出していた。寂しさを感じていた訳じゃない。元々僕はずっと一人でやってきていた。それに、今日だってきっと会えるはずだ。それよりも、初めて感じたあの感情の流れを再び僕は自分のものとして蘇らせる事が出来るだろうか、僕の人間性を取り戻す事ができるだろうか、そんな事を考えていた。
一通りの動作をこなし、部屋のドアを開けて廊下に出る。どうやら僕は、今日は伊勢君に先を越されなかったようだ。すぐに隣の部屋の扉が開き、眠そうに瞼を擦りながら伊勢君が登場した。僕に向けて片手を挙げて歩み寄る。
「おお、那世。今日は早いじゃないか。初めて先を越されたな。正直俺、朝は弱いんだよ。今度は俺を起こしに来てくれ」
そう言って伊勢君は壁に寄りかかった。どうやら体調があまり良くないようだ。
「大丈夫ですか? 誰か呼んできましょうか?」
僕の体では支えきれないと思ったので、僕は阿須間君に助けを求めようと考えて彼の部屋に足を向ける、けれどすぐに伊勢君に肩を掴まれてしまった。
「いいって、それに只由なら多分、とっくに食堂に行ってるはずだ。あいつ、規則や時間には厳しいからな。それよりも、飯だ。疲れを癒すには飯が一番ってね。早く行こうぜ」
伊勢君はそう言って僕を置いて走り出す。僕は伊勢君の背中を見送ってゆっくりと歩いていると、再び引き返してきた伊勢君に無理やり手を引かれて階段を滑るように下ろされた。
「ほらほら、早くしろよ。ったくお前といいありさといい、そんな事じゃ充分な体力つけられねえぞ」
そんな事を言いながら僕を強引に走らせている伊勢君は、やがて階段を降りきった所で急停止した。僕は勢いが止らず前進を続けてしまうけれどそれを無理やり伊勢君に引き戻された。
「伊勢、何度言ったら解るんだ。階段は走り降りる所じゃないんだよ。紅葉さんはね、伊勢の体の心配をして言っているんだ、と言うのはこれまでの論だよ。けれどね、こう毎日同じ事を言わされたんじゃ、流石の紅葉さんの鋼鉄製堪忍袋の尾も切れそうだ」
硬直する伊勢君の顔に必要以上に紅葉さんが顔を近づけて言った。僕は何故か話題の外のようだ。テーブルには阿須間君、相模さん、名瀬さんが椅子に腰を下ろして落ち着いていた。名瀬さんは呆れ顔で、阿須間君は何もなかったかの様に平然と、名瀬さんは笑い顔で僕等の状況を見ていた。
「いいじゃないすか、今日は時間に余裕があるでしょう」
伊勢君が思い切り近い位置で目線を合わせる紅葉さんから目を逸らす。
「何が良いのかな? 間に合わなければ走っても良いと言うなら話は通じるけれど。余裕があるのなら尚の事走らなくて良いはずじゃないか。まあ、どちらにしても許しはしないけれどね。ひょっとして伊勢、この紅葉さんの気を引くためにあえてこういった事をしてるのかな?」
「安心して下さい、それは絶対に無い」
「ならしっかりルールは守らなければいけないね。次はどうなるか、本当に解らないよ。覚悟しておく事だ」
紅葉さんが伊勢君の言葉を予想していたのか間髪入れずそう言うと、思い切り伊勢君の背中を叩いた。すると伊勢君が、がくりと腰を落とす。
「大袈裟じゃないか。いや、夕貴、体調が悪いのかい?」
紅葉さんは素早く動き、腰を落とすと伊勢君の額に手を当てる。伊勢君はすぐにその手を払ってしまった。
「だ、大丈夫ですよ。俺は只、紅葉さんを驚かせたかっただけですから」
「夕貴、無理はしてはだめだよ。具合が悪いなら正直に紅葉さんに伝えて欲しい。これでも多少の事ならなんとかやれるくらいの自信はあるんだ」
紅葉さんは僕達に何が起きているかの経緯を知らない。伊勢君が疲れている原因も解らないから不安なのだろう。
「俺は大丈夫ですって。飯、飯にしましょう」
紅葉さんは納得していない様子で立ち上がる。
