表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪されて追放された悪役令嬢、頭を打って前世JKに戻ったら 、RPGチートが覚醒して逆ハーレム作る旅が始まりました  作者: 奈香乃屋載叶(東都新宮)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

森の出口にて

 朝、薄暗い森の中で目を覚ます。

 少々明るくなっている景色で、朝になったのを感じた。


「上手く寝れなかった……」


 林間学校のキャンプで寝たときよりも、眠りは浅かったと思う。

 寝不足になっているのは確実。

 悪役令嬢そのものだったら、屋敷の高級な寝具で寝ていた。

 それが数日後には、森の中で寝ていたなんてね。

 あの魔王軍の女戦士がつけた火はまだ残っていたが、ここを後にするから消していく。

 火事にならなくて良かった。

 結構残るのね。


「お腹が……きゅるる……やだ、追放翌日にこんなの……」


 思わずお腹を押さえる。

 昨日の朝から何も食べていない。


「行かないとね、こんな森の中にいても仕方ないし」


 私は森の出口に向かって歩いていく。

 空腹と雨に濡れたドレスのせいで、本当に動く度に体力が減っていく気がした。

 あんなリリィみたいな存在が何人も居たら、私はすぐに八つ裂きにされるだろうから。いくらチートがあっても難しいかな。

 表示されているマップと、青い線を頼りに歩いていく。


「あのスカウト、もしも受け入れたら本当の悪役令嬢になったのかしら」


 魔王軍の悪役令嬢、グローリア。

 雑魚の魔物をどんどん王都へ。私を追い出した王国に復讐。

 王国を支配できたら、ワインでも持って王国の人間を傅かせる。

 気に入らない人間は粛清。

 面白そうだけれども……私の正義としては拒否するかな。

 人間と敵対するのって。

 王国と敵対する……それだけはもうしているのかな。どっちかっていうと、王家かもしれないけれど。

 ただ王国と敵対したら、あの娘とも敵対するのかな。

 あの奉公人と。

 それだけはイヤだな。何とかしてこっちに引き込めたらいいのに。

 ああ、今ごろあの娘はどうしているのかな。心配してくれているのかな。

 戻りたいけれども、もう戻れないから無理だよね。

 徐々に朝の景色がはっきりと見えてくる。

 どうやら森の出口に近いみたいね。


「やっと出られる……長かった」


 そう思っていると、出口付近で何かがある。


「何なんだろう……」


 近づいてみると、それは人間だった。

 リリィのような魔王側じゃない。

 生きているのか死んでいるのか判断するため、顔を見てみる。


「大丈夫……って、フローレ!?」


 倒れていたのは、王都で貴族令嬢として過ごしていたはずのフローレ・ザグレブだった。

 彼女の家は没落気味で私の家が支援していた。

 だからお礼代わりに家へやってきて、奉公人として働いていた。かつての私も色々と仕事を与えていたんだっけ。

 そんな彼女を私は抱きかかえて、状態を確認する。


「脈はある……息もしている……」


 するとポップアップが出てきた。


ーーーーーーーーーー

◆フローレ・ザグレブ

状態:衰弱/軽傷

危険度:中

ーーーーーーーーーー


「これも分かるのね。ただ危ない状態……助けないと」


 意識は無かったけれども、見る限り擦り傷や打撲の跡以外の大怪我はしていなかった。ステータス通りね。


(……これって仲間候補には自動で診断が出るの? それとも”助けたい”って思ったから?)


 とはいえ、そこまで気にしていられないけれど。

 ただ森の出口とはいえ陽が当たらないような場所、身体が冷え切っている。

 このままでは低体温症で危ない。

 私は重いけれども抱きかかえて、陽の当たる暖かい場所に連れていく。


「お願い……助かって……」


 持っていたマントを使って彼女の身体を包む。

 小川から水を水袋に入れて持ってくる。

 簡単に傷口を洗って、破れているドレスの一部を包帯代わりにして、傷のある部分を巻く。そのままよりは多少良いはず。

 前世の保険の授業やマンガとかで見た内容を思い出しながら、彼女の応急処置をしていった。

 

