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就職氷河期のララバイ  作者: 塩見義弘
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第三話 大塚店長とインフルエンザ

「よう、よろしくな」



 今日は朝起きたら、天気は晴れているような曇りのような、とにかく中途半端な天気であった。

 まるで、出勤後の私の心情を現わすかのように。

 うちの会社、前日に転勤命令が出るのは珍しくなかったが、まさか当日転勤を目の当たりにするとは思わなかった。

 いつもどおり店に行ったら、なぜか留置所から出てこれたらしい大塚さんが待ち構えていたのだ。


 しかも彼が、次のこの店の店長だそうだ。


「あれ? 高尾店長は?」


「○○店に転勤だ」


「えっ? あの店にですか?」


 ○○店は、うちの常に売り上げと利益率が微妙な店舗群の中で、極めて優秀な成績を出していたはずだ。

 店長が若いながらもとても優秀な人だと聞いていたので、そこにうちの高尾店長を回すなんて、正直自殺行為だと思うのだが……。

 それとも、○○店の売り上げは立地的なものにすべて依存しているという分析結果から、高尾店長でも構わないと判断した?


「急にどうしてです?」


「○○店の店長、売り上げを抜いていたんだと」


「そうだったんですか……」


 ○○店の店長は、一回だけ挨拶して話をしたことがあるけど、とてもそういう風には見えなかったけど。

 まあ、私の人を見る目なんて信用に値しないと言われればそれまでだ。


「三年くらい、毎日売り上げを抜いていたんだと。あとは売り上げの差し替えな。実は、こっちの方が面倒な事態でな」


 大塚さんの説明によると、○○店の店長は、青果、精肉、鮮魚などの売り上げの一部を、一般食品と日配食品、生活雑貨など、いわゆるグロッサリー部門の売り上げに移し替えていたそうだ。

 

「そりゃあ、他の部門の売り上げを自分のところに移しているんだから、高利益を取れるわけだ。この問題の厄介なところは、テナントで別会社の生鮮の連中にバレたら最悪訴訟もので、公にできない点にある。あんにゃろ、ついてるな」