「しようがないね。負けたよ、本人が悪くないって言うのじゃ納得するほか無い、か。そうそう入間君、君も駄目だよ。伊勢に乗せられてばかりじゃこれから先、君にも何かしらの罰を紅葉さんが用意しなければならないな」
紅葉さんは伊勢君の手を握り、立ち上がらせるともう一度伊勢君の顔を覗き込み、席に座れと促した。
「やれやれ、君達ときたら全く強情だ。未だに紅葉さんは隠し事をされ続けている様で気分が落ち着かない。舞もあんな状態だから仕方が無いかも知れないが、もう少し紅葉さんにも頼って欲しいよ。まあ、今はそんな事を言っても仕方が無い、取り合えず朝食を食べようか」
僕も席につき、いただきますの号令の後に用意された朝食に箸を出す。今日は純和風の朝食が用意されていた。お味噌汁、白米、野菜漬、焼き鮭の切身。それらを僕は黙々と食べきった。今日の名瀬さんは眠気もないようでゆっくりと朝食を口に運んでいた。舞さんの復帰を予想できるためか、皆昨日よりも顔色や纏う空気が明るく変化している様なそんな気がした。
食事を終えて食器を片付けた後、僕は紅葉さんに舞さんの病状はどうなのか、この寮に近い内に帰ってくる事ができるのかを訊こうと思っていた。けれど、僕の前に相模さんが紅葉さんに問いかけてくれた。
「紅葉サン、訊イテイタダキタイ事ガ有ルノデス。舞サンノ状態ハ良好ナノデショウカ? デキレバ面会ヲオ願イシタイノデス」
「ああ、昨日の夜の時点では梓は何とも言えないと言っていたね。結局、あの原因不明の人格増生で生まれた子が舞の人格を抑えてしまっていると言っていたね。もしその状態が続くようならば、一度全ての検査を初めからやり直す必要が有るんだそうだ。紅葉さんも何とかしてあげたいけれど、こればかりは専門医に任せた方が良いと思う。解った、これからまた連絡してみようと思うよ。心配だろうからね」
「済みません、それと自分達の今日の予定なのですが、昨日の事が有るので何か変化がないか確認をさせていただきたいのですが」
阿須間君が続けて問いかける、そうだ。阿須間君達は昨日の一件で免除された検査が有ると言っていた。それが今日に移行するかもしれない、それが聞きたいのだろう。
「ああ、忘れていた。そうだね、今日は舞の一件があった後だから、君達全員一度脳波測定と簡単なバイタルチェックを行うって通達が来ていたんだ。面倒だろうけど我慢してもらいたい。君達の健康に関する事だ、けして悪い事では無い訳なのだから」
「えー、やっぱりそうなるんやんか。うちの予想通りやわ」
名瀬さんがうな垂れながら言葉を洩らす。紅葉さんは僕らを一通り見回した後確認するように言った。
「一応言っておくけれど、簡単なバイタルチェックに関してはこれから頼むつもりだよ。君達
の様子がなんだかおかしいからね。特に夕貴と尋。紅葉さんの目は誤魔化せないよ。どうせ見破られるくらいならば始めから言ってくれればいいんだ。他の皆は念のため、やっておくに越した事はない。さあ、忙しくなるよ。さっさと片付けて行こうじゃないか」
紅葉さんはそう言って一人一人の背中を叩いて行動を急かす。伊勢君と相模さんがお互いを見つめて苦笑いをするのを僕は視線の端で捉えていた。
「さて、私は舞の事を確かめなければならないから、先に病院に行っているよ。各自時間には必ず病院に来るように。今日は九時三十分にはロビーに集合だね。おそらくそこで三森君が待っているはずさ。夕貴と尋は無理なら来なくて良いよ。その代わり、来なかった場合、この紅葉さんがきっちり看病するからね。まあ、今のところ大丈夫そうだからあまり心配はしてないが無理はしないで欲しい、これれは私の本心、さ。それじゃ行ってくるよ」
紅葉さんを見送ると伊勢君がすぐにうな垂れた。
「あの人、こういう所は鋭いんだよな。尋なんて俺が見たところ普段と全く変わってねえのに。何で気がつけるんだよ」
「私ハタダ、少シダケ顔ニ出ニクイダケナノデスケレド。デモ、流石紅葉サンデスネ。上手クヤレテイタト思ッテイタノデスガ」
