人騒がせな運命による幸運或いは不運について
ウーフクレイ・ナーラルコールは悶絶した。
目の前で火花が散っているような錯覚すら覚える。傭兵稼業に足を突っ込んでから、もう十年近くが経った。死にかけたことも、死を覚悟したことも少なくはない。だが、その経歴をもってしても、久しく覚えのない激痛だった。強かに叩き付けられた後頭部を左手でさすり、浮かびそうになる生理的な涙を意地で抑え込み、「くそったれ」と吐き捨てる。
辺りは鬱蒼とした森で、夜も更けた時刻だ。明日に備え、そろそろ眠ろうかと思っていた。その為に焚火の火を消そうと腰を上げ――そして、冒頭に戻る訳である。思いもよらぬ衝撃と激痛が、後ろ頭に襲いかかったのだ。
猛烈な痛みの中、今朝発った街の辻占の老婆の言葉が思い出された。
「死相が出てるよ」
「あ?」
「空からあんたの未来を決定づけるものが降ってくる。頭上に注意することだね。まあ、十中八九死ぬだろうけどね」
てめえがくたばれ、と答えたのが悪かったのだろうか。今更に思い起こし、悩む。
だがしかし、いきなり死を予告されて笑顔になれる人間がこの世にどれだけいるというのか。ああ答えてしまったのも、無理はない。無理もないなら仕方がない。仕方がないから俺は悪くない――と脳内で結論付けたところで、自分のものではないうめき声が聞こえた。
すわ敵か、と腰の双剣に手を伸ばす。その勢いのまま振り返れば、
「いったああぁああ……」
――額を両手で押さえ、地面をゴロゴロと転がり回って痛みに悶える娘がいた。
「ああ?」
思わず、気の抜けた声が口を突いて出た。消し損ねた焚火の明かりが、娘の姿をぼんやりを浮かび上がらせる。しかし、それも疑念を膨らませるだけの役にしか立たない。
まず、服装からして見慣れない娘だった。白い半袖のブラウスはいいとして、青いリボンタイに、膝丈よりもいくらか短いプリーツスカート。
……そう、そのスカートが問題だ。何が問題か。丈である。短い。短すぎる。
リオニア王国の南方地域は温暖な気候と肥沃な土地で知られている。それでも、そこまで生地を切り詰めたりはしないものだ。その上、人目を憚らず転げまわっているのだから手に負えない。今までとは違った意味で、頭痛がするような気がする。
見えてる見えてる――だなんて、とてもではないが言えない。
(それにしても、)
一体何者だ、とようやっと冷徹な傭兵の思考が目覚め、回転し始める。
目の前の娘は、余りにも無防備すぎた。籠手や武骨な長靴で身を固めたウーフクレイは傭兵という職が故の特殊であるとしても、そんな薄着で、間近の気配に気づきもせず、悶え転がっているのはいかがなものか。
声をかけるべきか、否か。刹那の逡巡は、容易く前者へ天秤を傾けた。敵であるならば、最初の接触で既に殺されている。全く反応できずに、後頭部に一撃を食らったのだから。
「おい、そこのお嬢ちゃん」
「いぃいいってええええええ……え、 え?」
恥も外聞もなく転げ回っていた娘の動きが、ようやく止まる。まさに恐る恐るといった態で、顔を上げた。小さな頭がきょろりと視線を巡らせて、ウーフクレイの姿を捉える。やはり、その姿は見慣れない色と形をしていた。
気の向くまま風の向くまま、傭兵ギルドの依頼に示されるがまま、ウーフクレイは沿岸四国を巡り歩いて生きてきた。しかし、顔を引き攣らせている娘は記憶の中の四国の民の誰とも似つかない顔立ちをしている。
そして、何よりもウーフクレイの目を引いたのがその髪だ。リオニアでは、黒髪を持って生まれるものは少ない。その珍しさ故に、〈黒き髪のアロイス〉と渾名された騎士すらいるほどだ。土で汚れながらも、すらりと伸びた黒髪は滑らかで、整えて飾れば貴族の子女とて羨まずにはいられないだろう。その上、示し合わせたように目までもが同じ色をしている。
