CASE11 原沼宗太の場合
よくよく考えれば治せない病気など無い現代で、彼女を治せないなんておかしいじゃないか。200年前の医学ならまだしも、今は和成25年。手術すらほとんどしなくなった時代だ。
私は始めから間違えていたのだ。私がもっと『その時』の彼女を見ていれば、この手紙はすぐにでも見つかっただろう。私がもっと彼女と向き合っていれば、彼女を本当に苦しめていた本当の『病』から救うことができただろう。私が本当にすべきだったのは、こんなことではなかったのだ。私は彼女に自分の気持ちすら打ち明けていなかった。
以上のことから私はこう結論づけた。
『未来や過去を変えようとするよりも、今現在の他者との対話、コミュニケーション、会話が精神や肉体を健康に保つのに最も重要な要素である。たとえそれがどんなに困難に思えても、それを避けては未来を変えることはできないし、真の解決にはならない。』
これで私が見てきたものは全てだ。立体映像に視線を戻してくれ。ここまで読んでくれて有難う。
菊埜寛志
レポートを読み切って顔を上げると、立体映像の教授がそれを認識してまた喋りだした。
「そういうわけだ。そこで君にも腹を割って尋ねてみようと思う。正直面と向かって聞く勇気を私は最期まで出せなかった。答えはあの世で聞こうと思う。非現実的だと笑ってくれていい。君は本当はすべてを知っていたのではないかね? なんらかの方法で君は私がこうなる未来を知っていた。だから何も言わずに協力してくれていた。違うかね?」
僕はうんとも違うとも言わずに立体映像を見つめる。
「さて、最初の手紙に書いた頼みというのはこうだ。どうかこの資料ごと、装置を破棄してほしい。この装置を使っても意味が無いということはもう十二分に伝わったと思う。私は君に先の質問を聞く勇気を出せず、こういう形で聞くために装置を残しておくしかなかった。だからどうかこれを使うことなく、君が叩き壊してくれると信じている」
そう言うと教授の立体映像はプツンと音を立てて消えてしまった。取り残された僕は装置を強く握った。
「教授は僕の性格をよくわかってらっしゃる」
僕は白衣のポケットから古いレポートを取り出した。何度も読んでボロボロになったそれらは、僕が今読んだレポートと丸っきり同じ物だ。1つだけ違うのは、レポートの最後に汚い自分の字で走り書きしてある、『次の僕へ渡せ』という言葉だ。
高3の夏、僕はどの大学に進学するかで親と揉め、悩んでいた。心理学を学んで人の苦しみと間近に接して研究したいと言う僕に、両親は「もっとまともなところを選べ」と喚いた。昔から僕の親はそうだった。僕に「まともになれ」と怒鳴る。僕は、まともだ。
生きる者たちの苦しみに向き合ってこそ幸せというものを実感できる。それが人間の感情のバグであり美しさだ。僕は何も間違っていない。それを認めない両親や、綺麗事ばかりの周りの方がまともじゃない。
この古いレポートは、そんな両親をどう丸め込もうかと悩んでいた時、突然現れた『未来の僕』から預かった物だった。彼からすべて聞いて、レポートもその時に読んだ。そして僕は、教授の助手になった。
教授は僕に、過去の自分の行いを止めるよう言っているのだ。実に教授らしい、遠回しな言い方だ。しかし僕は教授の元には行かない。今しがた読んだ新しいレポートにペンを走らせ、迷わずに自分が悩んでいた頃に装置のカウンターをセットする。
「教授は1つ、僕に関して勘違いをしています。僕は確かにすべてを知っていて教授のそばに居ました。でもそれは協力したかったからじゃない」
装置の光が僕の体を包む。
「僕は教授を・・・・・・尊敬してるんです。教授が悩み、苦しむ姿はとても・・・・・・とても美しかった。だから『過去の僕たち』がしてきたことと同じことを、僕はしに行きますよ」
プラネタリウムの動かない星だけが僕の遠回しな告白を聞いて、僕の旅立ちを見守っていた。
完
最後まで読んでくださって有難うございました!
読んでみてどうだったか、よろしければ感想や評価などで教えてください。あなたからのリアクションが励みになります。
次作は、『星降る夜にJKは自由を叫ぶ』の予定です。お楽しみに!




