クロツ大陸 1
クロツ大陸。
ナザ-ド大陸の西にある大陸で。
魔王女が大陸で始めたのは魔人、魔獣を生み出すことだった。
ナザ-ド大陸での失敗は、強大な魔力を分散してしまったからだ
と考えていたからである。
ならば強大な魔力を持つ存在に対して、対抗手段を持たない人間は
恐らくなす術もなく滅びるだろう。
しかし、大きな力を一度に開放することはせず
大陸の各所に分散して封印を行った。
欲望に駆られた人間が封印を開放するのを待つためだ。
それは人間の選択肢を与え、結果として審判が下されるよう
人間に選ばせよう、という思いも込められていたかもしれない。
もしくはただのいたずら心か。
そうして、各所の封印もあとわずかで終わろうかという時
「ちょっとそれ、いくつかもらえないかなあ。」
魔王達の集会の後、しばらくは魔王女と共に行動していたが
しばらく姿を見せなかった側近が、いつの間にか現れていた。
「どうするつもり?」
答えを聞くより早く、封印のクリスタルを差し出している。
「そういう所、好きだなあ。」
などと言いながら笑顔で受け取ると、その場から掻き消えた
魔王女はあきれたようにため息をついて、寝所に向かうのだった。
クロツ大陸では先住民が住んでいたが、ナザ-ド大陸からの移住者が増え
数年に及ぶ小競り合いが行われていた。
移住者達の組織された攻撃に原住民の少数部族での反撃は次々に撃破されていく。
やがて先住民族も、バナヤ-ハット族を中心に結束し、先住民族と
ナザード移住連合との争いに発展していった。
しかし、結集したときには大半の部族が敗れた後で
先住民族は明らかに劣勢だった。
そんな時、バナヤーハットの首領であるベルクに進言をした男がいた。
「ベルクド殿、この戦で勝利を得なければ、我らに未来はありません
侵略者共に魔獣の洗礼を与えてやりましょう。」
そう言いながら、封印のクリスタルを差し出す。
それは、つい先ほど魔女王から受け取ったばかりのクリスタルだった。
「しかし・・・。」
ベルクは躊躇する。
自分の理解を超えた存在がベルクを不安にさせる。
だが、封印を解かなければ全滅は免れない状況に追い込まれていた。
敵が迫って来る。
彼は決心し、短剣で左の指に傷をつける。
流れる血がクリスタルへと落ちると禍々しい光に包まれた。