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第1話

くそ~。

魔大陸に上陸した途端にいきなり魔王が出てきて攻撃してくるとかありえないだろ~。

死に戻りするとレベルが下がるし、魔王がいきなり出てくるならもうちょっとレベル上げてから再チャレンジするか。

でもなんか、いつもの死に戻りと違って妙に寒気がするな。


「おはよう。目、覚めた?」

「ファ!?魔王だとっ!?なぜここに居る!クソッ、聖剣を……」

「聖剣ならここにあるよ~。ホレ」


うぉっ!

刃物をいきなり投げるんじゃないよ!怪我するだろうか!


「……え?返してくれるの?」

「もちろんだよ。ところで勇者君、身体冷えてない?」


確かにさっきから寒気がひどくて体の震えが止まらないし、歯の根も合わない。

こんな状態のままじゃ魔王と戦闘なんてとてもできないぞ。


「すっげー寒い。なんでだ?」

「そりゃー、さっきまで君は仮死状態で氷漬けになってたからね~無事復活出来て良かったよ~」


氷漬け!?仮死状態!?


「どういうことだ!」

「ほら、勇者って寿命が来るまでは何度倒されても神の加護とやらで勝手に教会から復活してきちゃうじゃん。割と平然と。前の勇者が寿命で死んで何年かすると別の勇者が現れるしさ」


まぁ、確かにそうだ。

勇者として目覚めると、神の加護によって死んだ場所から最も近い教会から復活して再出発できる。

俺もさっきは死に戻りしたんだと思ってたし。


「で、勇者って生物としての成長リミットが解除されちゃうから、最終的には魔王を倒せるぐらい強くなるんだよね。何て言うか、世界がそういうシステムで出来てるって言うの?だから、勇者が出現すると、魔王の私は近い将来には避け得ない死が待ってるんだよ。わかるかな?この絶望感」


そりゃ、魔王を倒すのもそれに必要な強さを手に入れるために努力するのも勇者の使命だ。


「だから私は考えたんだよ。君は仮死状態でも復活するのかってね。で、君がある程度強くなって勇者であることが確定した段階で実行したわけ。私の放つ超強力な睡眠魔法で一旦眠らせた後に、術式によって仮死状態にした後、氷漬けにして南極点の氷の中に埋めるって作戦を。いや~、実際これが上手くいってさ。その後、一人として勇者が生まれることは無かったんだよ」

「……王国はどうなったんだ?」

「先に言っておくけど、君の生きてた時代から人間でいうと500年くらいたってるから。君の居たあの国は、君を南極点に埋めてから20年もしないうちに近隣の国に攻め込まれて滅びちゃったね」


えっと。

これは泣いてもいい場面じゃなかろうか?


「もちろん君のパーティーも恋人だったお姫様も腹黒い大臣も全部死んでるから。500年くらい前に」


ヤベェ。涙出てきた。


「あと、今は人間と魔族の間に種族の違いによる多少の諍いはあるけど、基本的に戦争はしてないよ。いくら魔物が強くても気にくわないからっていちいち戦争してたらお互いに損害が大きいし、魔族としても自分たちが食べていけるだけの版図があれば問題ないし。ってことで、400年位前に戦争やめて人間界の王達と不可侵条約結んだんだ」

「じゃぁ、もう魔族と人間は争ってないの?」

「魔族と戦争する国は皆無だねぇ。古い国が滅んで新しい国ができるたびに向こうから条約を結びに来るくらいだし。こっちから攻め込まないって安心が欲しいみたいだね。こっちとしては人間の版図全体と不可侵条約を結んだつもりでいるから、態々攻め込んだりはしないんだけど。国としての寿命もかなり長くなってるから、人間の国同士のいさかいの時に調停役なんかして、今では魔族は国際的な信用とそれに付随する役割を担ってるんだよ」


俺、もういらない子じゃん。

いっそ、指名を果たすために魔王に切りかかるか。

そうだ。俺の使命は変わらない!こうなったらヤケクソだ!


「セイッ!」


“ギンッ!”


「あ~。ダメだったか~」

「え?」

「君を掘り出して目覚めさせた理由なんだけどさ~。人間の世界では知られてないけど、勇者ほど急激じゃないけど、魔王も成長するし成長限界が無いんだよね。それも、別に勇者みたいに修行とか必要なくて、強くなるのに一番重要なファクターは生きてる時間なの。でも、今まで勇者に倒されないでこんなに生きた魔王っていなかったから、300年前くらいの段階で歴史上最強の魔王になっちゃったんだよね。で、ドヤァ!とか思ってたら、そこから更に際限なく強くなり続けちゃってね」


畜生、自慢話かよ。

さっきの渾身の一撃で傷一つ追わないとかどれだけ絶望的な戦力差が有るんだよ。

もう、膝から崩れ落ちた状態から立ち上がることもできねえよ。


「世界が私を支えきれなくなってきたんだよね」


だからどうしたってんだよ。

世界は魔王の物だよ。

勝手に世界征服とかしてろよ。


「このままじゃ世界が崩壊しちゃうんだけど、魔王を殺せるのって勇者の聖剣だけなんだよね。これもそういうシステムなのかな?で、君に殺して欲しくて起こしたんだけど……ダメだったね」


ダメ勇者ですいませんね!