 横領犯だからな。

 モラルのなさでは、大塚さんも似たようなものだけど。


 うちの場合、グロッサリー部門とレジの管理だけ自分たちで運営していて、生鮮食品部門はテナントを入れる、半分大家のような形態で運営されていた。

 レジを管理しているのはうちの会社で、勝手にテナントの売り上げを自分のところに移していたのだから、バレたら困るわけだ。


「それで高尾店長ですか」


「あの人は年齢の分、こういう非常事態にも慣れているはずだってな。生き延びたねぇ……悪運が強いな、あのおっさんは」


 確かに、一番のリストラ候補だったのに。

 本来一番期待されていた若い店長が横領で消えて、彼は残れたという点では強運かもしれない。

 この会社に残れたところで、あとの人生がハッピーかと言われれば、私には答えようがなかったけど。


「というわけで、俺が今日からこの店の店長だから」


「よろしくお願いします」


「そういえば、木崎は?」


「今日は公休ですよ」


「まあしゃねえか。あの野郎は甘いからな。俺がちゃんと鍛えないとな」


 残念ながら、私に平穏な日々はそう簡単に来ないようであった。


 木崎君が入社し、うちの店に来てから九ヵ月ほど。

 今は一月の下旬であった。

 スーパーのかき入れ時である年末は、今さら話をすることなんてない。

 とにかく忙しいのだ。

 お客さんも多いし、クリスマス、正月で使われる食べられる商品をあくせくと陳列しなければいけない。

 うちらグロッサリー・日配部門も忙しいけど、生鮮はもっと忙しい。


 特に鮮魚のテナントなんて、大みそかは日付が変わったばかりの時刻から働いているのだから。


「タイヘンヨ」


 鮮魚店の社員であるベトナム人の店員さんが、今年も忙しいと私に声をかけてきた。

 私もこの業界に関わって初めて気がついたのだが、関東圏の鮮魚関連の会社には、いわゆるインドシナ難民だった人たちが就職しているケースがかなりあった。

 魚屋はいわゆる3K職場なので、なかなか日本人が集まらない。

 そこで、インドシナ難民の人をということらしい。


 この辺の立場の弱い人に付け込んで安く使う手法に、国籍なんて関係ないな。

 我々就職氷河期の人たちも、そういう企業に搾取されているのだから。


 そういえば年末、忙しい合間にたまたま二人で休憩をしていたのだが、夕方のニュース番組で刑務所の年末年始の特集をやっていた。

 最近の囚人は、年越し蕎麦とお節料理も出るそうだ。

 さらに、年末年始もお休みらしい。


 それを見て、彼と話をしたものだ。

 『自分たちは囚人以下だ』と。

 一円でも売り上げをあげるため、今のスーパーでは元旦から営業している店も多いからだ。


 彼はちょっとイントネーションに難があるが普通に日本語を話せるし、仕事ぶりも真面目だ。

 当然、魚を捌くのも上手い。

 ただ、クレームで電話に出ると『なんだよ! 外人なんて出すんじゃねえよ! 舐めてるのか! 日本人を寄越せ!』などと、電話口で主に年寄りなどに怒鳴られることが多いそうだ。


 私も、高尾店長が動かない人なのでクレームの処理をすることが多いけど、年寄りの中には『こんな若造を寄越して! 俺を舐めているのか!』というニュアンスで怒る人がいた。

 彼らの中では年配者イコール偉い人なので、若い店員がクレーム処理に行くと、自分は若造を宛がわれ、侮られているのだと怒る人がいるのだ。

 バブル崩壊前なら役職のある年配者を寄越したかもしれないが、今の一円でも人件費を削りたい日本の流通業においては、若い店長や副店長など珍しくもない。


 その方が人件費が安いのと、別に年配者でなければ店長ができないというわけでもないからだ。

 中小企業、それも待遇が悪い流通業などは、ちょうど就職氷河期で就職に苦労している人たちが多く入社している。

 彼らを安い給料で、長時間労働と重たい責任だけ与えて扱き使った方が楽なのだから。


 店長にしてしまい、役職給だけで残業代を出さないのは定番であった。


 私もそろそろ店長……責任ばかり重たく、休みが減って給料も変わらないから勘弁してほしいところだな。

 そういえば木崎君が来ていないなと思ったら、事務所に電話があった。

 出ると、電話の相手はその木崎君だった。


「すいません、インフルエンザになってしまいまして。お休みをいただきたいのですが……」


「インフルエンザか……」


「昨晩急に熱が出て、深夜のメディカルセンターに行ったら、そう診察されまして」


「わかった。あとで診断書を持ってきてね」


「わかりました」


 インフルエンザなら仕方がない。

 うちがいくらブラックでも、インフルエンザの感染者を店内で働かせるわけにはいかないのだから。

 私やパートさんにも染つるし、お客さんに染つすのが一番の問題であろう。


 とにかく、大塚店長に報告しないとな。

 私は売り場にいる大塚さんの元へと向かったが、事態は思わぬ方向に進んでいくことになる。


「はあ? その程度で休ませたのかよ! てめえ、なにを考えているんだよ!」


 うーーーむ。

 子供の頃から荒事に縁がなかった自分だが、まさか二十をすぎて胸倉を掴まれるとはな。

 どうやら、私のしたことはとてもよくないことのようだ。

 少なくとも、大塚店長の物差しでは。


「インフルエンザなので、下手に出勤させると私や店長、パートさんに染つしてしまうので、これはもう仕方がないかなと」


「はあ? 俺がその程度で休むってのかよ?」


 どうしてそういう話になるんだろう?