相模さんはタイプの後に静かに溜息をつく仕草をした。
「それはそうと、本当に二人とも大丈夫やの? 夕貴なんてふらついてたやんか」
「久々にあれを使うと違うな、結構堪える。でもな、このくらい大した事じゃない。心配するなよ」
「私モ心配ハゴ無用デス。気ニセズ普段ト変カワラズ接シテ下サイ」
名瀬さんがそう聞いて二人が答える。僕には伊勢君と相模さんの体の動きを見ると、結構我慢しているのではないかと思えた。ふと、僕は二人の姿を見て舞さんの事を思い出す。今日の予定がどう運ぶか解らないけれど、舞さんとの面会は外せない事の様に思えた。
「今日、舞さんに会いに行くことは出来るでしょうか?」
「出来るさ、と言うより、必ず会いに行く。約束した事だからな」
僕の疑問にすぐに伊勢君が答えた。伊勢君がそう言うのならばそうなのだろうと僕は納得する。けれど、上手くいくだろうか。
「紅葉サンガ病院ニ居ル事デスシ、頼ム事ガ出来レバ何トカナルノデハナイデショウカ?」
「うーん。どやろか、取り合えず訊いてみんと何ともいえへんよね」
「取り合えず今日すべき事は今の所、自分達には決める事は出来そうもないですね。一先ず病院についてどの程度診断に時間がかかるのかを聴いてから、いつ舞さんに会いに行けるか話し合いましょう」
阿須間君がそう括りをつけると、僕等は全員で頷いた。
僕等は其々に歯磨きなどすべき事をこなし、自由に動いた後、時計が9時を指すのを見て病院へと向かった。僕は特別すべき事も無かったのでテーブルの上で食事の後だからだろうか、眠そうにしている名瀬さんをずっと見つめていた。名瀬さんは始めは僕に対して色々反応していたものの、その内眠気が来たのか動かなくなってしまっていた。そんな名瀬さんを伊勢君が叩いて起こし、寮から出ると五人で横並びになり、病院までの道のりを歩いた。
歩幅が違うためか、少し遅くなり気味の僕を気遣って相模さんが遅めに歩いてくれるので、他の三人から離れてしまう。すみません、と僕が相模さんに対して謝ると、それに気がついた三人も僕を待って歩幅を抑えてくれた。どうやら伊勢君と阿須間君は考える事が有るらしく、ずっと無言で歩き続けていた。名瀬さんは変わらず眠そうで体を脱力させて歩いている。ふと気がついたように相模さんがタイプし始めた。
「ソウデシタ、紅葉サンニ聞カナケレバナラナイ事ヲ聞キ忘レテイマシタ」
ああ、そういえばと僕も思い出す。二人の体調の事ですっかりあの女のこの事を聞くのを忘れていた。
「あの、女の子の事ですよね。青く長い髪の」
相模さんが頷く。僕は続けて疑問に思っていた事を口にした。
「思ったのですが青い髪となると、もしこちら側に存在しているのならば相当に目立つ存在なのではないですか? とすると簡単に見つかるのでは」
「私モソウ思イマス。ケレド、少ナクトモ私達ハソノ様ナ女ノ子ハコレマデニ見タ覚エガ有リマセン。モシカシタナラバ別場所ニ居イルノカモシレナイ。ケレド、言ッテシマエバ白イ髪ノ入間君モトテモ目立ッテイルデショウ。デモ、マダ入間君ノ事ヲ知ラナイ人達モ数多ク存在スルト思イマス。コノ病院ノ敷地ハ広イデスカラ」
僕は思った、女の子が出来れば簡単に見つかって欲しいものだなと同時に、自分の体調が悪いにも拘らずここまで僕を気遣ってくれる相模に感謝しなければと。
病院のロビーに辿り着くと三森先生が受付前で待っているのが見える。それを確認して僕等がそこに近づこうと歩んでいると突然背後から僕に向かって駆ける靴の音が聞こえ、それを確認する前に僕は誰かに抱き上げられてしまった。
「久しぶり、那世くん。約束通り会いに来たよ!」
遊世だ、少しの間離れていただけなのに、随分と長い間会っていなかった様にその声が遠く聞こえた。それよりもなぜここに遊世がいるのだろうか?
