逃走
鋭い痛みに我に返ったリジュアルが自分の足に喰らい付いている
そのスタフの生首から逃れようともがいた。
だが、どれだけ暴れても、生首を引き剝がす事が出来ない。
しかも噛みつかれた傷口から、得体のしれない何かが這い上がってくる。
リジュアルの記憶は、ここで途絶えた。
なまじ意識がある中で、スタフの力に浸食され
脳を侵される恐怖を体感するよりも、意識を失った状態で
蹂躙される方が、良かったのかもしれない。
戦意を無くした兄妹を見て、スタフの肉体と戦闘中だったディアスと
ペンが、同時にため息をついた。
それは、兄妹のあまりのふがいなさに、思わず漏れたものだったが
その様子を互いに認識した二人は、再び同時に苦笑いをする。
ただ、この二人が戦いに関して余裕があったか?
といえば、それは否定されていただろう。
スタフの首のない肉体は思考を行わない分、反射のみで攻撃を繰り出す。
その攻撃はディアスたちの反応速度をはるかに超え、二人は防戦一方だったからだ。
「希望の光」
いつの間に呪文を唱えたのか、ペンの魔法が放たれる。
この魔法によって、スタフの肉体が最も求めている敵の存在を認識する。
それは現実ではない、気配だけの存在。
肉体は力尽きるまで、その存在を追い求めることになる。
その姿を横目に見ながら、素早い動きでリジュアルに近づいたのは
ディアスだ。
彼は剣を振るい、スタフに噛みつかれた右足のひざ下から切り飛ばす。
激痛で意識を取り戻したリジュアルだったが、自分の足のを見て
嘔吐し、再び意識を失った。
獲物を失った生首が、ディアスに襲い掛かろうとするが
剣で弾き飛ばした。
その間にもペンはリジュアルの傷に治療の魔法をかけている。
その傍らにはティージングが、置物のように身動き一つすることなく
へたり込んでいた。
「君たちが勇者になるための課題は、精神面の強さのようだね」
そういった後、ペンと共に呪文の詠唱に入る。
その間に光を求めて彷徨っていたスタフの肉体が
ようやく自分の頭を拾い上げていた。
ただ、頭が元の位置に収まったからと言って
失われて理性は戻っていないようだ。
そんなスタフに対してディアスは白銀の
そしてペンは赤い魔方陣で魔法を放つ。
その直撃を受けても、スタフは意に介していないようだ。
その様子を見た二人は、ディアスがリジュアル
ペンがティージングを担ぎ上げ、それぞれが別の方向に逃走する。
一瞬迷ったスタフが追ったのはディアスとリジュアルだった。
ペンたちに比べて力が劣る二人を倒し、その力を取り込もう
そう考えての行動なのか、本能のまま条件反射で追っているのか
追われている二人にはわからない。
ただ、この場で戦うか、それとも命を差し出すか。
どちらかを選ばなければならない、と言う事だけは
はっきりとしていた。




