冬ーー雪の中にて
寒い、寒い、寒い。
とても寒い、寒さをしのぐ為、僕は煙草に火をつける。
なんて寒くて、虚しいんだろう。
どうしてこんなにも僕が僕では無いように思えるんだろう。
多分それは一人になったからだ。僕には家族がいた、が、それも昨日まで。
僕にとって家族は大切なものだった筈だ。妻も、息子も三人で仲良く暮らしてたはずだ。なのにどうして。
寒い、寒い、寒い。
寒すぎてだろうか、昨日から涙が止まらない。
自分の心までも冷えてくるようだ。いや、実際に冷え切っているのかもしれない。
もう殆ど何かの感情が溢れてくる何てことは殆ど無い、あるのはこの煙草だけだろう。
寒い、寒い、寒い。
外では雪が降っている、外は寒いだろう、しかし動きがある寒さだ。
嗚呼、嗚呼、雪に成りたい。
今、一つだけ感じれるとしたら外で流れているサイレンの音だけだ。
僕はじっと窓から外を見る。誰かに僕を見つけて欲しい、この冷めた僕を温めて欲しい。
寒い、寒い、寒い。
サイレンの他に、何か生臭い匂いがしてくる。なんなんだろう、紛らわすために煙草に火を付け、吸う。
この煙草は何ていい物何だろう、一ヶ月程前から知人から貰い受けた。この煙草を吸っていると全てを紛らわす事ができる。
サイレンの音も、匂いも、僕の感情だって。
目が悪くなったと自覚出来るほど、目が悪くなってきた。妻がかけていた眼鏡をかける。
僕が妻へプレゼントした眼鏡。初めての贈り物は眼鏡だったと思い出す。その時君は微笑んでくれて、僕も嬉しくて、二人で笑いあった。
寒い、寒い、寒い。
サイレンの音が酷くなって来た。この単調な音が更に僕の心を寒くする。
煙草を吸う。これを吸うともうどうでも良くなる。サイレンの音だってもう殆ど聞こえない。
寒い、寒い、寒い。
あまりにも寒いので煙草を吸おうと思った。だが無い、煙草が。
そうか、無くなったのかと自覚する。家族も煙草も無くなったのかと。
もういいや、皆んなで一緒に燃えよう。手元にあるのはライターライターと石油ストーブ内の石油だけ、でも、足元には……妻と息子の愛しい血まみれの首がある。