ツルイ村の新しい朝
「ううん、気持ちが良い」
鳥の声で目を覚ましたけれども、ここ数日で一番目覚めが良かった。
柔らかい布の感触と、ほんのり暖かい空気。
目を開けると、木の天井が見えた。
(夢じゃない)
森じゃない、泥じゃない。
石畳でも宮殿でもない。
ただの村の、小さな宿の天井。
それでも、胸の奥がじんわり温かくなる。
「おはよう、世界」
小さく呟いた瞬間、視界に淡い青が差し込んだ。
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◆クエスト更新
【第二章:世界は止まらない】
推奨行動:村での情報収集
目的:この先へ進むための手掛かりを得よ
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「はいはい、分かってるわよ」
睡眠直前に出てきて、今度は寝起き。
寝起きにクエスト画面を見せてくる世界ってどうなのよ、と苦笑する。
テレビで見たドッキリで寝起きで行動させるっていうのがあったけれど、そのレベルじゃん。
だけど、嫌ではなかった。
私はゆっくり身体を起こす。
隣のベッドでは、フローレが既に支度を終えていた。
「おはようございます、グローリア様」
「フローレ、おはよう。早いのね」
私は眠ったままだったのに。
「旅人は朝が命ですから。それにーー」
少し照れたように笑っていた。
「今日から、きちんと”始めたい”んです」
その言葉に、胸が少しだけ熱くなった。
(ええ、そうね。逃げ場じゃなくて、”出発点”だもの)
ベッドから立ち上がり、深く息を吸い込んだ。
パンの匂い。スープの匂い。朝の生活の音。
ーー動いている世界の匂い。
「グローリア様、ドレスの修復が出来ました」
フローレは破れてしまった私のドレスを着られるくらいまで直していた。
かつて舞踏会で着ていたドレス、一部は破れて無くなっている部分があったのもあって、新しいものになっているようだった。
つぎはぎした跡はあるけれども、それすらも味になっている。
かつての悪役令嬢な私じゃなくて、新しい私を感じさせる。
「ありがとう! 本当に嬉しい!」
私は早速、このドレスを着てみることにした。
着心地は変わらない。
でも、新品を着ているようだった。
「ううん。あたしが出来るのはこれくらいですから」
「そんなことないって! 何倍も頼りになる」
これ以上のことも出来るのだから。
私よりもフローレの方が力になっている。
だからこそ、私も頑張らないと。
「じゃ、行きましょうか。ツルイ村、新しい一歩ね」
そう言いかけた、その時だった。
ドンッ!
突然、宿の下で大きな音が鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
「外だ! 外の柵が!」
叫び声。
走り回る足音。
緊張が一気に部屋まで駆け上がってくる。
フローレが私を見る。
私を頷く。
「行くわよ」
「もちろんです!」
部屋を出て、階段を駆け下りる。
宿屋の扉を開いた瞬間、村の入り口の方向から土煙が見えた。
人が集まり、慌てふためく声。
あの時、距離を置いていた村人達だけではなく、剣を持った男達も、必死に叫んでいる。
「魔獣だ! 子供が外に出ちまってる!!」
心臓が跳ねた。
(ああ、そうだーー)
世界は優しく待ってなんてくれない。
立ち止まる余裕もくれない。
でも。
「フローレ!」
「はい!」
私は一歩、前へ踏み出した。
悪役令嬢の頃の私なら、きっと関係ないって顔をしていた。
どうなってもいいと。
でも、今は違う。
子供を守らないと。
「今度は、あたしも守る側でいたいんです!」
ーー第二章。
追放令嬢は、ようやく”冒険者”として歩き出す。
私が、生きるために戦う。