ますますもって、娘の素性が怪しく思えた。
「え、えーと、ハロー? あ、違う夜だ。こんばんはって何だっけ」
「こんばんはって何も、こんばんははこんばんはだろ」
頓珍漢な言葉につい口を挟むと、娘はぎょっとして目を見開いた。その大袈裟すぎるほどの驚きぶりは、果たして話しかけられたからだけだろうか。
「それとも、お嬢ちゃんの国じゃ、違う言い方をすんのかね?」
「……しない」
「そーかい」
会話を始めてはみたものの、さっぱり状況が読めない。それほど馬鹿じゃないつもりなんだが、と内心で呟き、ウーフクレイは色味の薄い金髪を掻き上げる。
浅黒い肌と金髪はリオニアの南方、特にレーテス海沿岸の生まれの者に多い色彩だ。例にもれず、ウーフクレイもその色味を持って生まれた。ただ、切れ長の両の眼だけは、北方生まれの母譲りの鋼の色をしていた。
「あの」
「ん?」
「ここ、どこですか? 私、図書館で本を読んでたはずなんですけど」
「図書館?」
この辺りで図書館を持つほど大きな都市、もしくは蔵書収集癖があり、且つそれを万人に公開する度量のある貴族の領地は片手で数えられるほどに少ない。その上、そのどれもが徒歩では一週間以上かかる遠方に位置している。
不可解な状況に悶々としていたことも忘れて、ウーフクレイは天を仰いだ。何だかとても、面倒な事態に遭遇してしまっているような気がする。
「お嬢ちゃん」
「はい」
「あんた、何者だ?」
「は?」
「この辺りに図書館を持ってるような街はねえ。ついでに言えば、リオニア――この国じゃ、黒髪も珍しい。一体全体、どこからどう湧き出てきたよ?」
「湧いてはないですけど」
「物の例えだ。そんで、もしかしなくても、俺の頭に頭突きしたよな?」
「してません。図書館で目に付いた本を取って、開いたら何か光って、光ったと思ったら目の前が真っ暗になって、そしたらいきなり、頭を打ち付けられただけです」
不本意そうに語る娘は、少なくとも嘘を吐いているようには見えなかった。視線はしっかりとウーフクレイに据えられ、その眼に宿る光にも不審なものは窺えない。とは言え、それが喜ぶべきことかと言えば、また別の話だ。
ウーフクレイは脳裏に浮かんで止まない、現状を説明する最適解が余りにもややこし過ぎて――もとい、壮大過ぎて眩暈がしそうだった。「それ」はあくまでも伝承や神話の類だと思っていたのだ。遠い昔、或いは別のどこかの話であって、まさか自分の身に降ってくるものではないと。
なんてこったい、と呻きながら溜息を吐く。未だじわじわとした痛みを主張する後頭部を何とはなしにさすり、もう一度溜息を吐いた。
「名前は? お嬢ちゃん」
「流山です。流山白枝」
「……どこからどこが名前で、苗字だ?」
「白枝が名前で、流山が苗字」
「シロエ・ナガレヤマ?」
「外国風に言うなら」
こっくりと頷いて見せる娘――シロエを横目に、ウーフクレイは何度かその名前を舌の上で転がしてみたが、どうやっても耳で聞いたままの音を再現することはできなかった。目の前の、信じがたくも逃れようもない現実を突き付けられただけだ。
「それで、おじ――お兄さん」
「おい待て、今何かとても失礼なことを言い掛けただろ」
「言ってないよー言い切ってないからセーフだよー」
「露骨に目を逸らすんじゃありません!」
俺はまだ二十七だ、とウーフクレイは悲痛な声で叫ぶ。まあまあ、とシロエはなだめるように言い、
「私は十七ですけど」
「ほう」
「まあほら、十七歳になって十も年上の人を見たら、それは、ねえ……」
