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(後編)

なぁ香織


結局俺は、お前を上手に愛すことができなかったんだな。




俺は仕事も日雇いみたいな仕事しかしてなくって

学がないから仕方ないんだけど、でもこのままじゃいけないって思ったから

新しく仕事も変えて一生懸命働いた。

仕事が忙しくなるとなかなか香織にも会わなくなって

付き合いとかも今まではしなかったけど、やっぱり働いてる以上は必要で

正直言ってそんな同僚との付き合いが楽しくなってたのも事実だった。



会えなくても香織から電話があることはあまりなくって

考えたらいつも俺からあいつに電話してる気がしてた。

それが悔しくて意地になってたのかもしれないけど

俺もあまり電話をしなくなった。

元々女にそんなに連絡する人間じゃないし

付き合いも長くなってきてたから、こんなもんだろうとか簡単に考えてた。



連絡してこない香織と違って、まこはこまめに電話をかけてくる。

俺と香織が揉めても必ず仲直りさせてくれるからすごい女だ。

いつも香織のことを話してくれるから会わなくても元気だとわかる。

こいつは本当に香織のことをよく見てる。そういう意味じゃ負けてるかもなって思った。




そんな時まこが俺を好きだと言い出した。

確かにまこはいい女だと思う。

性格も外見も、揺れなかったと言えば嘘になるかもな。

だけど俺は香織と別れるつもりはなかったからはっきり断った。

友達としてならいいよねって言うまこに俺は頷いた。



この頃から香織はあまり笑わなくなった。

もしかして、まこの事知ってるのかとも思ったけど

二人は相変わらず仲良くやってるみたいだからそれはないだろうと思ってた。

さすがにまこも香織には言えないだろうし。

だけどあいつは突然、俺に相談もなしに会社まで辞めてしまった。

理由を聞いても特にないって言うし、そんなあいつのことが少しずつ分からなくなってた。

なんで連絡をよこさないのかも、本当に俺のことが好きなのかも。

いつの間にか俺は、香織と距離を置くようになってた。

無意識だったけど、よく考えたら香織には寂しい思いをさせてたのかもしれないな。




新しく働き始めたのはなぜか喫茶店でちょっと驚いたけど

あいつが無類のコーヒー好きなのは知ってたから、まぁわかる気がした。

だけどそれからどんどんあいつの様子がおかしくなっていった。

帰りに家に寄っても居ないことが多くなった。

だけど、やっと会えた香織に俺は何も聞かなかった。

別に興味がなかったとかじゃ決してなくて

ただ何となく、聞けなかった。

あいつの言う通り、会ってもただ抱くだけだった。

抱くことで俺はどっか安心しきってた。






でも突然、電話しても出なくなった香織に俺は焦った。

携帯にかけても家にかけても出ない。

何度鳴らしても出ない電話に苛立ってしまった俺は

あの日あいつのアパートの前で待ち伏せした。

腹立ち半分、心配半分ってとこかな。

香織を待ち伏せするのは慣れっこだから別に苦にはならない。

合鍵は持ってるけど留守の家に入るのは好きじゃない。



あいつがどっかの男の車から降りてきた時はマジで切れそうだった。

でも何も事情がわからないのと、自分がかなり混乱してるのがわかったから

とりあえず香織に事情を聞いてからと思った。

まさか別れ話になるとは思ってもみなかった。


話があるって言われて、さっきの男だとピンときた。

もしそうなら絶対に許さねぇ。

すぐに済む話だと香織が言った時が一番堪えた。

俺との別れ話がそんなに簡単に済むのか?

別れてくれっていうあいつの顔すら見れなくて

勢いで香織を傷つけてしまいそうな自分に、落ち着けと言い聞かせた。



翌日、同僚の誘いも断って俺は香織の家に言った。

別れ話なんか絶対させねぇ。俺はこいつとずっと一緒にいたい。

いつか俺がもう少し稼げるようになったらその時は・・・。



香織は飯を食ってて、もう食べないって言うから

久しぶりに香織の作ったもん食いたくなってそれを貰った。

付き合いだした頃は、よく色々食わしてもらってた。

あいつは結構、料理は得意なほうだったから。


「あのさ、昨日の話の続き・・・していい?」


何も聞くつもりはなかった。聞けば終わってしまう。

みっともない姿かもしれないけど、別にそれでもよかった。

それなのにあいつ・・・

なんで泣くんだ?そんなに俺が嫌なのか?

