緊急クエスト【村の子供を救出せよ】
宿を出ていって、土煙が出ている入り口へ。
木の柵が壊れている。
明らかに人の手で壊れたものではないのが分かった。
「そんな! 魔獣が……!」
「助けないといけないのに、身体が動かねぇ……」
村人や剣を持った男の人さえも、入り口付近で恐怖のまま動けないでいる。
そして、一番問題なのはーー
「なんということ……!」
「うわあぁん!」
子供がそのずっと先で泣いていた。
当然その場で動けないままで、どうやってもこっちに誘導すら出来ない。
王都の”私を断罪した人々”と違う、無力な人々。
でも私は、今度は見捨てない。
「このままじゃ、いけない!」
そして子供を狙っているであろう巨大な影がうねっていた。
同時にポップアップが出てくる。
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◆緊急クエスト発生
【村の子供を救出せよ】
制限時間:短
条件:子供の死亡→ゲームオーバー
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「……っ!」
ゲームオーバーという文字を見た瞬間、私に強い緊張感が生まれる。
私の死亡には繋がらないのかもしれない。
でも、何かが救えなくなるのは分かった。
「行かなきゃ!」
「はい!」
黒褐色の毛並み、鹿の角のような骨の枝、熊のような巨体。
口からは黒い瘴気が出ていて、角にひび割れた呪紋が。
それが子供へ向かって唸り声を上げて、地面を抉るように前脚を踏み込んだ。
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◆魔王汚染獣:ディア・ベア
◆敵の行動予測
【次:子供掴み→その場で噛み砕き】
優先対象:無防備なもの
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(まずい!)
私は走って子供の方へ。
「おい! 危ねえぞ!」
村人の声を無視して、そのまま走り続ける。
フローレも一緒に走っていた。
子供が振り返った瞬間、影が飛ぶ。
「風よ!!」
バシュッ!
横から叩きつけるような風が吹き、獣の巨体がわずかに流れる。
踏み込みが崩れ、捕獲寸前で地面に爪を削り付けた。
「フローレ、ナイス! でも下がって!」
「いえ、まだいきます!」
彼女の指先が震え、光が集まる。
「光よ、守りの灯を!」
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◆フローレ:光魔術『守りの初灯』
味方の防御力:+20%
痛覚軽減
対象:フローレ・子供
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暖かい光が身体を包み、恐怖よりも前に”守らなきゃ”という感情が前に出る。
「大丈夫だからね。あたし達が守るから」
フローレは子供を抱きしめて、落ち着かせていた。
ディア・ベアがこちらを睨む。
赤い瞳がーー標的を変えた。
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◆敵の行動予測
【次:首狙い噛み砕き】
【狙い(殺害優先):グローリア】
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(来る!)
突進の気配。
世界が一瞬だけ遅くなった気がした。
「フローレ、下がってろって言ったの!」
彼女はこっちに近づいてくる。
このままフローレに危害を加えさせるわけにはいかない。
「グローリア様、一人に戦わせません!」
でもフローレだって下がらなかった。
杖を構えた瞬間、巨大な影が目の前に迫る。
角が弾丸みたいに視界を裂き、牙が開いた。
(守らなきゃーー!)
ただそれだけだった。
「……っぁあああああ!!」
全力で前に踏み込む。
風が身体を押した。
いやーー私自身が押し出した。
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◆不明スキルが反応しました
『???』発動条件:感情臨界
効果:攻勢上昇/反応速度補正
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杖が獣の顔面に叩き込まれる。
風が爆ぜ、衝撃が走る。
耳鳴りがして、視界が狭まる。
ズドォン!!
「なにこれ!?」
自分でも叫んでいた。
心臓の鼓動がはっきりと感じられ、身体が熱くなっていく。
地面が揺れ、獣が横へ大きく弾き飛ぶ。
草を削り、土煙を上げて転がった。
「今です、グローリア様!」
フローレの声。
振り向かない。
もう分かってる。
獣が立ち上がる。
血走った目。
怒号のような咆哮。
再突進ーー
でも、もう遅い。
「倒れなさい!」
杖を振り下ろす。
風と衝撃が一つに重なった。
ズガァァァァン!!
ディア・ベアの身体がひしゃげ、後ろへ吹き飛び、そのまま崩れ落ちた。
爪が痙攣して、やがてーー動けなくなる。
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◆戦闘勝利
経験値獲得
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「守り切ったのね」
ウィンドウでディア・ベアに勝ったのが分かった。
そして追加で出てくる。
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◆クエスト達成
名声:+小
村との関係:友好
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(良かった……)
私は息を吐いた。
握っていた杖から、震えがようやく伝わってくる。
遠くで、子供の泣き声。
さっきまで大きな音と集中していたからか、聞こえなかった。
誰かが駆け寄る足音。
風が止み、静寂が戻る。
鳥がまた鳴き始めた。
それでも胸だけは、まだ熱く燃えていた。
「あんた、凄いな」
「君のおかげで、この子が助かったよ」
村人達が私に話しかける。
「私が……守る側になっているのね」
悪役令嬢だった。
それが完全に真逆。
そして、嫌じゃなかった。
ーーむしろ、少しだけ誇らしかった。
「はい。あなたは最初から、そんな人でしたよ」
フローレは涙目で笑っていた。




