クロツ大陸 19
クロツ大陸の上空に浮かぶ庭園。
魔王女はここから大陸を見渡していた。
「引っ越ししたんですねえ」
ナザ-ド大陸魔王の側近であった彼の突然の訪問に、少しだけ驚いた彼女は
彼を縁側に招き、茶を振舞って要件を聞く。
「今日はどんなご用かしら?」
その姿に彼はもどかしさを感じ
温かいお茶を啜りながら、つい口にしてしまう。
「なんだか、盛り上がりに欠けるんだよねえ」
そんな言葉を聞いて微笑みながら
「まだ始まってもいないのに、盛り上がるのは難しくない?」
彼女は、自分の行動が次の段階に進む為の準備でしかないことを知っている。
そのこと自体に不満なく、自分の持てる力をすべて使って実行しよう
と思っている、だからと言って、彼を満足させる為に
余計なことをするつもりもない。
そんな雰囲気を感じて、彼が再び彼女に
「でも、今のままじゃバランスが良くないんじゃないかなあ」
「今のままでも、十分すぎるとおもうけど?」
あくまで態度を変えない魔王女に彼はある言葉を囁いた。
それを聞いて、彼女の表情が強張る。
「まさか、貴方・・・」
「いや、それは誤解だねえ。
ナザ-ドの魔王も封じられたくらいだし、人間も侮れない
といった方が良いんじゃないかなあ?」
その言葉を完全に信用したわけでは無いが
彼の言葉が本当なら、少し手を加える必要がありそうだ。
そんな彼女の表情を見た彼は、ナザ-ドの魔王が封印されたのは
自分の希望からだったんだよ。
と、心の中で注釈をつけておいた。
「で、それは本当なの?」
彼女の問いかけに、一瞬、心の中を読まれたのか?
と思ったが、彼女が聞いているのは先程自分が囁いた言葉に関してだ
と気が付いて、軽く咳払いをしながら。
「もちろんだよ、彼の名前はコム。
ナザ-ドで魔王討伐に参加した勇者の一人さ」
その答えに彼女は
「良いわ、そういう事なら少し手を加える必要があるかもしれない」
それを聞いて、嬉しそな彼を見て
「別にあなたの為じゃない」
と言い終わるのを待たずに彼は姿を消してしまう。
残された彼女は一人、お茶を飲みながら
どうしたら盛り上がるか?
を静かに考えるのだった。
ト-レス大陸の洞窟に現れた彼が見たのは
怪しげな集団だった。
「何者だ!」
怪しい集団に周囲を囲まれる。
「待ちなさい、彼も選ばれた者です」
重々しく深い声で制止する。
そこに現れたのはト-レスの魔王だった。
祭壇の奥の小さな部屋に通された彼は
「なんだか怪しい集団だねえ」
しばらく訪れていなかった間に
何が起こったのか、興味深々だった。
「魔神ベーゲル教団の信徒」
そして、何やら偶像を取り出す。
そこにはトーレスの魔王に全てを丸投げした
もう一人の魔王の姿が刻まれていた。
「彼って、こんな名前だったんだねえ」
彼らにとって名前など特に興味の無い物だった為
特に気にしていなかったが、言われるとしっくりくるかもしれない
などと考えていたら。
「適当につけた」
ト-レスの魔王曰く、人間に教団を浸透させるために必要だったようだ。
それを聞いて
「僕も名前を付けよう。
今から僕はゼンと名乗ろう。
これからは皆、僕の事をゼンと呼んでくれ」
ここに来た本来の目的を忘れ、名前を付けたことに
少しウキウキしながら、その場を去るのだった。




