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転生した赤ん坊はギネス世界記録を夢みる

作者: 霜雪雨多

その赤ん坊がいたのは、郊外に建てられた一軒家のリビングだった。

テレビではグルメリポートが放映されている。ちょうど女性アナウンサーがかき氷を食しているところだ。雪のようにふわりとした食感がウリだそうだ。価格は1500円。

赤ん坊はテレビの前に置かれたソファに足を広げて座りながら哺乳瓶に口をつけていた。

赤ん坊はこちらに気づくと、吸っていた哺乳瓶から口を離した。


さて、まずは自己紹介といこうか。俺の名は××。生後5ヶ月。なんの取り柄もない穀潰しさ。

親に頼らなければ生きていくこともままならない弱っちい人間なんだ。悲しくなるね。

趣味は昼寝だな。1日に15時間は寝てる。寝る子は育つというしな。ギネスブックに載りたいんだ。目標は高いほうがいいだろう? この成長速度なら2メートルは堅いと俺は確信している。

以前は酒も飲んでいたんだが、この通り生まれて間もないんでね。しばらくの間は禁酒にするつもりだ。流石に赤ん坊がアルコールを摂取したらどんな悪影響が現れるかわかったもんじゃない。

そうそう、酒を飲まなくなった代わりに飲むようになったのがこれよ。


赤ん坊はテーブルの上に哺乳瓶をどん、と置き、ニヤリと笑った。


そう、粉ミルクさ。母乳とはまた違った良さがある。ミルクがこんなにうまいものだとは知らなかったぜ。おっと俺がマンモーニだってバカにするなよ? 俺とミルクをバカにしたら、俺がギャアギャア泣き喚いて暴れるぞ。そしたらママとパパがすっ飛んできてあんたをとっちめるという寸法さ。


そう言って赤ん坊はゲップをした。


ミルクを飲んでると生きてるって感じがするんだ。赤ん坊の本能なのかもしれない。

動物であれば、誰だって空腹には耐えられない。赤ん坊でも同じなのさ。

ま、生まれてこのかた飲み食いしたのはミルクとおしゃぶりぐらいのもんさ。そろそろ離乳食にありつきたいもんだがね。


なんだと。こんなところで燻っていていいのかって? 俺だってできるものなら誰もが羨むスーパースターになりたいさ。

正直なところ、当初は天才赤ん坊として一躍有名になれるかと思っていたのだがそれは難しかった。第一に全然舌が回らない。喋るってのもなかなか難しいもんだな。

そして体のバランスが悪すぎて、まだ物を掴みながらでないと立てない。体の大きさに対して頭でかすぎだよなほんと。それと筋力も不足している。

だから最近は、匍匐前進をして筋肉を鍛えている。そのせいでちょくちょくテーブルの足に頭をぶつけて悶絶することになるが……まあ些細なことさ。

そうして立つ練習をしているのだが、物に寄りかかりながら立っただけでもママとパパは、うちの子は天才だ神童だと大騒ぎしてくれた。正直褒められて満更ではない。今後もどうか褒めて伸ばす方針でお願いしたい。


しかしパパがおそらくローンを組んで購入したであろうこの家だが、もう少し赤ん坊に気を使った構造にしてもよかったんじゃないかねえ。

時代はバリアフリーだ。手すりの位置は高くて手が届かないし、一段が壁のように大きい、俺の体では階段を昇り降りするのも一苦労なんだ。

一番深刻なのはトイレ事情だ。スピード重視ではいはいしてトイレへ行ったら、あまりのトイレの巨大さに驚いたぜ。驚きすぎて漏らしたぐらいだ。おむつを穿いていたから大惨事は避けられたけどな。

俺みたいな赤ん坊があのまま座ったらすっぽりと体が嵌ってしまうだろう。おまるを用意してくれよな全く。

仕方ないので現在はオムツを叩いて非常事態を知らせている。背に腹は変えられないしな。

早いとこ一人でトイレへ行けるようになって、人間としての尊厳を取り戻したいもんだ。


悪戯はしないのかって?

ちょいちょいやってるよ。とは言ってもトイレットペーパーを引っ張りだしたり花瓶を落として割る、なんて証拠が残るような事はしない。

例えば? そうだな……一昨日の夕食のデザートとして食卓に柿があったんだ。でもママは俺に柿をくれなかったんだ。なんてこった。その腹いせに、俺が柿の種だけとって庭に埋めてやったのさ。8年後の収穫が楽しみだぜ。



おっと、この話はオフレコで頼むぜ。家族には、手のかからない良い子で通してるんだ。

手がかからなすぎて何度か病院へ連れていかれたがな……

素直にミルクは飲むし、体をどこかへぶつけても涙を堪えるし、夜泣きはしないし、おむつの替え時を自分から泣くことなく知らせる。俺が親の立場でも不思議に思うさ。


だって夜泣きなんてしたら、ママもパパもおちおち眠れないだろうが。どうしようもない俺を養ってくれてるんだから、それぐらいの気遣いができなくてどうする。

だから、腹が減って死にそうなときとオムツが臭くなったときを除いては、極力大人しくしてるんだ。

俺は考えなしに泣き喚く他のガキとは一味違うのよ。同年代の奴らはどこもかしこもガキばかりで嫌になるぜ。


すまないがそろそろ失礼させてもらうぜ。お昼寝の時間なんだ。

寝る子は育つ理論で、目指せギネス世界記録。

続かない。

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