それとも昨日の男のせいなのか?



その時の俺は自分でもブレーキが利かなくなってて、

わかってるのに、ここで香織を抱いたところで


もうきっと・・・


その晩は香織の傍に居てずっと香織を見てた。

横で眠るあいつの顔を見て俺は・・・



朝、香織の淹れてくれたコーヒーは凄く旨くて 

もっと早く俺がしっかりこいつを捕まえておけばよかったと後悔した。




香織からはすぐに連絡があった。きっと言ってくると思ってた。

往生際の悪い俺は嘘をついてしまったけど

香織は早く自由になりたいみたいで、その日のうちに会いに行った。

その時にはもう決心はついてた。


土産に持っていったあの店のたこ焼きを旨いって食ってた。

食いながら、泣いてた。

あの時は嬉しそうに笑って食ってたのに。


俺が引けば、香織はきっとあの男の所に行くんだろう。

そう思うと情けないくらいに悲しかった。

思った通り、やっぱり香織はあの男のことが好きだと言う。

その涙は俺のせいなのか?

俺がこいつを泣かしてるのかと思うと辛かった。

これじゃあの時の張り紙野郎と一緒じゃねぇかって思った。

最後くらいは男らしく潔くしようと思ってたのに


「・・・最後だから・・・今日だけ・・・」


香織の言葉に、俺はいけないとわかっていながらあいつを抱いてしまった。

終わるためにあいつを抱いたんだ。



なぁ、香織


俺はどこで間違ったんだろうな。




まこが俺のとこにきて、香織の代わりにして欲しいって言った時

正直、誰でもいいから傍に置いときたかった。

やって来たまこをめちゃくちゃに抱いた。

だけどまこは文句ひとつ言わなくって

今思えば、まこにはほんとに悪いことしたと思ってる。

でもその時はまだ・・・

だけどまこはそんな俺をわかってくれて

いつまでも香織のことを引きずるこの俺に真剣に向かってきた。


そんなまこは俺にとって、いつの間にか大きな存在になってた。

こんな俺でも一生懸命尽くしてくれて、駄目な俺を叱ってくれる。

案外こんな女のほうが俺には丁度いいのかもなって。


「まこ、俺と一緒になる気あるか?」

「・・・隆志?」

「もし、その気あるなら・・・・・」

「もう・・・・・身代わりじゃないよね」

「お前なぁ、最初からあいつの代わりはお前には絶対無理だろ。キャラ違いすぎ。あんな泣き虫な女よりお前みたいな女の方が俺にはいいんだよ。分かったか?」


そう言ったらあいつ、ビービー泣きやがって。

涙とかほんと、似合わない女なのに。



そして俺はまこと一緒になった。

今はこれで良かったんだとマジで思ってる。

まこは俺に良く似合う女だと本心で思うから。





さっきまで泣かず飛ばずだった台が急に噴いた。

そろそろ迎えにいかねぇとまずいのに。

この勝ちでまこに何か買ってやろうかな。

あいつずっと同じ靴はいてたから、そろそろ新品でも買ってやろうか。



パチンコ屋を出てすぐに、まこから電話が鳴った。

いつものように強引ですぐに来いって言いやがる。

あいつらしいよな。



まこは車の中ではいつになく静かで

まさか俺が昔のこと、まだ引きずってるとでも思ってるのか?

残念ながらもう済んだことだし、昔の女が幸せになったってだけの事だろ。

よかったんじゃねぇか?



まこが行きたがってた店に連れて行ったら、こいつまた泣いちまって

泣くほどの事じゃないだろうに、そんなに不安にさせてたのかと思うと


胸が痛くて・・・・・こいつが愛しくて・・・・・




まこ・・・明日は俺が靴を買いにいってやるから。

新しい靴でどっか連れて行ってやるからな。

行きたいとこ、決めとけ。






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