抱き上げられた僕を見つめて他の四人が唖然としている。当然といえば当然だろう、彼等は遊世を知らないのだから。すぐに抱き上げられた僕の姿を確認して三森先生が慌てて近づいてきた。
「あなたは、入間君の妹さんでしたか? 随分と急に、あらかじめ伝えておいて頂ければ正式に会う機会を用意したのですが、こういった事は少し、困ります」
遊世はどうやら正式に連絡を通して僕に会いに来た訳ではないらしい。それにしてもだとしたら、ここで会えた事は奇跡的だ。
「良いじゃないですか!だって那世くんは私のたった一人の家族なんですよ。何時会いに来て
も」
「駄目だよ遊世、先生を困らせたらいけない。良いんだよ、僕はもう寂しくないから。僕にも仲間や友達ができたんだ。それよりも遊世、どうしてお前がここにいるんだよ」
「私はずっとここで待っていればいつか那世くんが通ると思ったの。だって、連絡してみても何時の事になるか解らないよ。私はすぐに会いたかったんだよ。でも、友達って本当? この人達がそうなの?」
相変わらず直行的な行動を繰り返しているみたいだ。それだと会えない確立の方が高いと思う、それに酷く非効率的だ。僕が妹との会話を繰り返している内に周りの皆が我にかえったように笑い出した。
「この子が那世の妹だってのか? 見た目はどう見ても逆だよな」
「ふうん、かわいいやん。こんな妹さんがいるなんて那っちは幸せ者やね」
「自分には兄弟がいないのでこのような可愛らしい妹さんが居る入間君が羨ましいですよ」
「入間君ハ兄弟ガイラッシャッタノデスネ。フフ、私ニモ仲良クサセテ下サイ」
遊世は皆の反応を見て何故か泣きそうになりながら挨拶する。
「私は入間遊世と言います。那世くんの妹です。どうか、那世くんをよろしくお願いします」
そう言って改めて頭を下げた。何故遊世がそこまでするのかが僕には解らない。
「遊世、もう良いよ。なんで僕の為にそこまでするんだ」
「いいの、那世くんは気にしなくて。そっか、那世くん良かったね。私また、那世くんが前の学校の時みたいに孤立しちゃったらって心配してたんだよ」
遊世は僕を下ろして背中に頭を当てたまま、少しの間隠れるようにして何も言わなくなった。
「随分と兄弟想いな妹さんだな。それをみてると、俺は弟を思い出すよ」
伊勢君がそう言って、遠くを見るように目を細めていた。
「済みませんが、皆さん。この後に診断があることを忘れていませんよね。入間君の妹さんには悪いのですが、彼等はこの後大切な検査があるのです。とはいえ、折角ここまで来ていただいたのですから。なんとか昼には時間を空けて貰えるよう調節しましょう。それはそうと、遊世さん? ですか。お時間は大丈夫ですか?」
三森先生が気を使ってくれたみたいだ。突然の事なのに対応してくれる三森先生はやはり偉いなと思う。
「あ、はい。大丈夫、です。済みませんでした。私、思ったら行動せずにはいられないタイプなんです。ごめんね那世くん、お友達のお兄さんお姉さん達も済みませんでした」
「気にせえへんで良いよ。うちもいっぺんに目が覚めたわ。これで暫く持ちそうやし。逆にお礼いいたいくらいやも」
「そうだな。気にしなくて良い。後でゆっくり話しでもしよう。俺達の診断が終わるまで結構かかるけど大丈夫なのか?」
