ロボット、SF、宇宙、戦争/試作品
「来たぞ」
操縦席で呟く。
警戒機から送られてくる敵接近の情報。
戦闘はこれが初めてではないが、それでも緊張する。
設定された防衛線の一つに敵はさしかかろうとしている。
近づいてくる交戦を前に、あらためてレーダーに目を向け、機体の状態を確認する。
神経接続による操縦なので、操縦桿などはほとんど意味をなしてない。
同じく、計器の類も実際にはほとんど使用しない。
必要な事は、神経接続を通じて脳に直接情報が送られるようになっている。
それらが用いられるのは、機体に何らかの異常が起こり、手動で操縦せざるえなくなった時になる。
そうなったら、機体の制御なんて不可能なほど損害を受けてるであろう。
そもそも、そこまでいく前に、機体ごと撃破されているのが普通だ。
操縦席の旧態然とした操縦装置の数々は、いってみれば気休めでしかない。
だからこそ、緊張した時には気分を紛らわす役に立ってくれていた。
そうする間にも敵は迫ってくる。
「現在、第三警戒線に接近」
偵察艦隊からの続報に、艦隊司令部も色めき立つ。
小惑星を改造し、推進器と基地機能、更には様々な施設を持つ司令部艦。
その中枢はおさまる事のない騒動で混乱の様相を呈していた。
艦船・戦闘機格納庫においてもそれは同様で、予定が少しずつ遅れていっている。
それも予定のうちの一つと割り切って、提督は目の前の敵について考えていった。
いつもの事だが、相変わらず膨大な数で押し寄せてくる。
撃退が不可能というわけではない。
ただ、損害は膨大なものになる。
この戦いが始まった時からこれは変わる事がない。
もちろん、当時に比べれば損害は格段に減少している。
それでも、後退に後退を続ける事はなくなったというだけである。
ようやく拮抗状態に持ち込めるようになり、戦力の維持がギリギリで出来るようになった。
損害と補充の数が釣り合うようになった、と言える。
失った植民地の奪回も、敵を押し返す事も出来てはいない。
こんな状況だから、熟練兵もなかなか育たない。
兵士としての平均寿命が二年三年という状態だ。
誰もが新兵同然と言える軍勢で敵を押し返すのはかなりの無茶を要求される。
それでも、ここから退くわけにはいかなかった。
「やれやれ……」
艦隊を率いる提督は誰に聞かれる事もないほど小さくぼやくと、あらためて戦闘指揮にのりだす。
前回の戦闘で戦力の三割が失われた。
その補充で艦隊全体の三割が新人である。
いつもの事ではあるが、これで戦うというのは無理にもほどがあった。
犠牲はなるべく少なくしたいが、そうするために必要な人材が足りない。
せめて今回は、損害が前回より少ないことを願うしかない。
辺境星域外周部。
人類の中心地である地球から遠く離れた場所。
日本帝国軍所属第4395艦隊は、迫り来る敵に対して陣形を保ちつつ接触しようとしていた。
偵察に出ていた情報収集艦隊は既に敵を捕捉。
規模や詳細は依然として不明なままであるが、敵前衛は完全に捕捉出来ている。
艦船型と呼ばれる大型敵珪素生物が400。
いずれ全長10キロはある巨大な化け物である。
これに内蔵されてる闘士型と呼ばれる、いわば戦闘機にあたる珪素生物が20機ほど飛び立ってくる。
この闘士型だけで推定8000となる。
これらに対して、艦隊は総数150隻。
戦闘機、約1000。
数において圧倒的に不利である。
それでも、これが展開出来る戦力のほとんどである。
艦隊に所属する全ての者達が、不退転の決意で前に向かっていこうとしていた。
出撃準備を急ぐ戦闘機達。
専用の航空母艦から、航空機運用能力をもってる艦艇から、彼らは次々と飛び立っていく。
鳳翔8327の格納庫からも、今一機が飛び立とうとしていた。
「機体、牽引機接続」
射出機に機体が接続される。
「出力上昇」
「発射十五秒前」
ギリギリまで機体に張り付いていた整備員達が離れていく。
