衛兵に蹴っ飛ばされて記憶を思い出しました
「申し訳ございません!」
「何をしているの? 無能ね、あなたは」
わたくしはぶつかってきた衛兵へ叱りつける。
彼はいつものように歩いていたかもしれないが、わたくしの邪魔をするなんて。
こんなに気を遣えないのかしら、この平民は。
「詫びとして、わたくしが乗ってきた馬車を掃除しなさい」
「で、ですが……」
まだ衛兵としての仕事があるからって言いたいのかしら。
そうよね、でもそんなのは受け入れない。
「いい? これは王太子であるフィリップ殿下の婚約者であり、公爵令嬢グローリア・ルイーザ・ネウムの命令よ」
「はい……! うっ!」
ぐずぐずしている衛兵へ蹴りを入れた。
防具のところだから怪我はしていないはず。わたくしなりの活よ。
慌てながら、彼は馬車が停めてある入り口へ向かっていった。
ただ、去っていく衛兵が、振り返りざまに一瞬だけ、底の方で煮えたぎるような眼差しを向けてきたことには、この時のわたくしは気づかなかった。
今日、わたくしは王宮へ来ているため、気分が高揚していたのもあったので。
「おほほ」
面白いわ。
わたくしが命令すれば、衛兵でさえ従う。
これも王となる殿下の婚約者であり、公爵令嬢であるわたくしだから出来るのよ。
「さて、そろそろ舞踏会が始まるわね」
王宮へやってきたのは、この舞踏会へ参加するため。
わたくしは殿下との婚約者だから、参加しないと。
「ああ、楽しみよ」
大広間に入ると、王都や周辺地域で暮らす貴族達が集まっていた。
王族もいて煌びやかな雰囲気を出している。
天井から吊られたシャンデリアが、無数の灯火を反射させて宝石の雨みたいにきらめき、磨き上げられた大理石の床には、踊るドレスの裾が波紋のような模様を描いていた。
「あら、エミリア嬢。貴女も呼ばれたのね」
微笑みながらわたくしに向けた茶色い髪の少女。
エミリア・ラグーサ。
彼女は二年ほど前から王都へやってきた。
教会の聖女候補として、人々に奉仕をしていて、誰からも愛されている。
「グローリア様、本日は楽しみましょう」
「もちろんよ」
わたくしも微笑み、今日の舞踏会が始まっていく。
貴族達はそれぞれペアを組んで、最初の舞踏に。
「グローリア嬢、よろしいかな?」
最初の曲、エリック殿下から踊りの誘いを受ける。
これは婚約者として当然のことであり、人々にアピールするため。
「殿下、喜んで」
わたくしは嬉しそうにしながら、踊っていく。
この曲はわたくしが何度も踊っている、得意なもの。わたくしは慣れた動きをして、人々を魅了させる。
「やはり君の動きは完璧だ」
「わたくしは殿下の婚約者ですのよ。これくらいは出来て当たり前よ」
やがてわたくしと殿下と踊る一曲目が終わる。
この夢の時間はあっという間に、終わろうとしていた。
「光栄でしたわ、殿下」
「こちらこそ、君のダンスは完璧だ」
すると殿下はエミリア嬢へと向かっていった。
何ですぐにそっちへ行くのかしら。
まだ始まったばかりなのに。
「エミリア嬢、踊ろうか」
「こちらこそ喜んで」
遠くでエミリア嬢が殿下と踊っていく。
結局、彼女と殿下は舞踏会が終わるまで、踊り続けていた。
婚約者であるわたくしよりも、人々から愛されているエミリア嬢と。
「近すぎないかしら」
わたくしは婚約者のはずよね。
なのになんであんな楽しそうに踊っているのかしら。
胸が少し痛む。
「動きが悪いわ、だから貴族でも立場が悪いのよ」
「申し訳ありません」
誤魔化すためにわたくしは、近くに居た子息と踊る。
でも殿下よりも踊り慣れていないのか、腹が立ってしまう。
「さて、そろそろ終わりですわね」
わたくしは殿下の話を聞いて、屋敷へ戻ろう。あの衛兵だって馬車の掃除を済ませているでしょうから。
そう思っていた。
「グローリア・ルイーザ・ネウム嬢」
「はい」
王族や貴族の面々が踊り煌めいていた舞踏会の終盤、わたくしはフィリップ殿下に名前を呼ばれた。
緊張は感じずに、殿下の前へ向かう。
これから何を宣言するのだろうか。
「グローリア嬢、そなたは公爵令嬢でありながら、様々な人物に対してその立場らしからぬ言動を行った」
「え?」
突然の事で、わたくしは呆けてしまう。
何を言っているのかしら。
どうしてこの場で言うの?
