彼女と目が合った彼女と九月と目と三日で目が合った。
彼女と目が合った。
彼女とは同じクラスの、所謂クラスメートの関係ではあったが、一度も話したことはなかった。
俺が知る彼女のすべては、休み時間に教室の隅っこでブックカバーがかかった小難しそうな本を読んでいる姿だけだった。
彼女と目が合った。
彼女は、その、決して社交的な性格ではなかった。と思う。
というのも、俺は彼女と親しいわけではないし、人というのは深く接してみないと本質がわからない生き物だ。だからこのような言い方になってしまう。
それでも、彼女は社交的な性格ではなかった。
人と話しているとき、彼女はいつも視線を下に向け、相手の顔を見ようとはしない。
声もボソボソと聞き取りにくく、よく授業中先生が何度も聞きなおしていたのを思い出す。
彼女と目が合った。
彼女には友達がいなかった。これははっきり言いきれる。
彼女が他の人と親しそうに話しているところを見たことがないし、それ以前に誰も彼女に話しかけないからだ。
いつもみんなは彼女をいないものとして扱っている。
少し前、彼女が消しゴムを床に落としてしまったことがあった。
コロコロと転がる消しゴムは、ある男子生徒の足元へたどり着いた。
申し訳なさそうな顔をする彼女に対し、男子生徒はまるで気づいていないかのように、顔をあさっての方向に向いていた。
彼女と目が合った。
彼女と仲良くする人は誰一人としていなかった。
彼女と目が合った。
彼女は……率直な言い方をすると、いじめられていた。
詳しいことは知らないが、クラスで一番活発な女子生徒によく蹴られていた。
彼女は昼休みや放課の時間、女子生徒に呼び出されていた。
呼び出されていた先で何をされていたのかは知らないが、知りたくもなかった。
誰も関わりたくなかったのだ。
関われば、自分も巻き込まれるのではないかと。そういう思いがみんなの中にあるのだろう。
彼女と目が合った。
今日は九月の三日だった。
夏休みも明け、授業も本格的に再開する時期だった。
彼女と目が合った。
彼女と目が合った。
彼女と目が合った。
彼女と窓越しに目が合った。
黒板とチョークのこすれる音が聞こえる。
先生が何かを説明している声が聞こえる。けど
俺は彼女と窓越しに目が合い、
彼女は逆さまで、
目が合ったのだ。
まばたきをしたら、彼女はどこかに消えていた。
俺は彼女がどこに消えたのかは知っていたが、知らないふりをする。
今日は彼女は欠席していて、学校にはいないはずなのだから。