タイミング
魔王女フィリンとペンの傷が癒えようとしていた頃
世界中に魔法の変革を説いて回ったゼンが二人の元に戻ってきて
かいがいしく二人の世話をする。
傷を受けた最も助けが必要な時にはいなかったくせに
今頃になって心配そうに世話を焼くゼンを見て二人は
『人としても、魔王としても許せない』
と口をそろえて言ったのだが、ゼンにしてみれば
一通り、面白いイベントが終わってしまったので
新しいおもちゃを見つける事が出来なければ
新たなイベントが発生させるために、二人の回復を待っているだけ
という様子がさらに二人をいら立たせていた。
そんな状況の中、三人が大陸南部に強力な魔王の波動を感じ取る。
これは、レヴィの封印が暴走していたからなのだが
三人には分からなかった。
するとゼンがいつものように、ちょっと用事が
などと言いながら、その場を去ろうとする。
その様子に今回ばかりは二人とも、自分たちも連れて行くように
とゼンに迫る。
その気迫に押されたのか、何か役に立つと思ったのか
意外と簡単に了承し、現地に飛ぶ準備をするためにいったん
その場を離れる。
そして彼が向かったのは、魔王女のいた空中庭園だ。
池の側で一人の男が立っている。
その側に降り立つと男がゼンに向かって話しかけた。
「少し問題があったようだな」
そんな彼の言葉に、どんな時でも計画通りにはいかないものですね
などと言いながら、さらに続ける。
「でも、今回は少しおおごとだからねえ。
一緒に来てもらおうと思ったんですよお。
それに念のために、彼女たちも連れて行こうと思てましてねえ」
これを聞いた男は、ゼンが話し方は平静を装っているが
実際には相当緊迫した事態なのだ、という事を感じ取った。
「準備はいつでも出来ている」
そう答える男の肩に手を置いたゼンは彼と共に再び魔王女たちの元へ
転送した。
二人の帰還を知ったペンがもう少しで声が出そうな体で
何かを訴える。
それを見たフィリンが
「ディアスを連れて行くってことは、封印に何かあったのね」
そんな二人の反応にもゼンはあえて
「嫌だなあ、彼も長く庭園に籠っていたから
この機会に外の空気を吸ってもらおうと思っただけですよう」
そう言いながら笑う彼の眼は、笑ってはいなかった。
その様子を見たペンは密かにメモしていた、俺はパスで
というメモを背中に回し、静かに握りつぶした。
そして四人がゼンの魔法でクロツ大陸南の勇者達の元へと向かった。
四人はレヴァが体調を崩し、運び込まれた宿の前に転出する。
ここでゼンは受付に向かい、リッジたちが宿泊している部屋を聞き出した。
残された三人は、この宿から溢れ出る魔力が徐々に収拾され
平穏な状態に向かっていることに気が付き、お互いの顔を見合わせた。
そして、ゼンが三人の元に戻って来る。
「おまたせしました、では行きましょうかあ」
そう言いつつ、異常な魔力が抑えられるのを感じていたゼンも
逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと部屋へと向かっていく。
四人が階段を上り切った廊下の先には、一人の青年が立っていた。
「残念ですが、皆さんを通すことは出来ません」
そういったのは、レヴァの治療を行っているパナシアの弟子、ヒダンだった。




