伝説 8
この日、カルウ王国では祝賀会が催される。
八代目国王カルウ=ムアブが玉座の間において
恩賞を授ける。
戦いにおいて最も功績のあるパリット公爵の名が呼ばれ
続いて功績功績が読み上げられる。
「領地の民を惜しみなく出兵させ
戦争中であったにも関わらず、税収を守り
更には自らも甲冑を纏って城外に赴き兵士の士気を高めた。」
というものであった。
パリットは、脇に控える文官から恩賞の記された洋紙を受け取った後
国王に向き直って恭しく拝礼をし、退出した。
その頃、城外の宿では三人の勇者が恩賞を受けるため
五日目となる待機中だった。
魔王城攻略後、使者によってこの宿屋への待機を言い渡されたのである。
「これが終われば、ようやく国に帰れますね。
早く帰って、復興に向けて頑張らなくちゃ。」
コムの声が弾む。
国としては消滅してしまったが、住み慣れた土地はやはり恋しいようだ。
「それだけじゃないでしょう?」
カスミが笑顔で、だが少しいたずらっぽく言った。
先日の魔王城での夜、今後について三人で話した時に
コムが幼馴染と結婚をするという話しがあったので
照れた顔を見てみたい、という気持ちからだった。
ウラウスも顔を向けようとはしないが
反応には興味津々だった。
ところが本人は何のことかわかっていない様子だったので
今度はクラウスが
「ほら、愛しのエリナ-ちゃんにも会えるんだろ。」
などと再び誘導してみたが
「もちろんそれは、言わなくても当たり前のことですから。」
と元気いっぱいに答えられてしまうと
二人はただ、顔を見合わせて笑うしかなかった。
王座の間では公爵、侯爵に対する恩賞が全て終わり
王が席を離れた。
残された王座の間には大臣達が残り
引き続き伯爵以下の貴族たちの授与式が行われる。
最初に呼ばれたのはディアスだった。
戦後の混乱のは未だ続いていたが、国王陛下の召喚となれば、断るわけにもいかず
式に参加するために戻っていたのだ。
魔王討伐の恩賞を受け侯爵の爵位を与えられたディアスは
空席となった王座へと拝礼した。
侯爵となった以上、このまま祝賀会を辞退して再び戦場へ
というわけにもいかなくなってしまった。
その上、各所からの報告も相次ぎ
その対応もしなければならない。
少し風に当ろうと中庭を散策していると
そんな最中でも兵士達が指示を仰ごうとやってくる。
イライラした感情を押し殺し
一人ひとり、丁寧に指示を与える。
一区切りしたところで、ふと周りを見回すと
どこかで見たような男が川に向かって座り込んでいる。
仕事以外の話をしたい、という気まぐれから
ディアスは男に近づいた。
「何を見ている?」
興味はなかったが、きっかけとして話しかける。
「時間があったので中庭を散策です」
よく見るとカルアナ平原にいた勇者のようだ。
「恩賞の授与式に呼ばれたのか。」
記憶では彼が勇者になって二か月程だが
これといった武勲もなく、戦争が終わったはずだったのだが。
「そうなんです、堅苦しいことは苦手だったのですが
あなたのような英雄に会えて良かった。」
「いや、君も勇者だっただろう?」
謙遜か、と思い言ってはみたが
特に大きな功績が無いのも事実
あまり気にせずその場を去ろうとしていた。
「癖、あったんですね。」
唐突に言われて、思わずオウム返しのようになってしまう。
「癖?」
「ペンダントを触る癖。
それを触ると、気持ちが落ち着くようですね。」
指摘されてペンダントを見る
水晶の中に真珠くらいの大きさの球が埋め込まれていた。
「ああ、先祖が国王より賜った大事な品だ
これを付けていると落ち着くのでね。」
ペンダントを触りつつ答えたあと
では、祝賀会があるので
と、着替えの為にその場を去るのだった。
王座の間では、ようやく貴族の恩賞が終わり
ようやく勇者たちの番が回って来た
この頃になると、既に大臣はおらず
衛兵数人が立つ中新米の文官が洋紙を渡すような状況だった。
それでも彼らは姿の見えない国王に拝礼し、退出をする。
三勇者は恩賞として騎士の称号と紋章を持つことを許され
戦績に応じた給金が支払われた。
そして、一番最後に十三番目の勇者が恩賞の洋紙を賜った。
洋紙にはこう書かれていた。
「この度の功績により
魔王軍討伐の為に勇者として加わったことを認める。
給金として三千二百ゼマを与える。」
この時の王国の宿が一泊七十ゼマからでだったので
それほど高い給金ではなかったが彼は満足して帰っていった。
その後、各地を平定したディアスは王都に戻り
国王の四女と結婚する。
勇者 クラウスとカスミは結婚をし、王国から少し離れた村で暮らす。
勇者 コムは旧商業国に戻り、婚約者結ばれた。
こうして、ナザード大陸に平和が訪れる。
そして、伝説は終わる。