それぞれの決断
魔王女フィリンが現れたことによって、撤退したアブソルートは
インフェクシアス教団の本部にある自室で珍しく酒を飲んでいる。
配下の者にはあらかじめ誰も部屋に通さぬように指示をしてた。
だが、その部屋にノックの音が響く。
アブソルートの答えを待たずに部屋へと入って来たのはゼンだった。
しかし、それは元々想像をしていた事の一つに過ぎず
ゼンに酒を勧める余裕すらあった。
そんなアブソルートを見たゼンは、いきなり核心を突いた言葉を放つ。
「彼女の接吻の効果、出たみたいですねえ
わかっていると思いますが、その呪縛から解き放たれるには
全てを失う覚悟が必要ですよ」
それは、アブソルートの今の知識や経験を全て捨てて
クロツ大陸で魔王女と出会った頃の勇者コムに戻る事を意味していた。
もし、仮にそれで呪縛から解放されたとして自分に何が残るのか?
シーミングや他の魔王、さらには現代に生きている全ての勇者たちよりも
劣る自分に、今さら戻れるだろうか?
人々によって至高の勇者、として崇拝された自分がその屈辱に
耐えられるだろうか?
ゼンの問いかけに対して、無言で思いを巡らせていた彼の元に
新たな訪問者が現れた。
アブソルートにとって、この日最も待ち望んでいた者。
シーミングに案内されて現れたのは、魔神ベーゲルだった。
ベーゲルが部屋に入ると、ゼンの存在に気が付いて
「あれ?
お前も一緒にやるのか?」
そう言った彼の目的は魔王女フィリン討伐だ。
アブソルートに抗えない存在は、シーミングや聖獣にとっても
手を出すことができないようだが、他の魔王や勇者が
フィリンを倒せばその呪縛も消えてなくなる。
そして、その可能性が最も高いのがベーゲル、と言うわけだ。
「どうしてこんな事になってしまったんですかねえ?」
当初の目的とはかけ離れた事態にゼンが落胆する。
それに対してベーゲルは
「俺は元々、難しい事は苦手なんだよ。
フィリンを倒せば、もっと大きな力が手に入る。
それならその方が簡単で良いぜ!
一緒にやりたきゃ、いつでも言ってきな。」
そう言うとアブソルートと共に部屋を出て行った。
後に残ったシーミングに
「貴方はそれで良いんですか?」
と、問いかけてみたが
静かに頷かれた後、退室を求められる。
部屋を出たゼンは、フィリンを探すことにする。
そして彼女が現れたであろう、ギャストリック荒野に向かう為に姿を消した。