 どうやら彼の中では、どんなに具合が悪くても、熱があっても、休まず働くことが恩がある会社に対し、自分の有能さをアピールするチャンスとしか思っておらず、それは他者も見習うべきだと思っているようだ。

 飲酒運転とひき逃げでどういう決着をつけたのかは知らないが、彼の中ではインフルエンザで休むと連絡してきた木崎君は、会社にとって許されざる敵という認識のようだ。

 

「病状は?」


「熱がかなり高いそうでです」


 病状以前に、病院でそういう診断結果が出たのだから仕方がないと思うのだが……。

 そもそもインフルエンザは伝染病の扱いで、疾患しているのに出社させたらまずいはず……。

 まあ、この会社にそんな常識が通用するのかという懸念というか、事実が存在しているのでこの様であるが。


 テレビで、普通の会社はああだこうだ、法律でこう決まっているなどと解説しているが、それが当てはまる日本の企業の割合を知りたいくらいだ。

 きっと、彼の言う日本の普通の会社に就職できていない私たちは、彼の視界にも入れない非日本人なのであろう。


「うちは、普通の会社じゃねえんだぞ! いいか! 俺たちは軟弱なサラリーマンじゃねえんだ! 病気くらいで休むなんてよ!」


 ここぞとばかり、元ヤンキーである大塚さんが電話越しに木崎君を怒鳴りつけた。

 彼もきっと頭が痛いはずだ。

 大塚さんは、定期的にキレてヤンキー気質を露にする。

 私はあまりつき合わないけど、よく他の店長と飲みに行き、そこで酔っ払ってまったく知らない客と殴り合ったりするそうだ。

 それでも彼は、根が体育会系なので年配の店長たちから気に入られていた。

 私はそういう空気に合わないので好かれていなかったが。


 別に、貴重なプライベートの時間で彼らと飲んで金と時間を使って気に入られなくてもなと。

 そう思ってしまう時点で、私は駄目な社畜なのであろうが。


「大塚さん、私やパートさんたちに染つると大変なので」


「けっ、しゃあねえな! だがな! 木崎が治るまでお前は休みなしな」


「まあ、しょうがないですね」


 これも、零細スーパーの定め。

 誰かが休めば、誰かが休めなくなる。

 そういえば、別の店舗の若い妻子持ちの社員は、子供の運動会で休みたいと言ったら、店長に長時間説教を食らったそうだ。

 子供の運動会程度で休むバカがいるかと。

 その店長は奥さんと子供を放置して仕事に熱中……かと思ったら、パートさんと不倫して離婚されたそうだが。

 偏見かもしれないが、この業界、そんな人しか出世できないのであろうか。

 もしそんな人しか出世できないのであれば、私はきっと出世できないんだろうな。


「というわけだ! 明日まで休みをやるから、早く治せよ!」


「……」


 インフルエンザは解熱してから二日経たないと、出勤させない方がいいという厚生労働省の見解なのだが、うちの会社がそんなものを気にするわけもなく、ここで下手に意見すると、木崎君の二日間のお休みすら消えてしまうかもしれない。


 私は、木崎君が二日で熱が下がることを祈るのであった。

 だが、ここで私が食い下がらなかったことにより、店は大変な事態に陥いるのであった。






「てめえ! まだ熱が下がらねえのかよ! 本当に使えねえな!」


 二日後、やはり二日でインフルエンザが治るわけがない。

 前に、某有名漫画家がエッセイでインフルエンザを一日で治した話を見たような気がするが、悪いけど私はさすがに嘘だろうと思っていた。

 マスクをした木崎君は、誰がみても熱があり、体もフラフラであった。

 そこまでして出勤しなくてもいいような気がするが、それでも出勤した方が望ましいと錯覚してしまうのがうちの会社なのだ。


 木崎君もこの会社を嫌がっていたが、順調に毒されつつあるのであろう。

 

 そしてそんな木崎君に対し、早速大塚店長の説教が始まった。

 まずは、ブラック企業定番の『病になる奴は、自己管理が足りない!』である。

 いくら注意しても、怪我や病気は完全に防げないことは子供にでもわかるが、この会社に毒されてしまった人たちには通用しない理屈だ。

 この会社のルールでは、病気になるイコール犯罪行為なのである。


「俺なんて、病気で会社を休んだことなんて一日もねえ! お前は気合が足りないんだよ!」


 ブラック企業あるある、その2。

 何事も気合でなんとかなると、必ず言う奴がいる。

 戦前の月月火水木金金の頃から、日本人のメンタリティーにはそう変化はないのであろう。

 気合と竹槍でB29が落ちないように、気合で会社を一日も病欠しないというのは難しいと思う。

 それに私は、大塚さんがこの会社に入ってから一日も病欠していないのか、実際にに確認したわけではない。

 

