放たれる悪意
南ナザ-ド連邦の勇者ミグリスが魔王討伐に向け出発するために
父であるチャーバンは奔走していた。
彼は自室で、自分の子飼いの部下で最も優秀な二人と各支部の能力ある者を選中考だった。
そこに息子のミグリスが入って来る。
「父さん、話があるんですが」
息子に甘いチャーバンはすぐにを止めてる。
「今回の魔王討伐なんですが、従者は二人だけを連れて行こうと思っています」
当然、表面上はそうなるだろうと父は答えたのだが
息子の希望はそれだけで良いと言うのだ。
「いや、しかしそれではあまりにも危険すぎる」
あまりにも凡才すぎる我が子に対して
父として息子の安全を第一に考えての事だったが
ミグリスの考えは違った。
「今の状況では、魔王の居場所も彼らの戦力も分っていません。
いくら影からの護衛とはいえ、それが漏れれば勇者商会の権威は失われます」
息子のいう事も分かるが、かといって少人数で行ったが死んでしまった。
と言うのでは身も蓋もない、決めかねて出た言葉が
「しばらく待ちなさい、姉に相談してみよう」
だった。
ミグリスは少し不服そうだったが、おとなしく引き下がる。
チャーバンは慌ただしく机を片付けると、姉の元へと向かった。
姉の自宅には彼女が家族と団欒を楽しんでいた。
弟の突然の訪問に少し不機嫌になりながらも
客間へと通して話を聞く。
「ここに来た、という事はあなたも私の案に反対なのね?」
鋭い視線を受けて何も言えなくなってしまう弟の姿を見て
深いため息をつくと。
「良いわ、影からの護衛には私の部下を付けましょう。
そうすればあの子にも分からないし、あなたも安心でしょう」
それを聞いて、息子に対して彼の望む返事ができるというれしさと
正直な所、面倒だと思っていた護衛の選考をしなくて済むようになったことに
笑顔を見せながら姉に礼を言って帰っていった。
その後ろ姿を見送りながら、再び深いため息をつき。
家族の元へと戻っていく。
居間には主人と娘がおり、ソミンは二人に
「私たちにはうれしい知らせだったわ。
ミグリスは魔王討伐に従者を二人しか連れて行かないそうよ。
普通の子だと思っていたけど、間違いね、愚かな子だったようね」
彼女は今回の魔王討伐の途中で甥の暗殺を計画していた。
弟に対して影からの護衛を提案したのは、その中に暗殺者を潜ませる狙いがあった。
大好きな息子のため、と言えば断るはずがない。
そう思っていたのだが、今回の申し出により自分の配下である
暗殺者のみを同行させることが出来るのはうれしい誤算だった。
存在がばれた場合でも、ミグリス公認の護衛という言い逃れができる。
後は自分の娘であるバニッティが魔王を倒せば、勇者商会では
初の女勇者の誕生となる。
ソミンは自らが勇者たらん、と考えていたが
勇者としての適性の低さに落胆し、我が子を勇者に
という思いから、勇者として適性の高い男性と結婚し、娘を生んだ。
我が子を見た時に彼女は、この子は必ず勇者になる。
娘こそが勇者カスミの再来、と熱心に教育を行う。
そして、ようやくその機会が訪れようとしている。
ソミンは旦那と娘に旅の支度をさせ、ミグリスの後を追うように
旅立たせる予定だった。
彼女は魔王を倒した娘と共に、勇者を生み育てた偉大なる母
としてこの大陸に名を残すだろう。
そう考えると自然と笑みがこぼれてくるのだった。




