意志ある言葉
スニージングの詠唱が完成する。
彼の発動した紅い魔法陣から何十と言う刃が放たれる。
フィリンとペンは結界の中をひたすら逃げ回る。
このままでは、いずれ魔獣の魔法の餌食となってしまうだろう。
この状態にしびれを切らしたペンが、呪文の詠唱補始める。
詠唱を聞き、どんな魔法か察知した魔獣は薄笑いを浮かべる
ペンには白銀の魔法陣しか生成することが出来ない事を知っていたからだ。
これでは魔法を放っても、魔獣の放った防除防御結界魔法に
何の影響も及ぼすことが出来ない
そして何の対策もとらない魔獣を見ながら、ペンの詠唱が完成する。
通常であればペンの発動した魔法陣が生成され、強力な鉄槌が
魔獣に向かって振り下ろされるはずであった。
ただしそれは、互いの魔法陣の力関係により魔獣には何の影響もなく消え去る。
これが魔王女フィリンと魔獣スニージングの認識だった。
ところがペンは魔法の詠唱を終えると同時にひと言
「偉大なる鉄槌」
と言い放った。
その言葉に呼応する様に白銀の魔法陣は輝きを増し
鉄槌は魔獣の防御結界を破壊して、魔獣の顔面を強打する。
その現実にフィリンとスニージングは呆然とする。
そんななか、再び詠唱を始めたペンに対して魔獣は脅威を感じ
自らが発動中、黄色い魔法陣をベースとした対抗手段を行う。
ペンの詠唱の速度を上回るには、既に発動している魔法を
足掛かりとして、発動させるのが最も早かったからだ。
そしてペンの詠唱より早く、魔獣の詠唱が完了する。
彼の生成した黄色い魔法陣はフィリンとペンに向かって
閃光を放つ。
その攻撃により、フィリンは左肩、ペンは喉を貫かれた。
油断や慢心で無く、ただ運が悪い、といえばそれまでだが
ペンの詠唱は途切れ、再び再開することは無かった。
勇者と魔王の力を持っているペンは、この攻撃で絶命する
という事はないが、回復にはしばらくの期間を必要とするだろう。
それが判ったのか、魔獣がいやらしい笑みを浮かべる。
「どうやら切り札を失ってしまったようだね。
残念ながら、終わりの時が近づいてきたようだ」
攻撃を受けて膝をつき、苦痛に顔を歪めているペンと
肩の傷を治癒しているフィリンに向かって言う。
そんな魔獣に対してフィリンが
「そうね」
と答えると自分から魔獣の正面に立ち、短い呪文を唱えた。
すると白銀の魔法陣から、彼女の傍らに一人の人型が現れる。
それはただ、口元だけがはっきりと存在しているが
それ以外は朧げな存在だった。
そして彼女と人型は同時に同じ魔法の詠唱に入った。
魔獣はそれを見てその人型が、ただ、下位の魔法を唱えるだけの存在
というのを理解していた。
そのために、今度こそ自分の魔法で彼らを制圧しようと
魔獣も再び、魔法の詠唱に入る。
先に魔法を完成させたのは、フィリンと人型で彼女の魔法陣が発動する。
彼女の正面に紅い魔法陣が生成され、そのすぐ前には白銀の魔法陣が同時に生成される。
紅い魔法陣から放たれた爆炎が白銀の魔法陣に共鳴し
増幅された状態で魔獣に襲いかかる。
スニージングは本能的な恐怖に詠唱を中断し
持てる魔力の全てを使って身を守ろうとする。
しかし、その炎は彼の全てを覆い、焼き尽くしていった。
魔獣の死によって、周囲に張り巡らされていた結界は解かれる。
その死闘の後に悠然と現れたのはゼンだった。
そして傷を負った二人の姿を見ると
「なんだかたいへんだったみたいだねえ。
お疲れさま」
とねぎらいの言葉をかけたのだった。