「意味深に言葉を切るな。憐れむような目を止めろ。俺を泣かせてーのか!」
「滅相もない。で、お名前は?」
一転して切り込むような問い掛けに、ウーフクレイは一瞬返答に窮した。シロエに対する評価を、少し改めなければならないかもしれない。ただの無防備な娘かと思いきや、頭の回転は中々に速そうだ。
「ウーフクレイだ。ウーフクレイ・ナーラルコール」
「はあ、ウーフクレイさん。長い名前ですね」
「注文の多いお嬢ちゃんだな」
「だって、日本――ええと、私の国では長くても四音くらいですよ」
ふうん、と相槌を打ちながら、内心で嘆息した。これで、決定だ。
テルミア大陸に日本と称する国はない。しかし、それを虚偽と断ずるには状況が余りにも特殊だ。であれば、覚悟を決めて、認めるしかない。
「お嬢ちゃんの世界と、この世界とじゃ、違うんだろ。色々とよ」
「世界?」
案の定、シロエはきょとんと首を傾げる。ウーフクレイは困ったような顔で頬を掻いた。状況を理解してもらうには長い説明をしなければならないが、自分自身にとっても突飛すぎる事態である以上、うまく話せるかどうか自信がない。
果たしてどう説明したものか。ウーフクレイが首をひねったその時、ばさりと何かが落ちる音がした。反射的に双剣の一方を引き抜き、音源へと切っ先を向ける。シロエが突然の行動に目を丸くしているのが視界の端に映ったが、今は敢えて黙殺した。
沈黙の中、音源を探る。辺りはしんと静まり返っていて、焚火の中で薪が爆ぜる音が時折響くばかりだ。動く物陰一つ見当たらない。しばらくして、「あ」とシロエが声を上げた。
「本?」
「本、だな」
シロエの呟きに、頷く。その姿は、ウーフクレイの目にも捉えられていた。
細身の刃の向いた先で、まるで前からそこにあったかのような風情で落ちている、革張りの装丁の古びた本。やたらに分厚く、抱えねばならないほどの大きさも相俟って、立派な鈍器になりそうだ。
不意に、はっと息をのむ気配がしたかと思うと、シロエが駆け出していた。四肢で地面を弾いて、まろぶように本へと駆け寄る。
「おい、無闇に触んな! 呪われてたら」
「これだ! これだよ!」
両手で本を抱えたシロエが振り向き、ウーフクレイは「ああ?」と怪訝そうな声を上げる。
「この本! 開いたら、目の前が真っ暗になって、頭ぶつけて、」
「今に至る、と」
「うん。……なんなんだろ?」
いかにも重たそうにシロエが本を持ち直し、表紙を焚火で照らす。うっすらと描かれているのは伝承に謳われる有翼の獅子で、ウーフクレイは乾いた笑いを零しそうになった。一介の傭兵が関わるようなことではないだろう、と天に文句の一つ二つ垂れたい心持である。
「ウーフクレイさんウーフクレイさん」
シロエが呼ぶので、仕方がなく現実に意識を戻す。
件の本は怪しげではあるが、呪われた風でもなく、妙な魔力も感じない。差し迫って害がある訳でもなさそうだ。剣を収め、シロエへと歩み寄る。片膝をつくと、ほら、とばかりに本が示された。
間近に見る革張りの装丁には、やはり見間違えようもない翼獅子の姿が描かれていた。
「私が見たとき、こんな絵はなかったんだけど」
「そいつは、リオノスだ。この国の建国神話に出てくる、翼のある獅子。どーも、とんでもねえ大事になってきたようだな。中、開けるか?」
「前、開いた途端に」
「問答無用に転送ってか。びっくり箱かよ」
「箱じゃなくて本だけど」
「細けえこたあいいんだよ」
「はいはい。……まあ、開いて、戻れるなら、それが一番いいんだけ――ど!」
意を決した風で、シロエが勢いよく表紙を開く。
「うわっ!?」
