クロツ大陸 20
バナヤ-ハット首領、ベルクの表情が険しくなる。
自分の周りにはもう、十数人の兵しかおらず。
この状況で魔獣がの力を失えば、彼にはもう手段が一つしか
残っていない。
ただ、その力を使うことはこの世界を破滅に導くのではないか?
という恐怖が彼を思いとどまらせていた。
何か打開策は無いか?
そう思いながら、周囲に目をやる。
まず目に入ったのはユリイだったが、彼女は
森林で敵を攪乱する為の兵士に憑依魔法を使っている為
魔獣の援護までは手が回らないようだった。
次に、ペンに目をやると
「ようやく、俺にも出番が廻ってきたようだ」
もはや言葉遣いに何の遠慮も感じられなかったが
「頼む」
と言うベルクの言葉に嬉しそうにニヤリと笑う。
そして呪文を唱えると、放たれた矢のような勢いで
魔獣が拘束されている所に到達し、勇者コムと対峙した。
「ようこそナザ-ド大陸の勇者よ、貴方の事はよく存じております」
仰々しく挨拶をしつつ、魔獣に対して拘束の魔法をかけている術者を探す。
「私を知っているのであれば、ナザ-ドで魔王がどうなったかも
知っているでしょう。
君たちは何故、魔王に与して人々の平穏を奪おうとするのですか?」
その問いかけに思わず。
「平穏を奪う?元々はナザ-ドから来た者達が始めた事じゃないのか!
彼らは自分達の幸せを守るために仕方なく魔獣の力を使ったんだぞ!」
そう言われたコムは冷静に
「より多くの人々が幸せになる為に、少数が不幸になる事は
往々にしてあるものです。残念ながらすべての人が幸せになる事は不可能なのです。
しかし、たとえどんな理由があっても、越えてはいけない一線
と言うものがあります。それが魔王の力です。
魔王の力を使用すれば、凶悪な魔獣に支配され、この世はいずれ破滅してしまう。
かつて、ナザ-ドはその為に全ての人々が不幸になる所でした。
そしてまた、この大陸でも同じ事が繰り返されようとしている。
私は勇者として、それを阻止しなければならない。
あなたが魔獣に味方するというのであれば、私はあなたも倒さなくてはなりません」
それを聞いてペンが
「倒せるって言うならやってみな、あんたが勇者だったのは昔の話で
今じゃ、その力も衰えたんじゃないのか!?」
そう言いながら数個のクリスタルを空へと投げ、呪文を唱える。
解放の呪文はクリスタルに封じていた魔法を発動させる。
そしてそれは、無差別に攻撃を周囲に放った。
一瞬と言っていいほどの時間だった為
コム達が反応しきれず、動揺している間に
ペンは次の魔法を完成させ、魔獣を拘束している魔導士を攻撃する。
それにより、僅かに緩んだ枷を断ち切った魔獣が再び襲いかかろうと
コム達に迫って行く。
ペンはその場から距離を置こうとするが、魔導士達の魔法攻撃に
防御するだけで逃げ出すことが出来なかった。
一方、コムは魔獣の攻撃をかわしながら魔法を唱える。
魔法が完成し、攻撃が魔獣に命中する。
そして再び魔獣の動きが止まったように見えた。
刹那、猛然と魔獣が暴れだす。
その勢いでペンを足止めしていた魔導士が倒される。
おかげでペンはその場を離脱することが出来た。
その時コムの様子は目に入ったが、彼は呪文を放った後も
継続して何かの儀式を行っているようだった。




