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敵は全人類

作者: 赤いからす
掲載日:2007/11/11

ホラーを中心に書いてますが、惨酷な表現はしていません。意外なオチが待ってます!

恋愛(短編)も投稿していますので、ぜひ読んでみてください。

 誰でもそうだと思うが、おれは無視シカトされることを毛嫌いする。相手に話しかけて返事がかえってこない時ほど惨めな思いをすることはない。


 幼い頃、母親に「どうして人間は無視するの?」と尋ねた。すると「あんたに原因があるんじゃない?」と、とても有難い答えをもらった。本当に役に立たない母親だ。


 おれが過度な反抗期のとき、無視シカトされたら鼻息がかかるくらい顔を近づけ、メンチを切った。相手が顔を背けるまで絶対に退かない。よってケンカは絶えず、おれの周りには誰も寄り付かなくなった。


 無視シカトしたければすればいい。人間を人間と思わなければいいのだ。おれは全人類を敵に回すことを決意した。ナイフなんかいらない。武器がなくても己の力だけで十分に闘っていける。


 街を徘徊していると不意に見知らぬ男とぶつかった。おれは無視シカトしたのにわざと当たってきた感じのある坊主頭の若い男はこともあろうに因縁をつけてきた。

「おい!謝りもしねぇでどこいくきだ?」

 ニヤついた顔で自信満々に迫ってくる。腕を伸ばして掴もうとする手をおれは深く噛んでやった。

「な、なんだコイツ」

 坊主頭の若い男はおれを化け物でも見るかのような目をして離れていく。


 どうやらおれの強さを大勢の人間に認知させないといけない。あぁ〜面倒くさい。そう思っただけでムカついた。腹も減る。体力を維持しないといけない。しかし、金はない。


 狙ったのはコンビニ。店の奥の冷えた飲物が陳列されているガラスケースのところから助走をつけ、レジ横のおでん種が煮込んである保温器に口を突っ込んだ。

「ひっ!」

 店員の若い娘は短い悲鳴を上げ、おれはちくわをくわえて堂々と自動ドアから出た。正義感面せいぎかんづらした中年オヤジが後を追ってきたが、ちくわを口の端からダラリとぶら下げたおれの顔を見ると追いかけるのをやめた。


 おれはピンク色のネオンが点滅する如何わしい店が建ち並んだ通りを好んで闊歩かっぽした。この街から離れられないのは自分が生まれ育った土地だからだろう。通り過ぎようとする者はおれを遠ざける。人混みの中へいけば輪が出来て悠々《ゆうゆう》と歩ける空間が自然と広がる。おれが怖くて無視シカトしたくても無視シカトできないのだ。おれの心は優越感に染まった。


 完全に人間を人間と思わなくなった。食い物を盗み、人を傷つけて血を流すケガをさせても誰も歯向かってこない。罪悪感などなくなっていた。


 ふとあることに気づいた。おれ自体が空気のような存在になっているのでは?という不安だ。孤独感や虚無感がそんな弱みを生み出すのだろうか?考えれば考えるほど不安がじわじわと染み込んでくる。おれの存在を世に知らしめないといけない。行動は早いほうがいい。


 ある日のこと、ひと際大きくてガラス張りのビルに黒塗りの車が滑り込んできた。厳つい顔の男が車を降りると、スーツのボタンがはち切れそうなくらい胸板の厚い筋肉質の男達がガッチリ脇を固めた。


 そのときのおれは敵のいなくなった平穏な生活に飽き飽きしていたのかもしれない。この街で天下を取れるという欲も湧いた。


 気づけば無鉄砲に突っ込んでいた。不穏な空気を察知した男達を軽やかなステップで交わし、少し体勢を崩したが厳つい顔の男の股間へ頭突きを食らわすことに成功した。


 厳つい顔の男は悶えながら倒れた。


 やりぃ〜。


 歓喜はほどほどにしなければいけない。なぜならガードしていた男達が銃でおれを狙い撃ちはじめたからだ。4、5発くらい発砲され、1発が背中に命中した。自らの存在を世に知らしめた代償は大きかった。


 おれはよろめきながらネオン街を無意識のうちに歩いていた。チカチカ光るネオンが目に刺激をあたえる。小耳に挟んだ話だとネオン街という言葉はもうじきなくなるかもしれないらしい。代わりに寿命の長い発光ダイオードが使われLED街と呼ばれる日がくるというのだ。おれの死と同調して時代の終焉がくると思えばいくらか気が安らいだ。


 路地裏に身を潜めた。エアコンの室外機、空ビンやゴミが散乱し、華やかなネオン街の負の遺産が展開されている。おれの亡骸なきがらが転がっていても誰も気づきやしない。ここでじっとしていると人間の裏の部分やうわべだけの会話を聞けて楽しかった。おれの死に場所にふさわしい。いきがって生きてきたツケが回ってきたのだろうか?最期に惨めに死んでいくのは世の常なのだろうか?反省の思いが駆け巡ってくるなんておかしくて笑いそうになった。


 おれは少しでも楽になろうと体を横にした。90度傾いて目に映った景色が徐々に白濁していく。もう終わりか……そう思ったとき、重力が喪失して体が浮いた。こんなおれを天国まで運んでくれるのか?……俄かに信じられなかった。

      ★

      ★

      ★

 なにやら話し声がしておれは目を覚ました。

 まず、目に飛び込んできたのは等間隔に縦に並ぶ鉄の棒。その間から2人の男がおれを見ながら会話している。


「どこで倒れていたんですか?」

 白衣を着た男が尋ねた。

「200メートル先の路地裏だよ」

 答えたのは金髪の若者。

「よく見つけましたね」

「道路に血の痕があったからな」

「そうなんですか」


「ケガの具合は?」

「いまのところ命に別状はありませんが、重症です。背中の銃創らしきケガが原因だと思われます」

 白衣の男は深刻な顔をして答えた。

「銃創?」

 金髪の男は訊き返す。

「弾は貫通していたから大丈夫ですけど、誰かが遊び半分で撃ったようです。ひどいことをするもんだ」

 白衣の男は首を小刻みに振って答えた。

「ひどいな」

 金髪の男は哀れんでおれを見詰める。


「ところでこの犬を引き取るんですか?」

「おれマンションに住んでるんだよ」

「そうなんですか」

「治療費は払うが、面倒は見れない」

「このままだと保健所行きですね」

 2人は同時にため息をついた。

                 〈了〉








恋愛(短編)で「木漏れ日から見詰めて」という作品を投稿しています。

ホラー(連載)で「狂犬病予防業務日誌」「無期限の標的」

ホラー(短編)で「人類最後の言葉」「付きまとう都市伝説」「水たまり」「面相筆」

「彼女の好きなモノ」「近未来の肉屋」「忘れていたこと、忘れなかったこと」

「娘、お盆に帰る」など多数投稿済なので、ぜひ読んでくださった方は感想と評価で★をつけてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝見さしていただきました。その11 自分のことを人間だと思っている動物は以外にいるものです。 最初は、「顔を見て驚いた」と書いてあったので人面犬かなぁ?と思ったが、普通の犬とは。 深く…
[一言] 途中で違和感を感じましたが、まさか犬の話だったとは。 犬は自分が犬だという自覚はあったのでしょうか? あってもなくても悲しい話ですが……
[一言] 本当に「あっ!」と驚くような結末でした。そして、なぜか少し安心してしまいました。(^^)
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