最初の一滴
正統勇者組合の長エンビーがトーレス大陸で聖獣と戦っていた頃
彼の子供たちはクロツ大陸で魔王の行方を捜していた。
魔王討伐のために先行している長男のリジュアルと次女のアンティー
この二人の働きぶりに業を煮やしたエンビーが他の兄弟たちを
増援として送り込む。
言われるがまま、長女のティージングと三男パイレティックは
連れだってリジュアルたちの応援へと向かう。
ただ一人、次男のバーンズの出発はエンビーの判断で
保留となっていた。
そして、エンビーがトーレス大陸への遠征を行う前日
バーンズを部屋に呼ぶ。
いつになく神妙な顔の父を見て、何か嫌な予感がしたバーンズだったが
態度には出さず、とりあえず話を聞く事にした。
「私は明日、トーレスに向かう。
それに伴って、組合の運営をお前に任せようと思う。
ただ、それは次期当主という意味ではなく
あくまで運営を任せるという意味だ。
次期当主には、お前以外の四人のうちから魔王を倒した者に就いてもらう」
それを聞いて、思わず
「私が魔王を倒したら、どうするんです?」
と聞いた。
「それは、許さん。
お前は他の兄妹が魔王を倒すために援護をするように」
そんな父の言葉に納得できないのか、再び彼は問う
「なぜ、私が魔王を倒してはいけないのですか?
そして、私が当主ではいけない理由も分かりません」
それを聞いてエンビーは少し微笑んだ
「お前は兄妹のなかで最も能力が高い。
だが、お前は他の者に対して優しすぎるし毒が無い。
勇者が溢れるこの世界で、当主としては良くも悪くも
強い個性を持った者が求められるだろう。
ただ、その個性によって組合が破綻することは許されない
だからお前に任せられるのは、当主ではなく組合なのだ」
この言葉に、自分は持ち上げられているのか、それとも
貶められているのか、結局判断がつかなかった。
しかも父はそれだけ言うと、後は任せたと言って
翌日にはこの大陸を離れていく。
また、その間際にも、お前はちゃんと兄弟たちの援護をするように
と言い含めて旅に出る。
そして、彼の別れ際の言葉が
「俺が二人いればこんな事にはならなかったんだが・・・。
後はよろしく頼む」
という事だった。
こうしてエンビーの組合運営の手腕に対する期待を受けた
バーンズはその二日後にナザード大陸を離れた。
ところが航海中に嵐に巻き込まれる、という不運が待っていた。
船が航行不能に陥り、食料も尽き、もはや死を待つばかり
そんな時に見慣れない船影を発見し、救助される。
そして辿り着いたのが彼が全く知識を持たないプリペアド大陸だった。
そこで彼は命の恩人である船の船長に恩を返すため
彼らと敵対する海賊と戦う事になる。
その頃から、バーンズの周りに彼を慕い集まった者たちが
自分達を「水の王冠」とするようになり、バーンズを「最初の一滴」と呼ぶようになる。
また、彼の元に集まった九人の主な者たちは、「王冠の滴」と呼ばれるようになった。
そして彼らは周辺海域の海賊を掃討、吸収し
後にプリペアド大陸に棲む獣人たちとも戦う事になっていく。