「答えよ。相違ないか?」
「間違いないかもしれませんわ」
先程もあの衛兵へはさっきまで馬車を磨かせていた。
言われてしまえば、正しいのだろう。
ただわたくしの立場では、それは多少許されるはず。
「そなたは余の婚約者として、相応しくないともいえるな」
「申し訳ありません。今後気をつけます」
頭を軽く下げて、謝罪を行う。
でも殿下の追及はそれだけで終わらなかった。
「だが、余が一番許せぬのは、彼女エミリア・ラグーサ嬢への悪行である。彼女に対する陰湿な行為を様々行った」
「は?」
続けて殿下が言ったのは、エミリア嬢に対するもの。
現在彼女は殿下の隣に立っている。わたくしを哀れむように見ながら。
でも、わたくしには身に覚えがない。確かに衛兵や平民に対する事は認めるが、エミリア嬢へは行っていない。
なのに何故?
「とぼけるな。余に報告があがっている、それにエミリア嬢からも告発があった」
やっていない事だけが、大きくなっている。
彼女がわたくしを告発?
「はい……わたしが邪魔だから、いじめをしていたのよ」
涙ぐみながら、わたくしをチラチラと見ている。
周囲の貴族達が一斉にわたくしを見ていた。
「違うわ! あなたには何も……」
「さらにはエミリア嬢を排除するべく、毒殺する計画を立てたであろう」
毒殺……
そんなつもりは一切無い。エミリア嬢を殺そうなんて、一言も思っていない。
「お待ちを。わたくしはそのような事は……」
「証拠はこれですわ」
するとエミリア嬢は小瓶を取り出した。
中には琥珀色の液体が入っている。
「これにはグローリア嬢の指紋もあった」
「見覚えがありませんわ!」
そんなもの、一切手に触れていない。
なのに指紋があるなんて。
「このままではわたし……グローリア様に殺されます……」
泣きながら周囲の同情を誘っていた。
もうわたくしに勝ち目など無い。
「無実よ! わたくしはエミリア嬢を排除するつもりなんてありませんわ!」
必死に叫ぶけれども、誰も信じない。
全員がエミリア嬢の味方だった。
「よってグローリア・ルイーザ・ネウム、そなたとの婚約を破棄する」
「お、お待ちください! わたくしは……」
焦りながら殿下へ懇願する。
そんな冤罪で、婚約を破棄されたくはなかった。
わたくしは殿下と結ばれたい。結ばれなきゃいけないのよ。
「グローリア様、見苦しい真似はおやめになって……」
まだ涙を流しながら、哀れむような表情をして、わたくしを見下しているような感じだった。
婚約者から断罪される者に墜ちたのだから、そうなのかもしれない。
「これらの行為は、公爵家であるネウム家の名誉を落とす行為であり、アレクサンダー公の同意もあるため、グローリア・ルイーザ・ネウムの爵位を剥奪する」
「殿下!?」
何故わたくし一人だけの爵位を剥奪するのか。
家単位であるはずなのに、個人だけというのがありえないのに。
「そなたは現時刻より平民となり、ネウム家の敷居を跨ぐ事は許されぬ」
殿下は平民っておっしゃっているが、実質は”法の外”に置かれるようなもの。
これはわたくしが、王都から追放されるといっても同然。
居住権が無くなるのだから。
「ほ、本当に父上が署名を……!?」
「ああ。ここに同意した書類がある」
そこには、”王家のグローリア・ルイーザ・ネウムに対する処分に一切の意義を申し立てません”という文に父上の署名が。
ここには処分内容が書かれていないけれど。
「お待ちを……わたくしから爵位を奪うなど、書かれていませんわ!」
「ああ。だが、”王家からの処分には意義を申し立てない”という旨に同意している。だから、爵位を奪う事も同意したようなものだ」
「そんな……」
何故、父上はそんな紙に署名したの…?
