理解できない領域。
「私はもしかしたら、あなただったのかもしれない」
彼女は時折、そんな不可思議な事を唐突に口にする。何を思ってそんな言葉を発したのか、当人でない俺には到底理解できないのだが、これだけははっきりと断言できる。
彼女は、変わり者だ。
本人に言ったら、きっとそれを否定するために、それこそ常人では考えつかない斜め上な返答が俺に襲いかかってくるだろう。
それぐらいには、彼女は変人なのだ。
今彼女が発した言葉だって、俺には何を言っているのかさっぱり理解できない。なにか脈絡があってそれを言われたのなら、まだどうにか言葉を返せるが、過程をすっ飛ばして結論だけを俺に押し付けられても困る。はっきり言おう、迷惑だ。
きっと彼女の思考は神の領域に近いもので、夏目漱石でいうところの則天去私に匹敵するような何かなのだろう。それに、これから先彼女のそれが理解できるようになるとは到底思えないし、理解出来たとしてもそれは理屈の上であって、俺の心情の上ではない。
でも、何の反応も示さないと彼女は自分勝手に拗ねてしまうから、俺はいつも適当に言葉を返す。
「…そうか」
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