クロツ大陸 21
コムが魔獣に対して使ったのは、ベルクと
魔獣の分離を目的とする魔法だ。
ベルクは契約を行い、魔獣と精神的な融合を果ている。
これを引き剝がせば、魔獣は再び封印することが出来るだろう。
この魔法を完成させる為、コムは昼夜、研究していた。
しかし決戦の時に至っても、期間が短かすぎて術を完成させることが出来ず
魔法の発動を足掛かりに独自の手法で分断を試みる。
という方法を選択するしかなかった。
この中途半端な状態は、ベルクと魔獣に壮絶な痛みを与えていた。
その痛みにベルクは昏倒し魔獣は怒り狂って暴れている。
もはや魔獣に近づくことさえ出来ない状態だった
が、その攻撃を避け、コムは術を継続する。
それを見た魔獣が、狂気を宿した瞳を輝かせながら、呪文を唱える。
その呪文の意味に気が付いたのは、ババロだ。
「魔獣から距離をとれ、決して触れてはならない!」
そう言うと自らも距離を取りる。
そして魔法が完成し、魔獣の全身が黒い霧に覆われたが、既に周囲は避難して入る。
そこで魔獣がとった行動は、森林へ向かっての逃走だった。
コムから距離を取れば効力が薄れる、と思ったのだろう。
だが、一番最初の呪文で魔獣に対して楔を打ち込んでいる為に
距離が離れても、効力が失われることは無い。
それに、もう間もなく儀式は完了する。
コム達の意識はそこに集中していた、その為に魔獣の意図が見えていなかった。
ただ、ベルクのそ側にいたユリイは呪文を聞いた段階で
自分の部下たちに撤退を指示している。
そして、森にいる解放軍一万二千の兵士達の只中に
魔獣が突っ込む。
森で待機していた兵士達が魔獣の黒い霧に侵され
人で無い物に変貌していく。
そして彼らは、かつての同胞たちに襲いかかっていった。
ただ、魔獣が森に入って間もなくコムの儀式が完成していた為
全てが魔物に変貌する事態は避けられた。
魔獣の全身が光に包まれ、霧散していく。
そして後に残ったのは、魔獣を封印したクリスタルと
変貌した魔物の軍団だった。
魔物は次々に兵士を襲う。
それに対して魔導士達が応戦をする。
この魔物達には魔導士の呪文が通じているようだ。
魔物を牽制しつつ、撤退の準備をしていると
上空の飛龍たちが警戒の鳴き声を上げる。
黒竜の姿は既になく、いずこかに飛び去っているようだったが
飛龍の動揺に地上の魔物達まで怯え始める。
そして天空に紅い魔法陣が現れ、そこから一人の女性が舞い降りてくる。
彼女の目的はコムにあるようで、彼の近くに静かに着地した。
「初めまして、勇者コム」
彼女が笑顔で挨拶する。
返事をするより先にコムが呪文を放った。
魔獣を拘束したものと同じ鎖が彼女を縛る。
「貴女をこのまま倒します」
その答えを聞いて彼女は少しがっかりとした表情で
「今のままでは物足りないけれど
貴方にチャンスをあげましょう。
ただ、この先の舞台に上がることは出来るけれど
後はあなた次第」
そう言って悠然とコムに近づき、彼に口づけをする。
束縛の鎖は跡形もなく消えていた。
「これは祝福のキスなのかしら?
それとも、呪いの接吻?」
首を傾げながら悩んでいたが
「それは今度、貴方に会った時に聞く事にしましょう」
そう言うと、頭上に現れた魔法陣に吸い込まれるように消えていった。
そうして後に、残された者達は恐怖の呪縛から解放されたが
互いに争う気力もなく、魔物達はバラバラといずこかへ消えていく。
タ-ヅも、もはや先住民に対抗の手段がない、と判断し撤退を開始し
後に残されたバナヤ-ハットの兵士達は皆、ベルクの元に集まっていた。
それはもはや死は免れないだろう、ベルクの最後の言葉を聞く為だった。




