ここから始まる物語
村長の家を出ると、夕暮れの光が村を包んでいた。
赤く染まる屋根、ゆっくりと帰路につく村人達。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「あ、朝のあの子ね」
声を掛けてきたのは、襲われそうになった子供。
泣いていたけれども今は、笑っている。
この子の笑顔を守れたんだ私は。
「良いのよ」
「これ、あげる!」
渡されたのは、小さな花だった。
綺麗に咲いていて、飾りたいくらい。
「これは、こちらこそありがとう」
私は微笑み返して感謝を伝える。
「元気でいてね」
「うん!」
そう言うと、子供は帰っていった。
ほんの一日前まで、私は森で野宿をしていた。
それが今は、誰かの「ありがとう」を背中に感じて歩いている。
「……不思議ね」
思わず呟く。
「追放されたのに、少しだけ前より息がしやすいわ」
フローレが隣で小さく笑った。
「それは、グローリア様が”選んで進んでいる”からだと思います」
私は空を見上げる。
王都の方向は、もう見えない。
代わりに、森の向こうへ続く道があった。
魔王軍。
汚染された魔獣。
王都が知らない地方の現実。
そしてーーこの世界で、まだ救われていない人達。
「行きましょう、フローレ」
「はい。どこまでも」
追放された悪役令嬢は、まだ何物でもない。
でもーー
確かに、ここから物語は始まった。




