ツルイ村の村長
魔獣の死体が運びだされ、村の入り口に少しずつ静けさが戻ってきた頃だった。
子供は母親に抱きしめられ、震えながらも無事であることがはっきり分かる。
村人達の視線が、自然と私達へ集まっていた。
その中から、一人の老人が杖をついて前に出てくる。
白髪交じりの髭、背は低いが、目には確かな意志が宿っていた。
「あんたが、あの魔獣を止めた娘か」
低く、しかし落ち着いた声だった。
「はい」
私は一歩前に出て、背筋を伸ばす。
破れたドレスでも、ここでは姿勢が全てだ。
「私はグローリア・ルイーザ・ネウム。旅の途中です」
村人の間で、ざわりと空気が揺れた。
(やっぱり、”ネウム”の名、通るのね)
老人は一瞬だけ目を細め、すぐに頷いた。
「わしはこの村の長、ガルドだ。まずは、礼を言おう。あの子は、この村の宝だ」
そう言って、村長は深く頭を下げた。
「助けてくれて、ありがとう」
感謝された瞬間、胸の奥ではきゅっと締め付けられた。
王都では、一度も向けられなかった言葉。
「いえ、出来ることをしただけです」
隣で、フローレが小さく一礼する。
「この村は、最近おかしくなっていてな」
村長は周囲を見回しながら続けた。
「……村の奥から、ああいう”汚れた獣”が出るようになった。以前は、あんなものはいなかった」
私は思わず口を開く。
「魔王軍、ですか?」
「その名を知っているか。やはり、ただの旅人ではないな」
村長は深く息をついた。
「王都からの知らせは、ここまで届かん。だが、最近は行商人も減った。道で襲われたという話も増えている」
フローレが一歩前に出る。
「村の外で、角を持つ獣を見ました。魔力の流れも歪んでいました」
「やはりか……」
村長は杖を強く握る。
「正直に言おう。村は、次に来たら耐えられん。戦える者も少ない。王都に助けを求める手段もない」
そこで、村長は私をまっすぐに見た。
「グローリア殿。あんたは、この村をどう思う?」
一瞬、言葉に詰まる。
私はこの村の人間じゃない。
助けたからといって、責任を負う義務もない。
それでも。
「生きている場所だと思います」
私はそう答えた。
「守ろうとしている人がいて、泣く子供いて、見捨てる理由はありません」
村長は、しばらく私を見つめた後、ふっと笑った。
「そうか……なら、あんたは”悪い貴族”ではないな」
彼の言葉に、胸が少しだけ軽くなる。
「今日は、もう村の客人だ。食事も宿も、心配せんでいい」
そして低い声で付け加えた。
「もし、村を出るなら……森の先に行く前に、少し話を聞いていってほしい。あんた達の”次の道”に関わる話だ」
UIが静かに浮かび上がった。
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◆情報解放
【ツルイ村:村長ガルド】
新情報:
・魔王汚染獣の出現
・街道の断絶
・森の奥に異変あり
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(やっぱりね、世界は私を休ませてくれないのね)
でも、もう逃げるつもりはなかった。
「分かりました。お話、聞かせてください」
こうして私は、”追放された令嬢”としてではなく、”助けた者”として、村長の前に立っていた。




