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アウト・オブ・レンジ

朝。鈴木重定はゆっくりと目を醒ました。既に鈴木重政は起きて、朝食の準備にでも出かけたのだろうか、何処かへと行ってしまっていた。枕元の刀は朝焼けに包まれて妖しく煌めいていた。

上衣に袖を通し、腰に刀を差して立ち上がる。この深い森の中、先日現れた二人組は大きな蓄えがあるようには見えなかった。

短期で勝負を決めるつもりなのだろう。ならば、今日明日、近いうちに必ず現れる筈だ。然しそうなれば、外を歩く重政が心配だが、ドイツの軍服を着た彼女はあの少女に単独で「逃げろ」と言った。

ならば、重政の存在には――――――――――――


「何だ!?」


鋭い殺気。この家屋の外から。刀を抜いて周囲の気配に対して気を張り巡らせようとするが、もう遅い。木造の壁の小屋が粉々に粉砕される。そしてそれは、その勢いの儘彼を撃ち貫かんと迫る。


「おぉぉおおお!!!!!!!」


その弾頭を叩き斬る。弾頭はそのまま左右に分かれ、彼の後方の小屋の壁を粉砕して外へと着弾し、大爆発を起こした。

射撃主、エッリ・ハーパライネンは舌打ちをして空になった単純な作りの筒状の射出機を放り捨てる。


「ちぇ、不意打ち失敗か。流石サムライってとこかな。」


然しその口調はまだ失敗をした人間にしては、呆れた程に軽い口調だった。

現れた男は鎧を纏っていなかった。あれがどれ程堅いのかは知らないが、不測の事態は起こりにくい、ハーパライネンは考える。

ならば森の木陰から飛び出して、腰の長剣を引き抜いて、彼の下へと走る。その勢いを乗せた刃を叩き込んでやろうと、そのサムライに向けて剣を振り下ろした。

鈴木重定は、手に持った刀で咄嗟に受け止める。ギギギ、と両者の力が拮抗して、お互いの剣の表面同士が強く擦れ合う。


「借り、返しに来たよ?」


「……卑怯な……!!」


力任せに鈴木重定の刃がハーパライネンの長剣を弾き飛ばす。返す刀で迫るそれを、またハーパライネンが弾き飛ばし、反撃へと転ずる。

剣戟の応酬。両者の力は拮抗している。単純な力ならば鈴木重定の方が遥か上だが、それを受け流す技術はハーパライネンが上回っている。

幾度も幾度も振られた剣は時折お互いの薄皮一枚を切り裂くのみで、決定打には至らない。無論、それを繰り返していればどちらとも疲弊していく。

それが最初に現れたのはエッリ・ハーパライネンだった。

性別、鍛え方。要因は幾らでもあるだろうが、その幾つもある要因の殆どは取るに足らない物なのだろう。才能。只々剣士として戦士としての才能が、この男に、鈴木孫市重定に劣っているのだ。


「認めたくないけど……クソッ!!」


正面からの当たり会いでは埒を明ける事は出来ない。ならば予定通り、策を弄して敵を撃つ。

何度目かも分からない剣戟が弾かれると、その勢いの儘後方に大きく飛んで距離を取ると迷うことなく一目散に背を向けて走り出した。

出来得る限り、焦っている様にして。


「今度は逃がさん。覚悟しろ!!」


狭い森の中を駆けていく。木の根を飛び越え枝を踏み抜いて、そしてその後ろを鈴木重定が追い掛ける。振るわれる刃は服の布地を掠り、その柔肌を剣先が引っ掻いて小さな傷を作っていく。

この辺りの地面の土は柔らかい。此処に、エッリ・ハーパライネンは幾つもの地雷を設置した。そして、エッリ・ハーパライネンは一晩かけてその位置を『完璧に』把握した。


(さぁ、踏み抜け!刀だけ残して雲散霧消してしまえばいい!)


心の内でだけほくそ笑んで、息を荒げる演義だけして、後ろを見る事も無く走っていた。

無論、鈴木重定はそれを知る由も無い。間違いなく地雷を踏み抜く事になるだろう。例え一つ、二つが外れても、その偶然は何度も続かない。

彼は先日に、今までの敵と同じように『大した用意も無い』と決め付けた。彼女が大した実力者であることから、それをまた確信した。

そして彼を確殺する地雷は、ハーパライネンが踏み越える前に―――――爆発した


「……は?」


幸い、彼女は爆発有効範囲外にいた故に、咄嗟に顔を覆うも大した影響は受ける事は無かった、が。

鈴木重定、エッリ・ハーパライネン共に驚愕に足を止める。鈴木重定は眉を顰め、何が起こったか既に理解し始めていた。

銃声が響いて、また一つ。銃声が響いてまた一つ。次々と破壊される地雷群。


「どうやら重政がやってくれたようだな。」


低くそう言って、今度こそはと低く構えて、彼女を睨み付ける。

冷や汗がどっと首を伝う。エッリ・ハーパライネンが受け取った任務詳細の中には対象は一人だけとしか刻まれていなかった。

故に彼はそれを前提に策を張り巡らせた。此の先にはこの地雷原を抜けた時の保険の為に、彼女の助手、樋野陽子が機関銃を構えて待ち構えている。

もう一人、スナイパーがいるとすれば、自分が狙撃される可能性も出てくるし、一人残した少女が狙い撃ちされる可能性もある。


「くそっ、くそ!……何て杜撰な計画書だ!!」


作戦前に目を通した書類に対して、そしてそれを提供した上層部に対して。今そう言っていても仕方ないとは分かっていながら、憤りを隠せなかった。

自分達は命のやり取りをしているのだ。正面からの殺し合いに命令で興じているのだ。許せるものでは無い。自分達は体の良い捨て駒では無いのだから。


「さあ構えろ、異国の剣士。雑賀孫市の名に懸けて、一切合切を斬り払い、全てを正面から撃ち砕いてやる。」


奥歯を噛み締めて、小石を蹴り飛ばして、手に握った剣を構え直した。今現在の武器は、このSS長剣と、幾つかの手榴弾と、そして―――――。


「辛いんだよな、これ、辛いんだよ。本当に辛い。ああ、これだから―――――嫌なんだ、畜生!!」


手に握るSS長剣を掲げる。白銀の光が刃に反射し、そして増幅し。激しい光がエッリ・ハーパライネンを包み込んだ。

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