厳しくも誇り高い背中を、幼い頃からずっと追いかけてきた。
その父上が、わたくしを守るどころか、”処分”と書かれた紙切れ一枚に署名して終わりだなんて、信じたくなかった。
ただもうわたくしは、父上へ確認することは出来ない。
もう家への出入り禁止になったのだから。
「ご心配なさらないで。わたしはフィリップ殿下の事は、あなた以上に愛しますから」
その微笑みは、涙に濡れているはずなのに、どこか舞台役者じみて整いすぎているように見えて、胸の奥がざわついた。
さらに見下すようにしながら、エミリア嬢はわたくしに話していた。
これが下々の視点って言うの?
とても悔しくて、とても辛い。
わたくしはこんな事をしていたのね。
「お許しを……!」
爵位を剥奪されては、わたくしは生きていけない。王都での生活も出来ない。
あんなに侮辱していた下々の民へと成り下がるのだ。
そうなれば完全な破滅。
下手をすれば平民から殺される可能性だってある。そうじゃなくても、住む場所も無いだろうから、野垂れ死ぬだけ。
死刑に近い。
「婚約破棄も不服でありますが……せめて爵位の剥奪だけは……」
絶対に受け入れられない。
この際、殿下の婚約は破棄しても良い。
「もう決定している」
「わたくし、これから態度を入れ替えます! だから……」
地べたに膝をつきながら、殿下で頼み込む。逆にわたくしが涙を流し、ボロボロになっていた。
公爵令嬢にあるまじき姿だけれども、もうこうするしかない。
こうでもしないと、わたくしは完全な破滅しか無いのだから。
「……よかろう」
「殿下!」
冷たいながらも微笑んでくれた殿下。
一瞬だけ、わたくしに希望が出てきた。そう、一瞬だけ。
「では、王都を出て魔王を討伐すれば、爵位の剥奪は免除しよう」
「魔王の討伐!? で、ですが……」
殿下から言われた条件。
王国、いやわたくし達を滅ぼそうとしている魔王軍をわたくしだけで倒せと言っている。
国境の先では魔王軍が支配していて、既にこの王国の運命も脅かされようとしている状況。油断をすればすぐに王国は滅ぶだろう。
仮にパーティを組んだとしても、勝てる可能性は低い。
実質的に死刑宣告だろう。
爵位の剥奪も含めて、わたくしは実質的な死刑宣告をされたのだ。
「不服か?」
「わ、わたくしには……」
不可能。死にに行くようなもの。
せめて他のがあれば。
「拒否するなら、そなたは無条件で爵位剥奪となるがよろしいか?」
でも拒否権は無かった。
死ぬしか、わたくしには残されていないのだ。
「わ、分かりましたわ……!」
でもどちらにしても破滅なら、少しでも可能性がある方が良い。
わたくしは条件を受け入れることにした。
「では明日には王都を出ていってもらう。それまで、王都一の宿屋で準備をするが良い」
「明日ですの!?」
早すぎる。即追放とも言えるくらい。
「とはいえ何も無い状態では、辛いだろう。王室としてそなたに装備は支給しよう。それをで準備を整えよ」
「殿下……」
また涙が出てきてしまう。
こんな短時間で、わたくしは地獄に落とされたのだから。
「泣く暇があったら感謝したらどうです?」
エミリア嬢の言葉、今まで言ってきた事が返ってくるかのよう。
「はい……光栄です」
「そなたに、旅立ちの準備の時間と装備を与えるだけでも慈悲と言えるだろう」
全然慈悲なんかじゃない。
形だけのものにすぎない。だから、支給されるのも期待しない方が良い。
「わたくし……殿下の婚約者で幸せでしたわ」
一礼をして大広間を後にする。殿下は何も言わなかった。
貴族達が一斉にわたくしを見ながら。これが公爵令嬢として最後の場面なのかしら。
「殿下の命令通り、このまま宿屋へ行ってもらいます」
「今後ネウム邸へは戻れません」
「そうなのね……」
