それぞれの思惑
ゼンが席を外して向かったのはトーレス大陸
魔神教団のベーゲル本部の豪華な一室だ。
そこにはトーレス大陸の魔王が神主として、これもまた豪華な椅子に座っている。
拝顔の列に並ぶ信者たちの様子を見ながら、勝手に控室へと入っていく。
するとしばらくして魔王が部屋へと戻って来た。
「お待ちしておりました、メドシン様」
わざとらしく深々と礼をするゼンに対して何の反応も示さず
「何の用?」
と感情のこもっていない声で問う。
「いやあ、最近ご無沙汰だったから、どうなってるかな?ってねえ」
冷たい対応にも動じることなく、普段通りに会話を進める。
すると背後から
「どうもこうも、めちゃくちゃだ、俺が寝てる間に勝手に宗教なんぞ始めやがって」
そうぼやいているのはベーゲルの銅像にそっくりな魔王だ。
彼は魔神ベーゲルが現世に降臨した尊い存在として日々
奇跡のノルマを果し続けていた。
そんな彼の不満を聞いたメドシンは
「任せるって言ったし、起こすとも言った」
冷たくあしらわれたベーゲルが
「任せるじゃなくて、乗っかるっていった。
で、起こすのは途中じゃなくて最後でって言ったんだよ!
でも、俺が魔王で良かったよ、普通の人間だったら奇跡起こせないもんな!
それじゃあ俺はそろそろ、奇跡を起こす時間がくるんで行ってくるわ!」
そんな彼をいってらっしゃい、と見送った後
ゼンがようやく本題に入る。
「どうかなあ、神の召喚は進んでるの?」
メドシンが進めていたのは教団信者の信仰心を媒介として神を召喚し
その力を自らの物にする事だ。
しかしこれまで数々の兆しはあったが、実態を具現化させることができずにいた。
そこで人間がより神の存在を感じやすくするために
ベーゲルを目覚めさせ、奇跡を起こさているのが現状だった。
話を聞いて頑張っている魔王メドシンに少し同情しながら
ゼンはその場を離れる。
彼にはもう一つ、見ておきたい場所があったからだ。
そして彼が訪れたのは、同じトーレス大陸でベーゲル達と敵対している
インフェクシアス教団のバニティのと所だった。
ゼンが突然バニティの屋敷を訪れたにもかかわらず、警戒するでもなく客間に通された
そこで出されたお茶を飲んでいると、間もなくバニティが現れる。
「ようこそナザードの魔王、今度はトーレスを標的にするのですか?」
静かな問いかけにゼンが
「残念ながら、今の私にはその力がありません。
今はただ、世界を見る目として存在しているだけです」
ナザードの魔王が封印された時、魔獣や魔物は姿を消したが
彼の存在だけは消える事が無く、その後もこの世界にかかわり続けた。
そんな彼の存在を初対面で見抜いたバニティは、かつてナザードの魔王城で
彼の魔力に触れ、その後クロツ大陸で魔王女の口づけにより
魔王の能力の一部を吸収したことで、勇者と魔王の力を手に入れた存在となっているようだった。
そんなバニティに対してゼンが
「貴方はここで何をしようというのですか?」
バニティの最初の言葉を聞いてから、ゼンのいい加減な口調は消え失せている。
「神の創造です、私は勇者と魔王の力を手に入れ、そして今また
新たに神の力も得ようとしています。
あの日、魔王女に口づけをされた時の彼女の問いに、もうすぐ答えが出ようとしています」
そう言うともはやこれ以上話をすることはないと、バニティはゼンを紳士的に送り出す。
ゼンは一人夜道を歩きながら
「決められた時までもうあまり猶予もない、彼が本物であれば良いんだが・・・」
そう独り言をつぶやいてその地を後にした。