艦体の外側に作られた射出機の前は、遮るもののない状態で進むべき方向へと向いていた。
その先では、既に先行した部隊が戦闘を行っているはずだった。
肉眼でとらえる事はできないが、神経接続を通して得られる機体の目がしかりと見ている。
様々な所からデータリンクで送られてくる情報も、戦況を教えてくれていた。
今のところ順調のようなのが少しだけ安心させてくれる。
すぐに逆転されそうな形勢であったとしても。
この状況を少しでも推し進めるために、追加の戦力として戦場に送り込まれていく。
分かってはいるが緊張してしまった。
意味がないと分かっていても、操縦桿を握りしめてしまう。
発射までの秒読みを妙に遅く感じる。
それでも確実に数字は減少していく。
数値がゼロになった瞬間、すさまじい圧力を受けて体が座席に押しつけられていた。
鳳翔から飛び立った機体は、強引につけられた勢いのままに味方と合流していく。
彼らは勢いのままに遮るものの無い空間を飛び続けていく。
互いに距離をつめ、編隊を組んでいく。
全高18メートル。
人の形をした鉄の巨人達が。
神経接続により、人の動きをそのまま伝達する事が可能になった事は、兵器に一つの方向性を与えていた。
すなわち、人の姿をとることで、特別な訓練をする事無く操れる兵器を。
実用性や機能性からすれば懐疑的であった人型兵器も、ここに存在意義を生み出す事になった。
実際、航空機や艦船、戦車などに比べて意識の伝達効率の高さもあって、人型兵器の実用性は急速に高まっていった。
それまでは操縦にしろ探知・レーダー系にせよ、神経接続をしても効果を得るのは一部にとどまっていた。
人型兵器はそれをほぼ100%にまで高める事を可能とした。
これによる訓練期間の短縮と、操縦性の高さは戦闘力の大幅な向上につながっていた。
戦闘機と呼ばれる人型兵器達。
型式名称『零式戦闘巨人機 レイ』
その一群は、一塊となって迫り来る敵へと向かっていく。
「いいか、絶対に散らばるなよ。はぐれたら一瞬でやられるぞ」
「「「了解!」」」
隊長からの指示を受けて、彼らは一気に突っ込んでいく。
数において劣る人類がとれる戦法は限られている。
敵の式中枢である母艦の破壊。
それによる、統率下の珪素生物の混乱を誘って各個撃破。
無謀で危険な作戦だが、それ以外に数に勝る敵を駆逐する手段はなかった。
その敵の第一陣が目の前に迫る。
闘士型と呼ばれる、全長20メートルの巨大生物。
珪素を思考の中枢に持つそれは、見た目がどことなくそう見える事から、虫と呼ばれる事もある。
鋼鉄を引き裂く物騒きわまりない存在で、危険さは虫どころではなかったが。
群がる虫の中に切り込んでいくいくレイの部隊は、一筋の剣閃のように虫の群れを切り裂いていった。
そして。
戦闘はその後二週間にわたって行われた。
敵たる珪素生物の中枢の全てを破壊した日本帝国軍は、残った敵も駆逐。
戦闘での勝利を得た。
引き替えにした代償は、戦力の二割の喪失。
それまでに比べれば損害は減ってはいるが、大きな傷である事にかわりはない。
戦線はかろうじて保つ事はできたが、補充が来るまで戦力の低下は否めなかった。
また、戦力がどれほど補充されようとも、失った者達は決して帰ってこない。
いつの世の戦争もそうだろうが、数字ではあらわしきれない損害を誰もが抱えていく事となった。
皇紀9235年。
いまだ人類は、終わりのない戦いの中にあった。
ロボットものにも興味はありまして。
やるとしたらこんな調子だろうな、と思います。
どっちかというと、兵器としてのロボットの方が好きです。
書きたいものではあるけど、いつになったら書けるかわからんので。
とりあえず、こういう形で表に出してしまおうと思った。
余裕があれば書いていきたい。
また、希望があればやはり書いてみたい。無くても書くかもしれんですが。