ただ、馬車には戻れずに衛兵に連れられて宿屋へ。
ほぼ軟禁状態の部屋で過ごすことになった。
とりあえず部屋は高いものだけれど、すぐ出ていく事になるだろう。
「殿下からの支給品だ。必ず持っていけ」
「魔王討伐の準備だとよ。ありがたく受け取れよ」
衛兵は乱暴な言い方で、支給品が入った袋を投げ入れた。
雑すぎる入れ方。ゴミでも入っているのかしら。
「とりあえず中身を確認しないと」
布袋の中には、
・ボロボロのマント
・”旅人用”と呼ぶには酷く劣化した靴
・武器なのか壊れた短剣
・重すぎる”旅人の杖”
・水を入れるための袋
・干からびたパン
確かにゴミと言っても良いもの。
これを『支給品』だと信じろというなら、よほどわたくしを笑いものにしたいらしい。
でも持っていかないと、面倒になる。
「今のわたくしは……」
舞踏会からそのままここに連れてこられた。
だから、
・身につけていたドレス
・付けていたアクセサリー
・ハンカチ
・意味の無くなった婚約指輪
・愛用の靴
・髪飾り
これしか持っていない。
お金は一切無く、無一文のまま王都から放り出されることになる。
「わたくしは、すぐに殺されるのかしら」
王都近辺には魔物は出ないけれども、少ししたら生息しているのは聞いている。
だから、こんな装備でわたくしはすぐに死ぬだろう。
わたくしを殺す気なら、いっそ素直に処刑台へ送ってほしいと思ってしまう。
「もう……戻れないのね」
エミリア嬢の冤罪で、わたくしは死ぬ事になる。
絶望しか残されていなかった。
でも舞踏会の疲労からか、ベッドで横になるとすぐに眠ってしまった。
こんなのもう味わえないわね。
「装備はちゃんと持ったか?」
「ええ……」
翌朝、曇天の王都。
わたくしは衛兵に連れられて、王都の城門へと向かっていた。
人々がわたくしを見て、ひそひそと噂話や腫れ物に触るような目で見ている。
しかも今までは挨拶をしてくれた人さえも、そそくさと行ってしまっていた。
「見送り感謝しますわ」
わたくしはそのまま歩いて城門を抜けようとした。
そうはいかなかった。
「よし、魔王倒すまで帰って来んな! オラァ!!」
衛兵はわたくしに蹴りを入れながら突き飛ばしたから。
この人物は昨日、わたくしが暴言を吐いた衛兵だ。
今までの恨みを込めて蹴ったのだろう。もうわたくしは実質公爵令嬢じゃないから。
「きゃっ!?」
わたくしは勢い余って、石畳に身体をぶつけてしまう。頭を守ろうとしたけれど、微妙に当たってしまった。
門から離れたため、同時に門は勢いよく閉じていった。
閉まる音がこの場に響く。
重い鉄のきしむ音が、まるでわたくしの世界に最後の幕を下ろす合図みたいに、冷たく鼓膜を打った。
「痛たっっ……」
頭を打った衝撃で、視界がぐらりと揺れた。
石畳の冷たさと、じんわりと滲む痛み。
ずきん、と頭の奥で何かが裂けた。
「アイツ、思いっきり蹴ってくるって……ちょっと待って!?」
視界がホワイトノイズに染まり、わたくしの中に、今まで体験したことのない”私”の記憶が流れ込んでくる。止まることなく、洪水のように押し寄せていた。
制服。教室。スマホ。ーーごく普通の高校生としての、ささやかな日常。
放課後の教室。友達とくだらない話をしながら、窓際でスマホをいじっていた。
画面いっぱいに宝石が散らばるような光。
その中央に、青いルビーのようなフォントで文字が浮かび上がった。
『瑠璃宮の輪舞曲 ~王子と聖女と悪役令嬢~』
(……そうだ。これ、私がハマっていた乙女ゲーム)
タイトルロゴが頭の中で見えた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
何故こんなのが思い出すんだろう。
どうして私はこの場所に居るの!?
