弓術チートで楽々異世界生活を目指せ!
俺の名前は小向蹴斗、青春真っ盛りの高校2年生だ。
名前がシュートなもんで、昔からサッカー一筋で生きてきた。昔はね、神童なんて言われたもんさ。チョーうまい、チョーすごい、ってなもんよ。でもさ、だんだん現実ってのが分かってくる。中学の時はレギュラーだった。勿論エースは俺じゃない、部長にもなれなかった。高校に入ってからはずっと戦力外。そりゃあ人数も多いしレギュラー入りは大変だよ。ま、2年に上がる頃には大体のやつが辞めていく中、頑張って残ってる俺の努力が実を結ぶのさ。多分、そのうち。
たまには息抜きも必要って事で、部活をサボって街をぶらつく。どこの学校も終わる時間は変わらないらしく、百合根女学院の生徒を見かけた。ウチの学校は共学だけど、この女子高の女子は格別だ。なんてって制服が可愛い。中身?それは、うん、まあ、人によるよね。
可愛い制服(ここ重要)を着た女子達を眺めていると、急に強い風が吹いた。めくれ上がるスカート、むき出しになる白い脚、そしてその上には。という惜しくも希望の園を見る直前、強い衝撃が体を襲った。周りの声を遠くに感じる中、断片的な情報からトラックに引かれたらしいと知る。そして俺は、享年16歳となった。
目が覚めた時、真っ先に目に入ったのは小さな机だった。イギリスのティーパーティー的な雰囲気の机で、俺自身もおしゃれな椅子に座ってるっぽい。見渡す限り光一色ってな感じで果てが無い。そして机の向かいには、髭もじゃの爺さんが座っていた。
(美少女じゃないのか……)
「残念じゃったな、美少女ではなくて。」
只の爺さんじゃなく心が読める爺さんらしい。ってか俺死んだはずじゃ。
「その通り、お主はトラックに轢かれ、そのまま死んだ。故にここに魂のみが来た、という訳じゃ。」
「つまり、あんたは神で、ここは死後の世界って事?」
目の前の爺さんに問いかける。いくら心が読めるって言っても、口に出した事以外に返事されるのも気持ち悪いし。
「わしが神かどうかは好きに考えてくれ。わしの上司も存在する、とだけ言っておこう。ここが死後の世界かどうかについてじゃが、その手前、と言った所かのう。これからの選択次第で、お主が行くべき死後の世界が決まるという訳じゃ。」
つまりこの爺さんは案内人(案内神?案内天使?)って事か。
「選択次第ってさあ、俺が選べんの?」
「うむ、幾つかの選択肢が許されている、例えば異世界への転生とかの。」
「異世界転生!?それで!」
やべぇ、めっちゃワクワクしてきた。これあれでしょ?チート能力貰ってハーレム作って酒池肉林的なやつ。
「そう言うと思っておった。それでは異世界への転生を行うが、一つだけ好きな才能を持って転生できる。何か希望はあるかの?」
キター!チート能力ってやつ。一つだけってなると、何を選ぶかが結構重要だな。
「ってか、異世界ってどんなとこ?魔法は?レベル制?」
「お主が死んだ世界と比べて文明的には劣らない、とだけ言っておこうかの。魔法の才能というものは無いので、それは選べん。レベルなんてものも無いのう。」
「魔法が無理って、”鑑定”とか”アイテムボックス”とかは?」
「同じく、それも無理じゃ。」
成程、文明的に劣らない、魔法は才能じゃないって事は、科学の代わりに魔法技術が発展した、みたいな世界か。そしてよくある中世ヨーロッパ風じゃない、と。
となれば、戦闘系か生産系かってとこだろうけど、ここは王道の戦闘系でしょ。格闘術なら貧乏な家に生まれても困らない。剣術ならどこへ行っても雇われやすそうだ。槍術なら素人でも使いやすいらしい槍の事だ、才能持ちなら尚更だろう。でも、答えは決まっている。
「天才的な弓術の才能をくれ!」
「……本当にそれで良いのか。」
「ああ!」
相手の見えない所から狙い撃つ、遠距離武器の長所の一つだ。それこそが俺の求めるロマン。あと逃げやすそうだし。本当は銃が良いけど、あっても一般人が手に入れにくいかもしれないしね。
「分かった、それではこれより異世界へと送ろう、勿論弓術の才能と共にな。」
爺さんが喋り終わる前に、俺の意識が遠のいていく。ここから俺の伝説が始まるのだー。
のだー のだー のだー
だー だー
ー ー
その日とある世界、とある場所で、一つの新たな命が生まれた。その男児に対し、両親はこう名付けた。
蹴斗、と
「これで5万6843回目じゃな。いくら記憶が無くなるとはいえ、毎回同じ才能を望んで異世界への転生を希望するとは、人間とは詰まらんものじゃのう。」