クロツ大陸 17
大陸の南に魔獣のクリスタルが発見された。
この報告はすぐにベルクの元へと伝えられる。
これは解放軍のタ-ヅが知るよりも二日ほど早かった。
彼は迅速に、兵士をカノア森林地帯に潜ませるよう
指示を出す。
バナヤ-ハット兵士の数は千五百、森林地帯で解放軍を可能な限り追い詰め
ようとしていた。
ただベルク自身も、僅か千五百の兵士で解放軍一万を打ち倒せるとは思ってはいない。
彼の狙いは、どれだけ解放軍を精神的に追い込めるか
という事にある。
勇猛な将軍や勇者、知識のある賢者がいくら指揮をとろうと
実際に戦う兵士の士気が下がれば戦いにはならない。
彼らが戦いを放棄すれば必然的に撤退せざるを得ない。
そうすれば、しばらく時が稼げる。
それと並行して南の魔獣と同盟を行い
圧倒的な力を盾に、この戦いを休戦に持ち込もうと考えていた。
そんな思惑を、老婆とペンに話していると
「上手くいくといいな」
いつからこんな話し方になってしまったのか
十六番目の勇者ペンが、友人に話すようにベルクに言う。
「南の魔獣は、まだ覚醒していないようだ。
だが、重要なのは我々が南の魔獣と同盟を組むかもしれない。
という事であって、実際に同盟が成立するかは
別の話で、敵がその噂を信じ、危機を感じて休戦に応じてくれるのが
一番有難いのだが」
それを聞いて老婆が
「南の魔獣が敵対するようならどうする?」
と問う。
「さて、今はただ目の前の問題に手いっぱいで
そんな先のことはわからないな。
しかし、万が一の時には彼らに任せるしか無いだろう」
ここでベルクが口にした彼らとは、離反したワイフやセリス、ダロアの事だった。
ワイフは決戦を前に不穏分子である首領達と信頼のおける二人と共に
解放軍に下り、ババロの信頼を得る為、バナヤ-ハットの機密である魔法の呪文を
渡すことで自分達の地位を確立する。
これは全て、バナヤ-ハットが敗れた場合に、敗者である彼らを自分の庇護下に置く為に
とった行動で、ワイフが裏切り者の汚名を受けてなお、成し遂げようとしたのは
彼がベルクにとって最も頼りになる男
だという事を自負していたからだと思えた。
そして、セリスとダロアが危険を冒して大陸を北上したのも
行き場を失った者達の最後の拠り所として、北の地を訪れることが
出来る様に、という思いがあった。
そんな彼らにも、また自分の元に残ってくれた者達にも
辛い思いをさせている。
そんな事をぼんやり考えていると老婆と目が合った。
「ユリイ、貴女には辛い思いをさせてしまったな」
孫と別れた老婆を気遣い、声をかける。
それに答えようを老婆が口を開いた時
そこに一人の男が現れて言う。
「そのような気苦労をされていたのなら、ご相談ください」
突然の訪問者に三人は動揺したが
彼の顔を見てベルクが二人を制した。
「随分と久しぶりだな」
毎回の突然の訪問にもはや驚きも薄れてしまう。
「この所、少し忙しかったので。
しかし、あなたのお力になれるものを持ってきました。
こちらをお使いください」
そう言って、クリスタルを渡した時のように指輪を差し出す。
その様子でその時のことを思い出したのか
「これは?」
という声が、緊張のあまりかすれてしまう。
だが、ベルクは聞かずにはおれなかった。
そんな緊張が老婆とペンの身を固くする。
そんな様子を気にも留めずに男が答えた。
「これは『鍵』です。
魔獣の世界とこの世界の扉を開く。
これがあれば、この世に貴方に敵うものなど者などいなくなります。
たとえそれが勇者であっても」
そう言い終えると、ちらりとペンの様子を伺う。
無反応なペンを見て、では、と挨拶をすると彼は出ていった。
三人はその後、無言で陣を去っていった。
そして数日後、解放軍の進軍が始まる。




