空腹のままだから村まで間に合いそうになさそうです
(あぁ……お腹が空いた……)
村はもう目の前なのに、私の腹だけが裏切り者のように鳴り響く。
昨日の朝から何も食べていない。
その事実は、私の腹が最も正直者だった。
……ぐぅぅ。
「……グ、グローリア様? 今の……」
はっきりと音をフローレが聞いてしまった。
「い、今のは違うの! これは……そう、風よ! 風の泣き声!」
私はそう言い聞かせようとするけれど……
言った瞬間、風は一ミリも吹いていなかった。
(やだぁぁぁ! 悪役令嬢なのに空腹がバレるの!? しかも拾われ侍女の前で!? プライドよ……せめて働け!)
しかしUIは絶望をさらに加速してくる。
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◆状態異常:空腹(中)
HP自然回復:停止
MP自然回復:低下
集中力:ー20%
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「ちょ、ちょっと!? こんな時に状態異常まで出さないでよ!!」
出てくるポップアップにツッコんでいるけれど、フローレは目を丸くしていた。
彼女が知っているわけがないから。
「グローリア様、本当に……お腹、空いているんですか……?」
「…………っ」
答えられない。悪役令嬢としての威厳が消し飛ぶ。
「わ、私はグローリア・ルイーザ・ネウムよ? 空腹なんてしないの! ……たぶん! 昔は……そうだったかもしれないし!」
「グローリア様……」
フローレはそっと自身の荷物袋を開ける。
「よかったら……これ、どうぞ」
差し出されたのは、フローレが私と出会う途中にこっそり森で摘んでおいた木の実。
「わ、私が侍女に施されるなんて……そんな……」
「お食べください。あたし、嬉しいんです。こうしてグローリア様と、同じものを分け合えることが」
フローレは笑う。
その笑顔が、胸をつかむようにあたたかかった。
(くぅぅ……そう来る……!? 拒否したら悪役令嬢っていうよりただの逆張りの人じゃん……!!)
私は観念して木の実は受け取る。
「……いただきます」
口に入れた瞬間、UIが反応した。
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◆空腹(中)→(小)へ回復
HP自然回復:低下
集中力:ー10%
精神状態:安定
※同行者の存在により補正
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「……うん、美味しいわ!」
思わず声が漏れ、私は口元を押さえた。
ほんのり酸っぱくて、土と森の匂いがした。
でも、不思議と嫌じゃなかった。
(あああああ! なにこれ! こんな可愛いイベント、どのルートで見られるの!? 私、今どのルート走ってるの!?)
乙女ゲームのルートは、完結済みなのは確かだけど。
フローレがくすっと笑う。
「グローリア様……その、もっと食べますか? あたし、まだ持ってますよ」
「た、食べる!」
「……あ」
プライドは、風と共に吹き飛んだ。
もうプライドで、ご飯なんて食えないから。
「その……ありがと、フローレ」
「はい。グローリア様のためなら、いくらでも!」
二人で小さな休憩をしながら、ゆっくり村へ向かって歩き直す。
空腹はまだ完全には治っていないけれど、胸だけはしっかり満たされていた。