その途端、本のページがひとりでに、まるで暴風に晒されているかのように次々とめくり上げられていった。風もない森の中で、ばさばさと音を立てて煽られていく紙片は、異様としか言いようがない。一瞬呆けたウーフクレイは、すぐに我に返ると焦った風で本を支えるシロエの手を掴んだ。
「シロエ、手え離せ! 呪われてるにしろ呪われてねえにしろ、こりゃ尋常じゃねえ!」
はっと我に返ったシロエが、ウーフクレイを見上げる。いつの間にか間近に迫ったその距離の近さに動揺する間もなく、その顔が青ざめた。
「手が離れない!」
「んだと!?」
くそったれ、と二度目の罵声を吐き出し、ウーフクレイは左手で双剣を抜く。ぎゃあ、と色気の欠片も無い悲鳴が上がった。
「な、なななな、何すっだー!」
「叩っ斬んだよ! ぶった斬っちまえば、大人しくなんだろ!」
「ぼ、っぼぼぼ暴力反対」
「んな暢気なこと言ってる場合か!」
怒鳴りながら、剣を振り上げる。刹那、まるでそれを見計らったかのように本のページのめまぐるしい動きが止まった。代わりに、ぶるぶると震え始め――
「おわっ!」
破裂音に似た音が上がり、ウーフクレイは反射的に仰け反った。少し逸れた視界の中で、本が弾ける。日に焼けて染みの浮いたページが本から切り離され、竜巻に呑まれるように渦を成して空に舞い上がり、四方八方へと散っていく。後には、先までの騒動が嘘のような静謐だけが残された。
ウーフクレイとシロエは、ぽかんとして紙片の飛び去った空を見上げていた。
「……何だったんだ」
「さあ……。ん?」
ふと、ほとんどページの無くなった本が淡い光を放っていることに気付く。目を落とすと、淡い光が半ば以上褐色になった紙の上で文字を折りなしていた。
異邦を望むものよ 外つ国を求めるものよ
紙片を探せ 断片を捜せ
欠けたるものを集め 去りたるものを揃え
その時こそ 汝が求む扉は開かれよう
地平の果ては開かれ 境界が示されよう
短い沈黙の後、先に口を開いたのはシロエだった。
「……どゆこと?」
「俺に分かるもんかってんだ。ただ、推測するなら――」
「するなら?」
「この本は、特級の魔道具だ。異世界への扉を開く鍵みてえなもんだろう。飛び散ったページを全部集めたら、異世界への扉が開く」
「そうしたら、私も帰れる? ……私は、リオニアっていう国を知らない。こんなおかしな本も見たことない。ウーフクレイさんが言ったように、本当に、ここは私がいた場所と違うところなんでしょう。でも、この本が私を連れてきたなら、もう一度全部揃えれば、帰れるよね?」
「……多分な。そう簡単な話じゃねえだろうけどよ」
それもそうだ、とシロエは肩を落とす。飛び散ったページは、パッと見ただけでも膨大な数に及んでいた。
「道理で、滅多に現れねえはずさ」
「何が?」
「お嬢ちゃんみてえな、異世界からの客人。いちいちその本のページを集めなきゃ扉を開けねえってなら、そりゃあホイホイ渡って来るのは無理ってもんだろ?」
「てことは、違う世界から人が来るのは、何度かあった?」
「よくある、というほどじゃねえけどな。そもそも、この国が異世界からの客人が祖になって生まれた国だ。言ったろ、建国神話に翼ある獅子が出てくるって。そいつを従えて、このリオノスを作ったのが、他でもねえその異世界からの客人だ。お嬢ちゃんも落ちてきたのがこの国でよかったな。この国なら、異世界の客人を悪くは扱わねえ。そんでもって、頭突きしたのが俺だったのも幸運だったぜ」
「何で?」
「何でも何も、山賊やら盗賊やらにぶつかってみろ。ボコボコにされて身ぐるみ剥がれるくらいなら、超絶幸運ってもんよ。一賊郎党で味見された挙句に奴隷として連れ回されるか、売り払われるか、その確率も高えだろうな」