名瀬さんと伊勢君が積極的に遊世に話しかけている。どうやら興味の的とされてしまっているらしい。
「私、今日一日学校休みですから。聞きたい事、私も沢山あります。だから待ってます。那世くん、また後で会おうね」
「それでは君達が診断中、私は彼女に病院の案内でもしてあげましょうか? まあ、仕事もありますが、なんとか午後集中する事で出来ない程の量ではないですからね」
僕はありがたいなと思い。三森先生に頭を下げた。
「ありがとうございます。妹の事、少しの間ですがよろしくお願いします」
「どうやら私は両者から頼まれ事をされているようですね。出来る限り頑張りますよ」
三森先生はそう言って笑った。
「そうそう、この後なのですが入間君、相模さん、伊勢君は精神科に。名瀬さん、阿須間君は内科に向かって下さい。そこで係りの者が待っていると思いますので。私はこのお嬢さんをご案内致しますよ」
そこでふと、僕は舞さんの事を思い出して聞いた。継いで、女の子の事も聞いてしまう。
「そうだ、三森先生。舞さんは大丈夫なのですか? それと青い髪の女の子を知りませんか?」
先生は一瞬戸惑いを見せた後、眼鏡の中央を指で押さえた。僕の横では質問する僕を訝しげに見つめる遊世の姿があった。
「青い髪の女の子? その子がどうかしたのですか? 残念ながら私は存じてはいませんが。舞さんに関してはどうやら、先日のような症状は今日は息を潜めているようですね。けれど何とも原因が予測できない状態ですから暫くはこちらで療養、という形にせざるを得ないでしょう。昨日現れた人格が突然消失、というのも考え難い状況でしょうから。もっともこれは梓先生の受け売りですがね」
全く関連性を感じない質問を同時にしたために先生が戸惑ったのか、その辺は良く解らないけれど、どうやら先生は女の子に関しては知らないらしい。舞さんの症状を理解するのは先生達には難しいのではないかと思う。あの女の子は今は完全に消えてしまっているんだ。
「舞サンニハ面会ハ可能デショウカ? 紅葉サンニ同一ノ内容デ頼ンデイタダイテイルノデスガ」
「それは、恐らく可能と思います。なんでしたら昼の時間に皆で面会できるよう調節しておき
ましょう。折角入間君の妹さんもいらっしゃってくれている事ですし。そんな事よりも青い髪の女の子がどうかしたのですか? 何故突然そんな事が気になったのです?」
どうやら僕は失敗をしてしまったらしい。こうなるならば聞かなければ良かった。
「イエ、私達ガ見ル夢ノ中ニ、同ジ姿ノ青イ髪ノ女ノ子ガ出テキテイル事ニ最近気ガツイタンデス」
相模さんが機転を効かせてくれたようでそう伝えると、三森先生は一瞬驚きを見せてそれを隠すように再び指で眼鏡を押さえると僕等に聞いた。
「それは、本当ですか? 確かに青い髪の女の子なのですね? それは、どういう事なのでしょうか……」
「もしかして、先生何か知っているのか?」
「いえ、こうなってしまった以上、知らないといっても説得力に欠けるでしょう。今は時間が有りません、後程話しましょう。さて、皆さん各診察室まで向かって下さい。私はエスコートが有りますからね」
そう話を打ち切られ、僕等はなんだか中途半端な気持ちで診察室まで向かわされる。半ば会話から置いて行かれたままだった遊世が診察室に向かう僕が見えなくなるまで手を振っているのを僕は確認していた。