「今まで氷漬けにしてたところ、本当に申し訳ないんだけどさ。この世界を救うために私に傷を負わせられるくらい強くなって戻ってきてよ」

「いや、ムリでしょ。氷漬けにされる前だって勝負にならなかったのに、今のお前に勝てるほど強くなるってどれほど絶望的なんだよ」

「いやいや、戻ってきたら私も抵抗しないでさっさと殺されてあげるからさ。傷さえつけられれば私より強くなる必要はないんだよ。ぶっちゃけ、傷さえつけられるようになってくれれば、前準備として自分で瀕死になるからさ。それと、私より強くなる修行なんてしてたら時間的に世界が崩壊しちゃうよ」

「わかった」

「それから、魔界からは出る時は聖剣は置いて行ってね」

「はぁ?」

「君の生きてた時代とは全く状況が違うんだよ。魔界内だったら私が通達出せば問題ないけど、魔界以外でそんな大きな刃物もって歩いたら、銃刀法違反で警察に捕まっちゃうよ?」

「何言ってんの?そしたら俺はどうやって強くなればいいんだよ」


そもそも、警察ってなんだ?


「魔獣を倒せばレベルアップするんでしょ?」

「俺の成長は聖剣と伴にあるときだけなんだよ!持って歩かなきゃ、魔獣倒そうが魔将軍倒そうが全く成長なんてしない!」

「え?マジで?」

「聖剣は俺の体の一部なんだよ!仮死状態の事はわかんないけど、変に手放したりすると折れる可能性もあるんだ!」

「そうだったの?知らなかったわ~。人間側もあえて言わなかったのかもしれないね。じゃぁ、世界中に何本も聖剣が存在するってこと?」

「あるよ。今、どうなってるかは知らないけど、俺が勇者になった時には歴代勇者の聖剣を教会が大切に保管してあった。まぁ、それって勇者が居ましたって言うただの記念品なんだけど」

「へ~。いまもどっかに保管されてるのかな~?」

「そもそも、ある程度成長すると体の一部がこぼれて聖剣になって勇者であることが判明するんだ。それも、大まかに説明すると、骨がこぼれると物理攻撃力、肉がこぼれると魔法攻撃力が強くなる傾向がある。そして、そのこぼれた部分が重要な器官であればあるほど強力な武器に成長する。歴代の勇者で魔法攻撃力最強な人は片目がこぼれた聖剣だったそうだ。ちなみに歴代最強はバランス型で片腕一本抜け落ちた隻腕の勇者だったらしい」

「ちなみに君の聖剣は身体のどの部位名の?」

「……親不知」

「え?」

「お・や・し・ら・ず!」

「それって強いの」

「剣の硬度は歴代でもトップクラスだ」


攻撃力?聞くんじゃねぇよ!泣きたくなるだろ!


「魔法的な武器なんだしさ、持って歩くためにサイズを変えたりは出来ないの?」

「ムリ」

「ところで、なんで勇者って魔物倒すと強くなるの?」

「詳しくは説明できないけど、この剣で切った相手の魔力が経験値に返還されるらしい。あとは、いろんな人が勇者を応援したり、期待を寄せたりするのが勇者としての能力のベースアップにかかわってる。だから、魔物を相手に転戦しつつ、通った町の問題を解決して民衆の好感度アップを図りながら移動する。その辺のことは協会所属の勇者研究機関で解明されてた。町の領主程度の権力があれば大体知ってる内容だから、近々、俺が町にたどり着くと解ると、その町でいろんな問題を整理して俺を待ち構えてるんだ」

「魔大陸に直接来ないのってそういう理由だったの?勇者が生まれない500年の間に教会もすたれちゃったし、その手の情報は散逸してるんだろうなぁ」

「既に俺が知ってる時から500年経過してて、この世界に俺の知り合いって一人もいないんだよな?」

「……そうだね」

「だったら、今の俺は当時より相当弱いはずだ。そうでなければ、いくらなんでも聖剣が直撃すればすり傷くらい付くはずだし」

「勇者を応援する人が一人もいない世界でも強くなれると思う?」

「聖剣で魔物を倒せば魔力が得られるからそれなりには強くはなるはず。だが、能力のベースが全くアップしない状態ではそれほど強くはなれないだろう」

「勇者を復活させればどうにかなると思ったんだけどなぁ……ちょっと大臣とか有識者と対策考えてくるよ。そう言えば自己紹介もしてなかったね。私は現魔王のブラフィスティン。勇者よ、君の名前を教えてくれないか?」

「聖剣の勇者、ニルだ」

「今後ともよろしくね、ニル君」





強すぎる魔王と弱すぎる勇者に理由を付けてみました。

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