心底嫌そうに顔をしかめたシロエに、ウーフクレイは肩をすくめて見せる。
「な、幸運だったろ?」
「……本当にそうかどうかを判断するには、情報が足りないと思うんだけど」
「ほう?」
「ウーフクレイさんも、何者?」
「それを問い返すか」
にんまりと、ウーフクレイは笑う。どうして中々、強かな娘ではないか。
「俺は傭兵だ。金で購われて戦うのが仕事」
「その剣を使って?」
双剣が示される。そうだ、と頷いてから、左手の人差し指を立ててみせた。
「さて、それで提案だ」
「提案とな」
「おうよ。お嬢ちゃんに提示する選択肢は二つだ。一つは、俺を雇って街まで護衛をさせる。二つ、俺を雇わず路頭に迷う」
「それ、選択肢になってない」
「気のせいだ。さ、どうする?」
ウーフクレイはにやにやと笑う。シロエに選択の余地など、端から与える気が無いのは明白だった。苦虫を噛み潰したような顔をした娘を、傭兵は意地の悪い顔で眺める。
「分ーかりましたよ、雇いますよ街まで連れって下さいよ! 支払い能力ありませんけどね私!」
「何、心配すんな。その本があれば、王侯貴族の方が寄ってくる。建国の祖と同じ質の客人かは分からねえとは言え、そうじゃねえという確証もねえからな。お偉方は接触せずにゃあいられねえさ」
「それに、支払いと何の関係が?」
「事が事だけに、勝手な判断は憚られる。おそらくは、王のところに連れて行くって運びになるだろう。となりゃあ、騎士が派遣されて、俺はお役御免になる。が、下手に騒ぎになってもお偉方は嬉しくねえ。よって、俺には口止め料その他諸々で大金が落ちてくるって寸法だ。ボロ儲けだ。やったね!」
「楽観的な……。というか、それだと私は本のページを探しに行けないんじゃ」
「そこは、うまくお偉方と交渉ってもんだろ。がんばれよ」
「他人事だと思って……」
じっとりとした眼差しで見上げてくるシロエに「他人事だもん」とにんまりと笑って見せ、ウーフクレイは焚火へと足を向けた。傍らに詰んでいた小枝を火の中に突っ込んで、消えかけていた火を熾す。
「とりあえず、今日はもう休もうぜ。この辺りは比較的治安はいいが、何が起こるかなんて、誰にも分かりゃしねえんだ。不寝番はしててやるよ」
「……ありがとうございます」
そう答えはしたものの、シロエの声音からはいくらかの戸惑いが読み取れた。夜に人気のない森の中、赤の他人の男と二人――となれば、警戒もやむを得ぬ話ではある。ウーフクレイは苦笑を浮かべて腰の双剣を外し、振り返って腕を伸ばす。
「お嬢ちゃん」
「何?」
「お守りに貸しといてやるよ」
唐突に一対二本の剣を差し出され、シロエはぽかんと目を口を丸く開かせた。その手に無理矢理剣を持たせてから、今度は小枝束の脇の鞄を取り上げ、薄手の外套を引っ張り出す。
「んで、これもだ」
丸めて放り投げた外套は、剣を持った手で見事受け止められた。意図を問う眼差しに、おどけてみせる。
「目の毒なのよ」
指し示すのは、埃まみれのプリーツスカートから伸びる剥き出しの白い足。
「そんなんで、さっきみたいにゴロゴロすんなよな。貸しといてやるから、隠しといてくれ」
ウーフクレイの意図するところが伝わったのだろう、シロエの顔が一瞬にして真っ赤に染まる。ぱくぱくと鯉のように唇を開閉させた後で、
「……みた?」
「見なかったことにしておく、と答えてやる俺の優しさ」
「どこが優しさかぁあああ!」
頭を抱えた絶叫。はっはっは、と無闇に爽やかに響く笑い声。
それが、二人の長い長い旅の始まり。
この作品は企画「テルミア・ストーリーズ+」様より、世界観・設定をお借りして書かせて頂きました。