名前のない勇者
ナザ-ド大陸、カルウ王国の魔王城にほど近い農村に
魔王討伐に貢献した勇者の末裔が住んでいる。
彼らは大きな恩賞や名誉を受けたわけではなく
ただ、普通の人々と共に暮らしていた。
元々、名前のない勇者として歴史に取り上げられることも無かったので
子孫には、特に大きな期待がかかっておらず
平穏に暮らしていた。
幸いなことに、子や孫は勇者としての才能は受け継がれていたので
勇者の子孫として、その才能を遺憾なく発揮することによって
日々、生活を送っていた。
本心で言えば、初代は名も無き勇者として、そのまま忘れ去られることを望んでいたが
あの日、カルウ王国祝賀会でディアスと会い、その真意を悟った彼は
故郷を捨て、魔王城近くでの生活を始めた。
そんな彼が亡くなる前に子供達を集め
「すまない、私達の力が及ばなかった。
そのせいで後の者には苦労を掛ける」
朦朧とした意識の中で残念そうにそう呟き、その後息を引き取った。
息子はそれを聞いて、魔王討伐の勇者の中で
認められず、名誉も恩賞も与えられなかったことに対する気持ちだ
と思っていた。
とはいえ、今更名誉回復の為に何かを成そうとは思わず
ただ、平々凡々と時は流れ、やがて魔王城は観光名所となり村も賑わいをみせるようになった。
だが残念なことに、勇者の子孫にはこの地に初代が移り住んで以来
借家、借地の生活でだった為、観光事業の恩恵を受けることが出来なかった。
その貧しい家には、今はもう母と十歳になる少年が暮らしているだけだった。
そんな勇者の末裔が住む家に白馬に乗ったおじいさんがやって来る。
勇者の家に着いた老人がドアをノックすると
現れたのは少年だけで、他の家族の姿はない。
昼食時で、テーブルには食べかけの昼食が置かれていた。
老人は屋内に招き入れられ、少年が白湯を出してくれる。
「家の人はどうしたのかな?」
少年に優しく問いかけると、中断した食事を続けながら
「とーちゃんとにーちゃんはずっと前に魔物退治におでかけ!
かーちゃんは魔王城でパートのお仕事してるよ!
かーちゃん、今月から中ボスに出世したからお給料アップしたって喜んでた。
でも、帰って来るのがちょっと遅くなるんだよ」
それを聞いて、彼の母が魔王城の魔王討伐イベントの中ボスを
やっていると知る、それはリッジが直接指示したわけでは無いが
勇者の子孫に魔王の手下を演じさせる、その立場を複雑に感じていた。
「かーちゃんが帰ってくるまでいつも何をしてるんだい?」
リッジのその問いに少年は
「お仕事!」
と元気に答えるとリッジの手を引き、家の裏の林に連れ出す。
草木が茂る林の地面の一部が茶色く変色している所がある。
そこまで連れてきた少年はリッジに、まっててと言い
一人、林に入っていく。
しばらくして木の枝葉を大量に抱えた少年が戻ってくると
変色している場所にそれらを置く
そして静かに呪文を唱え始める。
その魔法に魔法陣が生成され、枝葉に作用して急速に腐食していく。
「これは・・・」
驚きを隠せないリッジに少年が
「腐葉土っていうんだよ、みんなからすごい人気でいっぱい作るから
凄く疲れちゃうんだ」
自慢げに語る少年を褒め、夕暮れまでその作業を見守っていた。
やがて疲れてのか、もうすぐばんごはん
と家へと戻っていく。
それにつられてリッジも後を追う。
すると丁度、彼の母親が帰って来る所だった。
そして、リッジは母親に国王との話を告げるのだった。