 それと、飲酒運転とひき逃げの件で二週間ほどお休みだったが、この件をあえて指摘するチャレンジャーはいなかった。

 最悪ぶん殴られるからだ。

 ああ、ここで有給を使ったのか。

 わざわざ本人に聞こうとは思わないけど。


 元ヤンキーだが、結構細々とうるさい部分もある大塚さんは、さらにブラック企業に嵌った人がよく言うセリフを木崎君に言い続けた。

 

「で? 本当にインフルエンザなんだろうな?」


「はい。これが診断書です」


 木崎君は、病院で貰った診断書を大塚さんに渡した。


「事実みたいだな」


「あと、有給の取得を……」


「はあ?」

 

 ここで、一気に空気が険悪になった。

 木崎君がインフルエンザで休んだ二日分の有給を取得したいと申し出た瞬間、私は怒髪天を突くの状態になった大塚さんを目撃する羽目になってしまう。


「てめえ! ぶち殺すぞ!」


「えっ?」


 そりゃあ、木崎君も驚くよな。

 私も入社直後なら驚いたはず。

 悲しいかな、今はもう慣れてしまったけど。


「有給なんて使えるわけねえだろうが! お前の公休日を変えるだけだ。なにを甘ったれたことを言っているんだよ!」


「ですが、入社して半年以上経ったので有給の取得は認められているわけで……」


「お前はテレビや新聞のクソエリートか! 大企業でもあるまいし、有給なんて使える会社の方が少ないのが日本の常識なんだよ!」


 それはないと思う……だよね?

 大塚さんはこの会社以外で働いた経験がないので、ここでの常識が日本の会社全体の常識だと思っているのであろう。

 うちの本社連中も、年配の店長連中も、大概酷いからな。

 そういえば私も有給なんて使ったことないけど、もし申請したらどうなる……あえて騒ぎを起こさない方がいい……と思う時点で、私もこの会社に毒されているのかも。


「おいっ! インフルエンザになったは誰だ?」


「僕です」


「だろう? つまりお前の責任だ。普通なら有給を使うなんて選択肢が出てくるわけがないんだ。てめえはガキか! それにな、お前が二日休んだせいで、こいつは一日休みが消えたんだぞ」


 どういうわけか、私の分の公休日を後ろにズラすことをしてくれなかったわけだ。

 こんな大塚さんだが、実は私よりも年下である。

 こんなに若いのに、まるで某海兵隊映画の〇ートマン軍曹のように、この会社独自のルールを新入りに叩きこんでいく。

 彼は色々とあってこの会社に恩があるし、他の会社を知らないから、実にこの会社の方針に忠実であった。

 会社としては、使い勝手のいい人材なのであろう。

 どうせ都合が悪くなれば、すぐに捨てられるのは確実であったが。


「二度と有給の話なんてするなよ! マジで殺すぞ!」


 大塚さんは、たまに『殺すぞ!』という単語が平気で出てしまう人だ。

 ちょっと社会人としては問題がありそうだが、彼がとにかくよく動く人なので会社からの評価が高かった。

 だから若くして店長になれたわけだ。


「二日休んだんだから、代わりにやってもらった発注とか仕事もちゃんと引き継いでやれよ」


「はい……」


 というか、現時点ですでに木崎君はフラフラなわけだが大丈夫なのであろうか?

 すぐにみんな通暁業務に戻ったわけだが、木崎君はやはりフラフラなまま、パートさんと仕事の話をしていた。

 若いパートさんは、マスク越しでもインフルエンザが染るつるのではないかと、かなり不安そうな顔をしていた。


「木崎君、今すぐ休んで。具合が悪かったら、早退した方がいいよ」


「すいません」


 やはり、今の木崎君を働かせるのは無理だな。

 しょうがない。

 仕事は二人分になるが、私が動くしかないか。

 私は木崎君を事務所で休ませ、パートさんとチラシの特売商品発注について話を始めた。

 うちは零細なので、本社のバイヤーが発注した分だけだと足りないのだ。

 現場の社員や担当のパートさんが、各メーカーや問屋に電話して、別の特売商品を発注したりして売り場を作る必要があった。

 それを、独自性のあるやる気が出る仕事だと本社は絶賛していたが、ようは本社のバイヤーがポンコツなだけ……これは禁句であった。

 それならせめて、特売の条件表くらい送ってくれれば楽なのに、それを各店舗の社員が自分で営業さんと交渉して手にいれなければいけないのが面倒であった。

 