おまけに……
「私、どうしてゲームの悪役令嬢になっているの!?」
口から思わず『私』が零れた。
明らかにこれは、遊んでいた乙女ゲームの悪役令嬢。
昨日の舞踏会、断罪の台詞、殿下とエミリアの立ち位置ーーどれも”ヒロインのハッピーーエンドルート”で見た断罪イベントそのままだ。
追放されるのは思い出したけれども、これって破滅しているじゃない。
もし早く思い出していれば破滅や婚約破棄を回避するルートだってあったのに、破滅してからだと意味がない。
既に公爵令嬢の身じゃないし。
住む場所も無くなっている。
スマホを握って笑っていた父も、公の執務室で署名していたアレクサンダー公も、どちらも、もう二度と頼ることは出来ないのだと思い知らされる。
救済なんて何も無い。
いや、戻れる方法は一つだけあった。
魔王を討伐しろ。
ただそれは無理ゲーをクリアしろと言われているようなもの。
裏を返せば、”死ね”と言っているようなものだけど。
でも他に方法は無い。
「だけどどうやって……あれ?」
視界に何かがある。
ーーーーーーーーーーー
◆プレイヤー情報
ーーーーーーーーーーー
名前:グローリア・ルイーザ・ネウム
転生前:野辺地花奏
種族:人間(転生者)
職業:悪役令嬢
階級:平民(※爵位剥奪)
称号:断罪された令嬢/追放者
レベル:1
HP:28/28
MP:12/12
力:4
知性:17
器用:7
運:-13
ーーーーーーーーーー
「ゲーム画面みたいじゃん」
今私に見えているのは、RPGであるようなUIみたいなもの。
つまり私自身が動いているのに、プレイヤーでもあるんだ。
これって、チートみたいな感じかな。
「うわぁ……弱い」
全然数値が低い。
おまけに、運がマイナス。
「運が-13って、これ……呪われてるんじゃないの?」
と、思わず画面を二度見した。
不幸な出来事でも続くというのかしら。もう起きているのかもしれないけれど。
「道具はどうなっているの?」
そう考えながらUIに目を向ける。
すると画面が変わった。
ーーーーーーーーーー
◆装備
ーーーーーーーーーー
武器:壊れた短剣(攻撃力+1)
防具:舞踏会ドレス(防御力+0)
靴:愛用品のヒール(移動速度-3)
マント:ボロマント(防御力+0)
アクセサリー:婚約指輪(効果なし)
愛用の髪飾り(防御力+1)
持ち物:乾いたパン
水袋(空)
旅人の杖(装備時:移動速度-5)
旅人用の靴(装備時:移動速度+0)
ハンカチ(魅力度+1)
ーーーーーーーーーー
「ゴミしかないじゃん」
本当にあの王子に、不要品のゴミを押しつけられたんだ。
装備を支給するって言って。私を廃品回収か何かと思ったのかな。
これじゃあ魔王を討伐せよっていうのが、実質死刑宣告じゃん。
さらに、画面の端に小さな項目が増えているのに気づく。
ーーーーーーーーーー
◆スキル
ーーーーーーーーーー
嘘検知
相手が嘘等をつくと、UIに注釈の文章が出る。
行動予測
敵が”次に何をしそうか”がぼんやり表示される。
世界地図インターフェース
メインシナリオの進行方向を簡易表示する
ーーーーーーーーーー
「……本当にチートまで付いているんだ」
頭の奥が、じんじんする。
それでもどうにか笑うしかなかった。
(……でも、このスキル。誰が、何のために私へ?)
笑いながら疑問を感じたけれど、誰も答えない。
貰えただけでも嬉しいと思うしかなかった。
「どうしようかな……」
王都へは戻れない。
城門は固く閉ざされている、
「ああ、どこへ行けばいいのよ」
今まで王都で生活していたから、多少の知識はあったとしても、どこへ行けば良いのか分からない。魔王軍の本拠地へ向かえば良いけれど。
「あっ、マップがある」
別のUIが出てきてこの辺りの地図が出てきた。さっきスキルであったね、これかな。
おまけに青い線まであって、ナビをしているみたい。
「これを進めば良いのかな?」
私はこうするしかなかった。
もしかしたら、この先に魔王が居るのかもしれないから。
他に道は分からないから、これを進むしか無い。
「どん底で記憶が戻るなんて……最悪すぎるわ」
せめて破滅の分岐点で記憶が戻りたかった。欲を言うなら、悪役令嬢として栄華を誇っているタイミングで戻ってほしかった。
でも零れたミルクを嘆いても仕方ないから、受け入れるしかない。
(……でも、追放されたってことはさ)
ふっと、前世・野辺地花奏としての感覚が顔を出す。
テスト勉強から現実逃避として、スマホの画面に向かって叫んでいた自分。
『このゲーム、グローリアに救済無いのマジで理不尽じゃない? 私だったら、こんなシナリオぶっ壊してやるのに』
今、その”私”がこの身体にいる。
逆に考えよう。
追放されたんだったら、より好き勝手やってしまえば良い。
王子ルートなんてもうこりごり。だったら推しでパーティ組んで、全員まとめて好感度MAXにしてやるんだから。
「もう! こうなったら、逆ハーレムを目指してやる! もういい、王子なんていらない! こうなったら、私がこのゲームのルールをぶっ壊してやる!」
だから、旅の途中でカッコいい男をパーティに入れてやる。
魔王を倒して、あのヒロインよりも幸せになってやるんだから。
私は意気込みながら王都を離れていったのだった