「まだ熱が残っているかな」


 私はあの女戦士がつけたたき火の場所へ。

 火は完全に消えていたものの、まだ温かさは残っていた。

 私は熱が残っている薪を持てるだけ持っていって、彼女の所に戻る。


「ちょっと汚いかもしれないけれど、多少は暖まるから」


 ハンカチやマントの一部を木に巻いて、即席のカイロっぽくする。

 彼女の首やお腹に置いて体温を上げていく。


(こんな……奉公人相手に優しくしているなんて、悪役令嬢失格よ。でも……花奏としては……放っておけない……)


 私はグローリア・ルイーザ・ネウムとしてより、野辺地花奏として動いていた。

 時間が経つにつれて、徐々に彼女の顔色が良くなっていった。


「ううん……」


 静かにフローレは目を開けていった。


「フローレ!?」


「……グローリア、様……?」


 弱い声で私の名前を呼んでいた。


「無理しないで。あなた、怪我をして倒れていたのよ」


「あた、あたしは……あなたを……追いかけて……それで……」


 フローレの目から涙が流れていた。

 彼女は私を追いかけて、倒れていたというの。

 もう戻れないし、王都から誰も一緒に来てくれなかったのに。


「馬鹿ね。あんな王都を出てくるなんて」


「だって……あなたが……一人で……」


 フローレは弱々しく、さらに涙声で私に話しかけてきた。

 こんなに辛そうなのに、私にはこれくらいしか出来なかった。


「あの……舞踏会の後……グローリア様が一人で宿へ連れていかれるのを見て……怖くて……止めなきゃって……でも……衛兵に止められて……」


 彼女は私を守ろうとしたの?

 でも、まだそれは”私”を思い出す前だったから、こじれるかもしれなかったけれど。


「私が悪いんだから。殿下から爵位を奪われるような私が」


「そんな事は……だって……」


「だから無理しないで、すぐに水を持ってくるから」


 私はまた水を汲んでくる。

 今度は飲み水として。


「ほら、ゆっくり飲んで」


「は、はい……」


 フローレは喉が渇いていたみたいで、袋に入れた分を結構飲んでいた。


「とりあえず、近くの村か町まで一緒に行った方が良いけれど……もう少し休んだ方が良いわね」


 ここで出来るのは本当に応急処置くらい。

 本格的に休んだりするんだったら、宿とかに行った方が最善。


「そんな……あたしなんて、グローリア様のためなら……」


「ダメよ。また倒れるかもしれないから」


 そういえば、まだあれがあったかな。

 私は乾いたパンを取り出す。まだカビは生えていないから、食べられる。

 カチカチに固まっているけれども、水を浸して少しでも柔らかくする。


「こんなものしかないけれど、食べられる?」


「良いんですか……?」


「うん、貴女の方が弱っているから」


 昨日から何も食べていないけれども、仕方ないよね。

 こっちもどこかで食料を調達しないといけないけれど……


「ありがとうございます……」


 ゆっくりとフローレはパンを食べていた。


「美味しい……」


 私に気を遣っているのか、それとも本当に美味しいのか分からないけれども、味わって食べているようだった。


「良かった」


 私は微笑みながらフローレを見る。

 食べ終わると、フローレに多少笑顔が戻ってきていた。

 それを見ていると、空腹でも安心する。


(本当は私だってお腹が空いているのに……ま、いっか。フローレが笑っているなら)


「グローリア様、ご一緒に旅をしてもよろしいでしょうか?」


「わ、私と?」


 確か彼女は私を追いかけてきたって言っていたけれども。

 本気で言っているのかしら。


「はい。もうここまで来て、戻ったら同じ事になりそうですし、グローリア様を一人にはさせたくありませんので」


「でもより大変になると思うけれど」


 あの森ですら大変だったのに、ここからより過酷になるのは確実なんだけれども。

 リリィみたいなのが出てきたら、すぐに死ぬことだって有り得るから。


「構いません。グローリア様とご一緒出来るなら」


 だた、フローレの目はさっきまでの弱々しいものではなかった。

 はっきりとした覚悟を持っているのを感じた。

 それに、彼女は一切嘘を言っていないと思う。何もポップアップが表示されていないから。


「……分かったわ。一緒に行きましょう」


「ありがとうございます!」


 こうしてフローレ・ザグレブが、最初の仲間になった。

 私としてはイケメンが仲間になって逆ハーのきっかけになってと思ったけれども、まあいいかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