プロローグ
――― もう一度 君の笑顔が見たい 声が聞きたい
きっと僕はそのために歌い続けてきたのだろう ―――
「ゔっ、だせぇ……」
湊太は使い古した作詞ノートを閉じたと同時に、どこからともなく湧いたこそばゆい感覚に襲われた。
一体、何回このノートに八つ当たりしたのだろうか。
カーテンを開けると、そこは真っ白な世界が広がっていた。
視界を埋め尽くすほどの雪が、太陽(ここではティモニアと呼ぶらしいが)の光を反射し、眩しいくらいにキラキラと光っている。
初雪か。もうそんな季節なんだな……
もうすぐこのナイト・レザルの町に来て三年になる頃だろう。
ちょうど地面がこんな真っ白の日だった。
俺たちは、ここを出て行くどころか、毎日特に変わったことも起こらない生活を繰り返しているだけで、どちらかというとこの町での定住への道を突き進んでいる。
「うぉぉぉぉぉぉーい! 遅刻だよ、ちこくーーーーー」
なにやら、玄関が騒がしい。
毎日の事なんだがな。
あいつだ。
風谷 雪。
俺と一緒にここへ来た。
まぁ、同胞ってわけ。
そして、俺が結成した、バンド、「オメガ」のメンバーでもある。
ギター担当だ。
ちなみに、この俺がボーカルの西国 湊太だ。
他のメンバーもおいおい紹介しようと思う。
10:34
「おっそーーい! 四分遅刻だよぉ」
「俺が時間通りに出てきたことあるか?」
これも、毎日のお決まり文句みたいなもんだ。
「今日は確か、川沿いの商店街の広場だったよな?」
「うん! 十一時からだよ」
ここでは、自分で稼いで生活していかないといけない。
俺たちは、路上やイベントのステージとかで、ライブをしてお金を貰っている。
と言っても、肝心のチップは、お客さんの裁量なので、日によって稼ぎはまちまちだ。
大した収入がない俺たちが立派な一軒家に住めるのも、この仕事をやっていたからこそかもしれない。
まぁ、そういった細かい話はおいおいしようではないか…