 大手では商品を並べるだけ。

 うちとは大違いというが、少なくともすべての待遇は大手の方が圧倒的に上だ。

 私もどちらか選べるのなら、絶対に大手を選んだであろう。


「インフルエンザって、二日で治るのもなの?」


「現に今、熱も下がらずフラフラですよ」


「休ませないの? 彼はまだ新入社員でしょう?」


「大塚店長の方針なので」


「大塚店長のねぇ……」


 女性であるパートさんが、大塚店長に意見するなんて難しいよな。

 私だって、本当はもっと穏やかな人と仕事したいし。

 高尾さんだと逆に忙しすぎるので、これはこれで嫌だったけど。


「私たちに染ったらどうするのかしら?」


 私もなんだが、それが一番怖い。

 私とパートさんがインフルエンザで壊滅したからといって、店を休みにはできないからだ。

 

「早退させた方がいいとは思うのですが……」


 間違いなく大塚さんが、いいと言わないであろう。

 実際に、このあとに言ってみたが、大塚さんからは断固拒否されてしまった。

 そして翌日……。


「よう、インフルなんで休むわ」


「はあ……」


 翌日、お店に出勤したら、いつもなら先に来ている大塚さんがいなかった。

 すぐに事務所の電話が鳴ったので出ると、電話の主は大塚さんであった。

 声が大分潰れているようだけど。


 やはり、昨日木崎君の傍にいたからインフルエンザが伝ったようだ。

 続けて、昨日は丸一日具合が悪いのを我慢していた木崎君からも連絡が入った。


「駄目です……もう動けません」


 続けてパートさんからも。


「やっぱり、インフルエンザが染ったみたい。だから無理に出勤させるから。それで、大塚店長は?」


「インフルエンザでお休みです」


「調子いいわね、あの人は」


 人にはあれこれ厳しいことを言っておいて、自分が病気になるときっちり休むんだからなぁ。

 それでも、ああいう元ヤンキーで体育会系のノリもあるキャラは、年配のおっさんたちに受けがいい。

 普段は上からの命令に逆らわず、どんなにおかしく理不尽な命令でもなにも追わず素早く動くからだ。


 私?

 私は全然そういうことはない。

 嫌われてもいないが好かれもしない。

 あんなおっさん共に好かれてもなに一ついいことはないので、どうでもいいけど。


「社員は一人。パートさんも三名がインフルエンザで休みか……大塚め! 責任取れよ!」


 この日は休んだ人の分の仕事も抱え、私は休む暇もなく大忙しであった。

 そして夕方になると、私も徐々に喉が痛くなってきた。


「まさかこんなことになるとは……ちくしょう!」


 閉店後、慌てて夜間のメディカルに飛び込み、注射を打ってもらい、薬も貰ってきた。 

 メディカルで熱を測ったら、38度5分。

 挙句に、インフルエンザの可能性が高いとの話であった。


「出社しては駄目ですよ」


「ですが、インフルエンザの判定が正式に出て、診断書を貰えないと休めません」


「医者もブラックだけど、あなたの会社も大概だね」


 急ぎ薬を飲んで寝たら、なんと翌朝には熱が下がってしまった。

 ただ、熱が下がったからと言って、私がウィルスをまき散らしていない保証はない。

 それでも、私が出社しなければ店に社員がいなくなってしまう。


 私は出社しなければいけないのだ!


 多少フラフラするが、問題ないはず……ないことにしよう。

 客や、今無事なパートさんにインフルエンザを染つすかも?

 そんなことを考えられるのは、それこそ大企業様だけだろう。

 大半の日本企業の社員は、病気ごときで休んでは……私も完全に社畜になってきたな。

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